1980年代、女子プロレス界という枠を超えて活躍したクラッシュ・ギャルズの長与千種とライオネス飛鳥。絶大な人気の彼女たちの前に立ちはだかった悪役レスラー・ダンプ松本の誕生秘話を描いたNetflixシリーズ「極悪女王」が配信中だ。長与はそのダンプと同期で、もともとは劣等生として互いに励まし合う親友同士だったため、ダンプがヒールユニットの極悪同盟を結成し、敵味方に分かれてからは二人の関係は複雑なものとなった。劇中には長与がダンプとの死闘で流血し、丸刈りになるハードなシーンも多々登場する。心身ともに覚悟の伴う難役に挑んだ唐田えりかが、その裏側を語った。
長与千種の生きざまに共感
劇中に登場するすべての女子プロレスラーがオーディションで選定された本作。唐田自身、休養期間中で複雑な心境だったなか、オーディションの話を聞いたという。
「マネージャーさんからお話を聞いたときは、お仕事がほとんどなかった時期でした。“長与千種さんが合ってると思う”と言われて、自分なりにクラッシュ・ギャルズさんのことや長与さんのことも調べたんです。そのとき過去のインタビューなどを読み、強くいなければいけないと自分を鼓舞して立ち上がる姿にとても共感して、演じたいという気持ちが強くなっていったんです」
長与は、デビュー前から優等生だったライオネス飛鳥とは異なり、もとは劣等生。しかしのちに歌手デビューも果たし、CM、歌番組、連続ドラマ、コンサートとプロレスの枠を超えたアイドル的存在に上り詰める。そして、ダンプ松本とは親友でありながらも組織の思惑から憎み合い、対峙していく。オーディションを勝ち抜き長与千種の役を得たものの、モデルとしても活動している唐田にとって、役を演じる上での体づくりという難題が待ち受けていた。
「劇中でも長与千種さんは特に試合数が多かったんです。しかもベビーフェイス側だったので、受け身をしっかりとれるようにならないといけない。練習はしたものの、本番になるとみんなアドレナリンが出るので、思わぬハプニングがあるかもしれない。そのためにも、体づくりはとにかく時間をかけ、しっかり行いました」
「この仕事を続けていいのか」悩んだ時期に出会えた作品
特に大変だったのは体重を増やすこと。唐田は「とにかくひたすら食べまくりました」と振り返ると「ずっと動かずにいれば、もう少しスムーズだったと思うのですが、週に3回体づくりのトレーニング、週2でプロレス練習というスケジュールだったので、いくら食べても運動でカロリーが消費されてしまうんです」と苦笑い。
プロレスラーの体形にしていきながらの増量は予想以上に難しく、「もう食べることが面倒くさいと思う時期もありました」。最終的には10キロ程度の増量に成功したが、その際も栄養士やトレーナーによる食事の管理、月に1回の血液検査などのサポートを受け、“戦える体”を作り上げた。
劇中では激しい試合が繰り広げられる。特に、ゆりやんレトリィバァ演じるダンプ松本と長与の「敗者髪切りデスマッチ」は1985年8月に実際に行われた伝説的な試合で、本作の見せ場の一つ。ダンプに丸刈りにされる際にはカツラを使う選択肢も与えられるなか、唐田は髪を切ることを選んだ。
その理由について唐田は「この仕事を続けていいのかな……と思っていた時期にオーディションの話をいただきました。自己満足なんじゃないか、誰が自分を見たいと思ってくれるんだろう」とネガティブな気持ちが渦巻く一方で、「事務所の社長やスタッフの皆さんが親身になって自分に向き合ってくださって……。あのとき本当に一人ぼっちだったら、きっと動き出せなかった。力になってくださった方々のためにも、とにかく覚悟を持ってやり遂げたいと思ったんです」と胸の内を明かす。
ようやくスタート地点に立てた感覚
長与の生きざまには共感できる部分も多かったといい、「この現場が終わっても、ずっと心に残っていることがあり、いつでもパッとあの撮影の瞬間に戻れるんです。すごく貴重な経験になりましたし、より多くの人への感謝を感じました。支えていただいたからこそ、この作品につなげることができましたし、またここから頑張らなければ……という気持ちにもなりました。やっとスタート地点に立てたのかなと思います」としみじみ語る。
10代から俳優として映画やドラマに出演していたが、常に芝居に対して「苦手意識があった」と語っていた唐田。役に対してどんな思いを抱いているのかをうまく言葉にすることができず、悩む日々も多かった。しかし、作品を重ねるたびに「お芝居を通して思いを伝えられるという感覚」が増してきたという。
特に本作では長与千種という稀代のスターを演じたことで、唐田のなかにある思いも伝えることができた。「自分にとってお芝居はすごく必要なもので、やっと生きることができる場所というか大事なものだと思えるようになってきました。胸を張ってそう言えるようになってきたことはとても嬉しいです」と目を輝かせていた。(取材・文・撮影:磯部正和)
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