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【エミー賞総評】「SHOGUN 将軍」日本語セリフ7割の時代劇、ハリウッドで歴史的快挙 胸が熱くなる名スピーチの数々

シネマトゥデイ 映画情報 2024年9月16日 15時22分

 期待は、裏切られなかった。真田広之が主演&プロデューサーを務めたドラマ「SHOGUN 将軍」が、第76回プライムタイム・エミー賞のドラマシリーズ部門で作品賞、主演男優賞(真田)、主演女優賞(アンナ・サワイ)、監督賞(フレデリック・E・O・トーイ)を受賞。先週発表されたクリエイティブ・アーツ・エミー賞でも14部門を獲得しており、合計18部門での受賞という、他作品を大きく引き離した歴史的快挙を達成した。せりふの7割が日本語の時代劇が、ここまで受け入れられたのは画期的だ。(文/猿渡由紀)

 主要4部門で「SHOGUN 将軍」がライバルを制することは、アワード専門家が予測していたこと。それでも現実となった瞬間は特別だ。主演男優賞(ドラマシリーズ)の発表で自分の名前が読み上げられると、真田は、落ち着いた中にも感激を隠せなかった。

 舞台に上がり、プレゼンターのスティーヴン・ユァンからエミー像を手渡された真田は、英語で「ありがとうございます。とてつもない光栄です」と投票してくれた人々、制作のFX、ディズニー、Hulu、キャストとクルーに感謝の言葉を贈った。さらに「これは東洋と西洋がお互いに敬意を持ちながら手をつなげる夢のプロジェクトでした。一緒に力を合わせるとミラクルが起きるのだということ、より良い未来を築けるのだということを、『SHOGUN 将軍』は教えてくれました」とも続けた。真田がスピーチをしている間、共演の平岳大が涙していたのも印象的だった。平と浅野忠信は助演男優賞(ドラマシリーズ)に候補入りしていたが、受賞したのは「ザ・モーニングショー」のビリー・クラダップだった。

 一方、サワイは、名前が呼ばれた途端に涙。ハンカチで目を押さえながら舞台に上がる様子には、同部門のライバルで、受賞歴のあるジェニファー・アニストンも心を動かされていた。だが、マイクの前に立つと、サワイは「私の名前が呼ばれる前から私は泣いていたんです」と釈明。真田に対しては「私のような人に扉を開いてくれた」、劇中で恋のお相手を演じたコズモ・ジャーヴァスに対しては「最も誠実で恐れ知らずな俳優。あなたのおかげで私は120%の演技をすることができた」と感謝。最後は「これは、見返りを期待することなく、他人のお手本となることをし続けるすべての女性のためのものです」と締めくくった。

 作品賞の受賞スピーチでマイクを握ったショーランナーのジャスティン・マークスは、「すごくお金のかかる、字幕付きの日本の時代劇にゴーサインを出してくれた」とディズニー、FX、Huluに感謝。「なぜゴーサインをしてくれたのかわかりませんが、とにかくありがとうございます」と続けた。また、このドラマは言語の違いで何かが失われることではなく、何かを発見されることを伝えるものだとも述べている。「最後はヒロさん(真田)に語ってもらいましょう」と言われ、再びマイクの前に立った真田は、今度は日本語で「これまで時代劇を継承して、支えてきてくださったすべての方々、そして監督や諸先生方に、心より御礼申し上げます。あなた方から受け継いだ情熱と夢は、海を渡り、国境を越えました」とスピーチした。日本人としては胸が熱くなる瞬間だった。

 「SHOGUN 将軍」の次に多いノミネート数を獲得していたのは、コメディーシリーズ部門の「一流シェフのファミリーレストラン」。この作品も主演男優賞(ジェレミー・アレン・ホワイト)、助演男優賞(エボン・モス=バカラック)、助演女優賞(ライザ・コロン=ザヤス)、監督賞(クリストファー・ストーラー)で受賞。だが、確実と思われていた作品賞を逃したのは、今回最大のサプライズだったと言える。この部門を受賞したのは、ジーン・スマート主演の「ハックス(原題) / Hacks」で、主演女優賞と脚本賞も受賞している。

 ほかに大健闘したのは、Netflixのミニシリーズ「私のトナカイちゃん」。候補入りしていた作品賞、主演男優賞、助演女優賞、脚本賞の4部門すべてで受賞した。ストーカーに悩まされ、業界のパワフルな人物に搾取された自らの暗い過去を脚本にし、主演も務めたリチャード・ガットは、作品部門の受賞スピーチで「これは有名俳優が誰も出ない、既存のIPがあるわけでもない作品。このように、無難な域にとどまらず、リスクを取ってほしい」とスタジオに呼びかけた。

 ドナルド・トランプが初めて大統領選に立候補して以来、ハリウッドの授賞式番組は政治色が強いと指摘されてきたが、今回は大統領選の年であるにもかかわらず、控えめ。それでもちらほらとはあった。

 たとえば、プレゼンターとして舞台に立ったキャンディス・バーゲン。1980年代末から1990年代にかけて放映されたコメディー番組「TVキャスター マーフィ・ブラウン」で、バーゲン演じる主人公は、妊娠し、シングルマザーとして子供を育てると決めるのだが、当時ブッシュの副大統領だったダン・クエールはそれを強く批判した。その時を振り返り、バーゲンは「時代は変わりましたね。共和党の大統領候補は、もう子供を生もうとする女性を攻撃しないのですから」と言い、最後に「ニャー」と猫の鳴き声をしたのだ。これはもちろんJ・D・ヴァンスへの当てつけで、会場からは大きな拍手が上がった。

 司会を務めたユージーン・レヴィとダン・レヴィの親子は好感度があり、時間が過度に延長することもなかった今回のエミーは、全体的に成功だったと思われる。もちろん重要なのは視聴率。それは明日判明する。

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