横浜流星と藤井道人監督がタッグを組んだ新作映画『正体』の撮影が都内スタジオで行われ(2024年2月9日)、主演の横浜が、SixTONESの森本慎太郎、および山田孝之らと対峙(たいじ)する緊張感あふれるシーンの様子が報道陣に公開された。
染井為人の小説「正体」を映画化した本作は、5つの顔を持つ指名手配犯・鏑木(横浜)の逃亡劇を描いたサスペンス映画。488日にわたる警察からの間一髪の逃亡劇を繰り広げる鏑木とは凶悪犯なのか、無実の青年なのか……。
2018年公開の映画『青の帰り道』での、7人の若者が繰り広げる群像劇を見事にまとめ上げた藤井監督の手腕に着目した製作陣のラブコールにより実現した本作。藤井監督が本作のオファーを受けたのは、彼の代表作である『ヤクザと家族 The Family』や『余命10年』が公開される前のことだったという。「実は『青の帰り道』(2018年公開)で流星と出会ってから、広告やミュージックビデオで一緒に仕事をしていました。その時からオリジナルの企画で一緒にできないかと考えていたんですが、僕らもまだそこまで売れていない時代だったので成立しなかった。そんな時に(プロデューサーの)水木さんから『正体』に興味ないですかと言われました。これが僕と流星がやりたかった題材にものすごく近かった。ただ河村光庸と出会ってしまい、Netflix版『新聞記者』や『ヴィレッジ』を先にやることになったために、時間がかかってしまいましたが、本来はこの作品を僕と流星にとっての最初の長編映画タッグ作にしたいという思いがあった」と語る藤井監督。
だが時間がかかったがゆえに「お互いのこともほとんど知り尽くしているという関係性は、最終形態に近いぐらい」に熟成していると語る藤井監督。この日の監督取材中も、横浜がフラッと取材場所に立ち寄り、「取材、よろしくお願いします!」と報道陣にあいさつするなど、藤井監督との良好な関係性が感じられた。
そしてその“共犯関係”は原作者の染井為人とも共有したとのことで、横浜と藤井監督を交えて食事をした際にも「僕は藤井さんの映画、そして横浜さんの映画をすごく観てきていますが、おそらく考えてること、感じてるものがすごく近いと思う。世代も近いので、楽しみです」と言われたことがあったという。
本作の主要な登場人物は、身寄りのない鏑木のことを気にかけてくれる編集者の沙耶香(吉岡里帆)、ブラックな労働環境の中で友情を育んでいく日雇い労働者の和也(森本慎太郎)、介護施設で働く同僚の鏑木にほのかなあこがれを抱く舞(山田杏奈)、そして警察組織の論理に葛藤を抱きながらも、それでも職務に忠実であろうと鏑木を執拗(しつよう)に追い続ける刑事の又貫(山田孝之)。彼らが語る鏑木像はそれぞれが異なったものであり、それゆえに捜査は混迷を極めていく……。
この日、報道陣に披露されたのは、鏑木が大阪に潜伏中、日雇い労働者の同僚として一緒に働いていた和也(森本)と面会室で対峙(たいじ)するシーン。そして同じく面会室で刑事の又貫と対峙(たいじ)するシーンだ。藤井組の撮影現場を見学して気付くのは、撮影現場の雰囲気が非常に静かだということ、そして若いスタッフが多いということ。特にこの日は役者同士の芝居をぶつけ合う緊迫感あふれるシーンだったということもあり、それがより強く感じられたのかもしれない。
そのことについて「いつもあんな感じですよ」という藤井監督。「みんな目的があって、役割があるから、あまりしゃべってる暇がないというか。現場をご覧になっていただいて気付いたと思うのですが、20代、30代がメインのチームなので、怒鳴り声がない。みんなが目的意識を持ってれば怒鳴ることもないし、みんなが淡々とやっているのが心地いいというか。むしろ僕が一番しゃべってるくらい。みんな早く帰りたいし、押すのは嫌ですからね」と笑ってみせた。
撮影自体は2023年から今年にかけて、時期を2つに分けて実施された。夏シーンは2023年の7月頭にクランクイン、8月頭にクランクアップ。そして冬シーンは、2024年1月下旬にクランクイン、2月下旬クランクアップというスケジュールとなった。藤井監督も「やはりこれだけ著名な俳優をそれだけの期間拘束するって、プロデュース面からするとかなりハードルが高いんですが、そういうことをやってでも、撮りたいものを大事にしています。その時期にしかできない芝居はあると思うんですよね。時期を経て、髪型が変わったり、体形が変わったり、そういうことが大事だと思うので、それをやりたいというのは最初から話していましたし、それが画面に出ているので、無駄じゃなかったと思います」と語った。主要キャストの吉岡里帆、森本慎太郎、山田杏奈らも「監督に細かく演出してもらえれるのがうれしい。こういう撮影現場はなかなかない」といった感想を漏らしていたという。
死刑囚が逃亡するという物語であることから、「本当に“横浜流星七変化”じゃないですが、彼がさまざまな姿・人格を変わっていろんな人に会っていくという話なので、いろいろな流星の姿が見られるし、その一つ一つの精度というか、その人になりきる力が圧倒的にすごくなっている。今回は本当に楽しく撮らせてもらってるというか、まわりがモニターを見ながら『やっぱり横浜流星すごい』と言っているのを、横で『でしょ』『うん、知ってる』と思いながら見ています」と笑いながら語った。
それゆえ「今回、新たに発見した横浜流星の顔は?」という質問にも「いや、全部知っているんで」と笑ってみせた藤井監督。「流星に関しては脚本づくりのときから一緒に作るタイプなんで。彼自身がどれだけ素晴らしいパフォーマンスをしてくれるかというのがわかっている分、一緒に練り上げていける。ほぼ僕は1回でOKは出さないんですけど、お互いが妥協しないまま、オッケーテイクを導き出していくようにしている」とのことで、横浜にだけは演出のアプローチがまったく違っているのだという。「やはりほかの俳優には感情の話をよくするんです。でも流星とはもうそこは終わっているんで。今、横で何ミリだから、その表現域じゃ伝わらないよとか。そっちの絵は今使わないから、間をずらしてくれとか。結構テクニカルなことまで共有できる。そういう風にできるのは多分、流星だけですね」と全幅の信頼を寄せていることを明かした。
そんな本作の手応えについて藤井監督は「僕と流星とで最高のエンタメをつくれたと思う。全国の人たちからこれは見た方がいいよ、めちゃくちゃ面白いからと言ってもらえるような、楽しんで観ていただけるものをつくれたという自信があります」と力強く語った。(取材・文:壬生智裕)
映画『正体』は11月29日より公開
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