マイケル・グレイシー監督の『グレイテスト・ショーマン』(2017)以来となる劇映画『ベター・マン(原題) / Better Man』が第49回トロント国際映画祭で上映された。イギリスのポップスター、ロビー・ウィリアムスの伝記ミュージカル映画だが、ロビーを全編を通して文字通り“猿”として描くという大胆なアプローチが取られている。
歌手としての成功を望むも夢破れた父と過ごした幼少期は、ロビーに“何者にもなれないこと”を極度に恐れさせ、自己肯定感の低さを植え付けた。本作では父との複雑な関係、十代でオーディションに合格してポップグループ、テイク・ザットのメンバーとしてスターダムにのし上がり、グループを追われてからはソロとして活躍、その一方で酒と薬に溺れる彼の転落と再起を描く。エルトン・ジョンの伝記ミュージカル『ロケットマン』×『猿の惑星』といった趣だ。
はっきり言ってしまえばよくある話なのだが、ロビーを猿として描写するという選択は効果的だった。これはインタビューでロビーが自身のことを「パフォーマンスする猿」のように感じていると語ったところから来ており、ロビーが一人だけ猿として映し出されることで、彼の自己肯定感の低さと自己認識の残酷なまでの高さを観客に絶えず意識させる。それだけに、彼が自分自身とある意味折り合いをつけるさまは胸を打つ。声を当てたのはロビー本人であり、名曲の数々と、グレイシー監督ならではのMV的な工夫を凝らした大規模なミュージカルシーンも楽しめる。(編集部・市川遥)
第49回トロント国際映画祭は現地時間15日まで開催
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