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米津玄師、新曲「がらくた」を生んだ体験とやさしさ「壊れていても構わない」伝えたかった言葉

シネマトゥデイ 映画情報 2024年8月24日 7時30分

 ドラマ「アンナチュラル」(2018)、「MIU404」(2020)と同じ世界線で物語が展開するオリジナル映画『ラストマイル』で、塚原あゆ子監督、脚本の野木亜紀子、プロデューサーの新井順子と3度目のタッグを組み、主題歌「がらくた」を書き下ろした米津玄師。「彼女たちが面白いものを作ろうとできる限りの力を尽くして、真摯にものづくりに向き合ってきたことが映画につながった。そこにご一緒させてもらえたことは、幸運としか言いようがありません」と感無量の面持ちを見せる。映画の余韻に寄り添うと共に、ひたむきに生きる人を温かく包み込むような1曲となった主題歌の制作秘話や、最強チームが送り届ける作品への共鳴について語った。(成田おり枝)

「一度、すべて作り直している」

 人気ドラマ「アンナチュラル」、「MIU404」とつながるシェアード・ユニバース映画となる本作は、主演に満島ひかりを迎えて謎の連続爆破事件を描くノンストップサスペンス。流通業界最大のイベント「ブラックフライデー」の前夜、世界的ショッピングサイトの関東センターから配送された段ボール箱の爆発が、日本中を恐怖に陥れる連続爆破事件へと発展していく。

 米津は、「アンナチュラル」には「Lemon」、「MIU404」には「感電」というドラマの世界観をすばらしく映し出した名曲を生み出してきた。シェアード・ユニバース・ムービーが作られると聞いた時の心境について、「感慨深いものがありました」と打ち明ける。

 「『ラストマイル』に『アンナチュラル』や『MIU404』のキャラクターが出てくると、『出た!』と思ったりして」とほほ笑みながら、「彼ら、彼女らが関係し合いながら物語が解決の道へと進んでいく展開には、長年のファンとしても、音楽として関わった身としても、感動的なものがありました。ドラマが人気となり、映画という形へとつながっていった。これって当たり前のことではないなと思うんです。塚原監督、野木さん、新井さんが真摯(しんし)にものづくりに向き合ってきたことが結実したよう」と最大限の敬意を表する。

 今回書き下ろした「がらくた」は、製作チームからどのような要望を受けて誕生させたものなのだろうか。米津は「彼女たちの作品は、爽快なエンタメでありながら、根っこには社会問題などが明確に横たわっている。ともすれば暗く重たいものになってしまうかもしれないけれど、塚原監督が『ポップコーンムービーでありたい』とおっしゃっていたことはすごく覚えています」と回想。その上で、本作の主人公で、「取り扱う荷物に爆発物が潜んでいるかもしれない」という危機に直面する巨大物流倉庫のセンター長・舟渡エレナ(満島)と、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)の関係性を想起しながら、曲作りに励んだと語る。

 「一度作ったものを提出させていただいたところ、『これではない』という判断で」と再チャレンジが必要だったと明かした米津。「最初に作っていたのは、低いキーで歌い、なおかつ縦に乗れるようなダンスビートの曲でした。どこか都会的でクールな側面のあるもので、個人的にはこの映画に合うものだと思って提出をして。それが違うとなると『どうしようかな』と空中を見つめるような瞬間がありました」と柔らかな笑顔をのぞかせるが、それもチームでものづくりをする醍醐味だという。すべて作り直したことで「映画に合わせた曲を作ろうとしつつ、同時に自分の実体験や周囲で起きていた出来事が色濃く反映された曲になった気がしています。提出したところ、『これですね』という返事をいただきました」と道のりを振り返る。

楽曲を生んだ思い出

 完成したのは、傷つき、どこか壊れてしまった人に寄り添い、壊れていても構わないから「僕のそばで生きていてよ」と語りかけるやさしい楽曲だ。次第に明らかとなる劇中の登場人物たちの痛みだけではなく、日々を頑張って生きる人々の背中にそっと、温かく触れるような曲でもある。

