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藤原道長の「御堂関白記」はなぜ達筆ではないのか?「光る君へ」書道指導・根本知が解釈

シネマトゥデイ 映画情報 2024年8月11日 18時2分

 吉高由里子が紫式部(まひろ)役で主演を務める大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)。本作のもう一つの主役ともいえるのが書。「源氏物語」を執筆する紫式部をはじめ清少納言、藤原行成ら名だたる作家、歌人の書のシーンが注目を浴びているが、中でも異彩を放っているのが藤原道長(柄本佑)。道長の日記「御堂関白記」などでは達筆とは言えない独特な書風だが、その理由についてドラマで題字揮毫(きごう)および書道指導を務める根本知が解釈を語った。

 道長の書に関しては紫式部と異なり、「御堂関白記」という実物が残されているため同書物に基づいてつくっていったという根本。それでも問題があり、「『御堂関白記』は道長が左大臣になってからしたためたものなので、少年時代(三郎)はどうしようかと。そこで、『御堂関白記』ではいわゆる美しい字形ではないので、演出の方々ともお話しして下手な設定で行こうと。もともと道長の文字と演じる柄本佑さんの字が近かったこともあって、すんなりいきました(笑)。今日もお稽古したのですが、いまや道長の字を完コピしてます。これからも『御堂関白記』のシーンがたくさん出てきますけど、びっくりしますよ。もう、“めっちゃ『御堂関白記』!”ってなります(笑)。ただ、ご本人は“稽古してるのにいっこうに字がうまくならないよ”とボヤいていらっしゃいました。道長の字は書けるようになっているけど、美文字は書けるようにならないという不思議なことになってます(笑)」

 「書は人なり」とも言われるが、道長の書が達筆ではない理由を根本はこう分析する。

 「道長に関しては、経筒(※経典を納める器)もこの先に出てきます。実物も残っているんですけど、そこに書かれた字は下手ではないんです。 あと、公の文書や写経も実にうまい。にもかかわらず、なぜ『御堂関白記』はヘタなのかというと、それは道長が誰にも何も気を遣う必要がないぐらい、ありのままで生きられたからなのではないかと思うんです。字がうまくないと出世できない、うまくなってモテたいとか気を揉む必要がなく、自然体で堂々とされていたんだと思います。一方で、仏教に関わるものに関しても美しい字で書かれているのできっと、敬虔で真面目な方なんだろうと。出るとこに出たらしっかりする人なんだろうなという大器のような感じもあって、柄本さんもまさにそんな方です。かなりの哲学も持っていらっしゃるけど、誰に対しても謙虚ですし、でもリハーサルなどでは“こうしたらいいと思うんだよね”と的を射た意見をおっしゃられていて、本当に道長だなって思います」

 なお、根本は書道指導のみならず作中に登場する数々の書物の書を手掛けているが、なかでも心を砕いているのが「書の達人」と言われる藤原行成(渡辺大知)。とりわけ一条天皇(塩野瑛久)に献上した「古今和歌集」の写しは「作り物の中で一番緊張しました」とのこと。

 「助監督からも言われるんです。“なんで行成だけこんなに作るのが遅いんですか?”って。僕は書くのが速い方ですが、“ごめんなさい、行成に集中したいので今日は他の注文はお受けできません”っていうぐらい真剣に臨む。行成は僕にとっては“書の神様”なので。行成に関しては、識者が行成の字と鑑定した書物『伝藤原行成』の中の『関戸本古今集』を軸に作っていきました。渡辺大知さんは書道未経験とのことですが、驚くほど達筆な方なのでありがたかったです」

 また、藤原公任(町田啓太)に関しては「稿本北山抄 伝藤原公任」を参考に。「町田さんはそこまで書くシーンがないので、漢詩のシーンなどでは私が手元をやらせていただきました。公任は『稿本北山抄』にメモ字が残っているんですけど、やや雑に書かれていることもあってあまり美しくない。なんですけど町田さんご本人が麗しく、指導しながら彼を見て公任らしさとは何かなと考えたときにイメージが合うと思ったのが『太田切 伝藤原公任」。その中にある細身の品のいい漢字をもとに書きました」

 一方、劇中で主に“愚痴”として日記「小右記」を綴っているのが秋山竜次演じる藤原実資。秋山に関しても柄本と同様、本人が執筆しているという。

 「秋山さんは僕が手元の吹替えができないぐらいプリプリの手なので、監督陣ともお話しして“本人でいきましょう”というお話になったんですけど、秋山さんは早書きなんですよ。またご本人の字とも近かったので、お手本などは提示させていただいていますが指導通りにというより“自分らしく書いてほしい”と。実際に書けば自然に実資になる感じでした。清少納言を演じるファーストサマーウイカさんに関しては書道のご経験があり、僕が右上がりの文字をイメージしていたところ、偶然ウイカさんも右上がりの文字を書かれていて。だから今回はみなさん奇跡的なキャスティングなんですよね。制作統括の内田(ゆき)さんに“字で配役されたんですか?”とお聞きしたいぐらいです(笑)」と不思議な巡り合わせも指導のモチベーションになっているようだ。(編集部・石井百合子)

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