インディーズ映画界まさかのロングランヒット作『野球どアホウ未亡人』の東京で最後にして一度きりの「応援<ツッコミ>上映」が、23日に池袋の新文芸坐で行われた。スクリーンで繰り広げられる数々の奇想天外な出来事に、観客からは容赦ないツッコミが次々と寄せられるなど、大盛り上がりとなった。この日の上映には森山みつき、藤田健彦、工藤潤矢、小野峻志監督が来場した。
本作は、野球の才能を見いだされた主婦の熱き戦いを、昭和のスポ根マンガと、ほのかなエロスの要素を交えて描きだした異色作。草野球チーム「多摩川メッツ」の監督である重野(藤田)に野球の才能を見いだされた夏子(森山)は、最愛の夫が残した借金を返済するために草野球の投手を務めることになるが、重野からの激しい特訓を受けるうちに、貞淑な妻であった夏子は、ごく普通の主婦としての生活に終わりを告げ、次第に野球の快楽性にとりつかれていく……。
昨年夏に“インディーズの聖地”と名高い池袋のシネマ・ロサで上映されるや、超低予算であり、そのツッコミどころ満載の内容から“令和いちくだらない野球映画”との口コミがSNSを中心に広がり、カルト的な人気を獲得。その上映規模は全国へと拡大したが、その中でも愛知県の刈谷日劇では、熱心なスタッフによる宣伝活動やイベントなどが執り行われるなど、本作を熱烈にバックアップ。およそ1年間にわたる異例のロングラン上映を敢行してきた同館も、いよいよ9月26日が最終上映となるという。
そんな本作のDVD発売決定を記念して、東京では最後にして一度きりとなる、応援<ツッコミ>上映イベントを実施。会場には本作を愛する大勢のファンに加え、初めて本作を観るという観客も多数来場。小野監督も「発声可能上映なので、セリフが聞き取りづらいかもしれませんが、聞き取れなかったところは後でDVDを買っていただいて確認してください」とちゃっかりアピールすると、「大丈夫!」「買った!」という返答が。「皆さん、ここは(新文芸坐で行われ好評を博した、映像にあわせて天井と壁のライトが点灯する)『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』のライティング上映ではありません。『野球どアホウ未亡人』の応援ツッコミ上映ですからね」と念を押す小野監督に会場は大爆笑。
まずは森山が「映画上映中の発声・応援・ヤジ・いずれもオッケーです。ただし、役者本人への誹謗(ひぼう)中傷はお控えください。ただし(監督の)小野さん、(脚本の)堀さんに対してはオッケーです」などと応援上映の心得を伝授し会場は大笑い。その後、工藤からの「それでは関東の皆さん、プレイボール!」という合図とともに、上映がはじまった。
客席後方にはキャスト、スタッフが陣取り、一緒に映画を応援<ツッコミ>しながら鑑賞すると、さっそく野球の試合さながらに「声を出していこう!」という声が。映画冒頭、“にっかつロマンポルノ”のパロディー的な、N(にっかつ)ならぬ「K(かぶけん)」のロゴが登場すると会場は「ありがとう!」の大喝采。
そして冒頭、夏子の夫が心酔し、後に卑劣な手で夏子を野球の道に引きずり込むこととなる監督・重野が登場すると、客席からは「帰れ!」の大合唱。その何を考えているのかわからない重野の謎の言動がさく裂するたびに、そして夏子を野球漬けにしようと画策するシーンが登場するたびにヤジが飛び交い、ある意味で大人気の重野だった。
一方、森山が演じる夏子が登場するたびに「かわいい!」など声援が飛び交い、某野球マンガに登場する養成ギプスのようなもので特訓するシーンでは「がんばれ!」と力強い応援の声が寄せられるなど、上映は終始大盛り上がり。クライマックスでは、観客同士が自然と「お疲れさま!」「ありがとう!」「いい映画だった!」と健闘をたたえあっていた。
上映後、再びステージに立った小野監督は「この映画はシネマ・ロサで上映されていたのに、なんで今日は新文芸坐さんでの上映なんですか?」という質問に、大ヒット中の『侍タイムスリッパー』を引き合いに「それに比べて、去年のポテンヒットした映画なんてね。向こうは場外ホームランでも、こっちはようやく最後の打席に立ったくらい」と自虐的に語るも、客席からは「こっちもホームランだよ!」と声援が。
また、劇中で夏子を熱演した森山は「これがわたしの初主演映画なんですよ」と切り出すと、「シネマ・ロサで公開されてから1年以上がたっているんですよね。そして、1年以上続けて上映してくれている劇場が愛知にあって。本当にうれしいです。皆さんにも本当に感謝しています」と現在の素直な心境を明かすと、大きな拍手が起こった。
そんな一作を手掛けた小野監督は、次回作についてジョークを飛ばしながらも「企画はいろいろと考えておりますが、まだDVDが出たばかりなので、応援よろしくお願いします」と会場に呼びかけていた。(取材・文:壬生智裕)
映画『野球どアホウ未亡人』DVDは発売中
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