 米津は、曲作りをしながらある友人を思い浮かべていたという。「以前、友だちが精神的にまいってしまったことがあって。その当時、会話をしたことがとても記憶に残っています。友だちは『自分は壊れていない』ということを繰り返し言っていて。それをみなまでは否定せずに聞いていたんですが、家に帰ってからもいろいろと考えて、ふと『壊れていてはいけないのだろうか』と思ったりして。確かに、『壊れている』ということを認めてその烙印を押されてしまったら、周囲から冷たい目線を向けられてしまうということも想像に難くないので、『自分は壊れていない』と言いたくなる切実な感情もとてもよくわかります。でも、果たしてこの世に壊れていない人間がいるのだろうかと考えた時に、そんな人は一人もいないなと思った。みんなどこかしら壊れているし、ノーミスで完璧に生きている人なんていない。誰もが壊れている部分を抱えて生きているわけだから、友だちにも『壊れていてもいいじゃないか』と言ってやれたらよかったのかなと強く思った。そういった経験と、映画を観た時の感覚をかき混ぜて出来上がったのが『がらくた』です」。

 さらに「『壊れている』と呼ぶかどうかはわからないけれど、自分にも傷がついて戻らないものもある」とも。「子どもの頃から、周囲に馴染めないことがあると『自分がどこか間違っているんだ』と思うタイプでした。大人になるにつれてだいぶ和らいできましたが、そうやって生きていた記憶を思い返しながら、曲に向き合っていました」と実感が込められているからこそ、またより深い味わいと思いやりの伝わる曲になっているのだろう。

なぜ米津玄師の解像度は高い?

 「Lemon」は、死者の声に耳を傾け、彼らに思いを馳せる「アンナチュラル」の登場人物の心情にぴたりと重なる。「感電」を聴けば、不条理な事件を目の当たりにしながらも、手を取り合って解決のために駆け抜ける刑事たちの姿が思い浮かんでくる。米津の手がける主題歌は、SNSなどでも「作品への解釈と解像度が高すぎる」という声が上がるほど、その世界観を見事に表現している。

 そういった評価を受けることについて「どちらの作品でも曲を本当に大切に扱っていただいて、考え抜かれた良い部分で流していただいた。ドラマサイドの手腕が大きいと思います」と感謝した米津は、「音楽ってちょっとずるいところがあって。多様な捉え方ができるものなので、極論として、痛烈なワンフレーズがあって、それが相手に伝わればいいようなところがある。あとは、皆が自由に想像したり、足りない部分を補完してくれるので」とにっこり。「もちろんそこには、『納得いくものしか出さない』という気持ちがあります」という熱意が製作陣と響き合うことで、観る者の想像や感情までを引き出す楽曲が生まれている。

 塚原&野木&新井チームの作品は、今の社会を見つめながら、その歪みの中で孤独を感じたり、もがきながら生きている市井の人々に光を当てている。『ラストマイル』でも心を込めて仕事に励みながらも、道に迷ってしまう人たちの姿が胸に迫る。

 塚原&野木&新井チームの作品に取り組む姿勢について、米津は「とても誠実」だと印象を口にし、「『ラストマイル』もポップコーンムービーとしての側面を持ちつつ、人々のやりきれなさのようなものをしっかりと描いている。生きているとどうしても割り切れないことや、うまくいかないこと、自分ではコントロールしきれないようなことに直面するもの。エンタメだとしてもそういったものを直視し続けて画に残すというのはとても誠実で、同時に体力のいることだと感じます。純粋にリスペクトしていますし、ものを作る人間として見習うべきところだなと思っています」とまっすぐな瞳を見せる。孤独や喪失感にも目を向けるというのは、米津の楽曲にも通じるもののように感じる。米津は「共通している部分かもしれません」とうなずき、「音楽を作る上では、割り切れないものや後ろ暗いものを通さないと、どうしても信用ならないところがあって。パッと光輝くものがあるとすると必ずそこには影ができるし、影があるからこそ、そこに強い光があるんだと実感できる。その両面を残しておきたいなと思っています」と語った。

アルバム「LOST CORNER」は「がらくた」「地球儀」「M八七」「さよーならまたいつか!」「KICK BACK」など全20曲。
「米津玄師 2025 TOUR / JUNK」開催
映画『ラストマイル』は全国東宝系にて公開中

【関連情報】
米津玄師オフィシャルサイト
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