第81回ベネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門に出品された映画『HAPPYEND』の公開記念舞台あいさつが5日、新宿ピカデリーで行われ、栗原颯人、日高由起刀、林裕太、シナ・ペン、ARAZI、空音央監督が出席、キャスト陣からサプライズで手紙を送られるひと幕もあった。
坂本龍一さんのドキュメンタリー『Ryuichi Sakamoto | Opus』などを手掛けた空監督が、長編劇映画デビューを果たした本作は、卒業を控えた二人の高校生の関係が徐々に変化していくさまを、環境音やテクノサウンドなどを織り交ぜたサウンドと、エモーショナルな映像美で映し出す青春ドラマ。
映画の舞台は、多種多様な人々が当たり前に暮らす一方で、社会には無関心がまん延し、むやみやたらに権力が振りかざされている近未来の日本。そんな“あり得るかもしれない”未来をユニークな切り口の中で、普遍的な“友情の危うさ”を描き出している。
本作を着想したきっかけについて、空監督は「さまざまなんですが」と前置きしつつ「3.11をきっかけに政治性が芽生えて、そこから日本の歴史、特に1923年の関東大震災における朝鮮人虐殺という歴史を前にした時が、ちょうど日本でもヘイトスピーチのデモがかなり盛んになってきた時期でした。もし近未来で地震が起きたとしても、そういうことは絶対に起きてほしくないという危機感を感じながら。それを構想の骨組みにして、学生時代に経験した感情などをふんだんに取り込んで映画にしました」と明かす。
5名のメインキャストはオーディションで選ばれたが、空監督は「恥ずかしながら、みんなひと目ぼれです」と笑顔。「直感で選んだんですが、部屋に入ってきた瞬間にこの人しかいないなと一目ぼれでした」とのことで、「何よりも奇跡的だったのは、この5人がそろって、本当に仲良くなったこと。撮影前からみんなでご飯に行ったりと、本当に長年の付き合いなんじゃないかという感じになっていたので、僕は親みたいな気持ちで、ほほ笑ましく見ていました」と述懐。
一方、主演を務めた栗原は「すべてが初めての経験なので。新鮮な気持ちで臨むことができました。何より、この5人が撮影前からずっと接して、めちゃめちゃ仲良い状態で撮影に臨めたので、緊張もいい意味でほぐれたし、ストレスもなく、カメラも気にせずに、のびのびと演技ができたんじゃないかなと思います」と笑顔。同じく主演の日高も「僕も一緒で、ほとんどキャリアがない状態でワークショップを設けてもらったりと、いろいろな機会でみんなと触れあうことも多かったので、すごく役に入りやすかった。現場でも『カメラでかい!』『マイク近い!』なんて言いながら。本当に刺激的な現場でした」と晴れやかな顔で語った。
林以外のキャストはほぼ演技未経験となり、彼らのためにも、何度かワークショップを行ったという。空監督は「空想上だったり、想像上の設定なんですけど、自分らしく生きてくれと。本来はそういう状況を経験したことはないかもしれないし、そういうセリフを言ったこともないかもしれない。だけどそういう状況に、自分が置かれた時のことを想像したときに、どういう反応が出るのか、それをなるべくナチュラルにできるように……というように、練習をかなり積み重ねました」と振り返った。
そして、この日はキャスト陣から、空監督へ感謝の思いをつづった手紙をサプライズで送ることに。「まずはじめに、右も左もわからない僕たちを導いてくださって、この映画に出会わせてくださってありがとうございます。おかげでたくさんすてきな経験をさせていただいております」という書き出しから始まったその手紙は、「僕らは間違いなく素晴らしい俳優人生をスタートできたと思います。キャスティングの時にはじめてお会いしたとき、ニヤニヤしていましたが、あれは一目ぼれだったんだと最近知りました。この作品を通して、友情のはかなさや大切さ、また社会についての考え方などを通して、勉強させていただきました」と感謝の思いがつづられていた。
そして「僕らは間違いなくビッグになると思います。なので(空)音央さんも自慢できると思います。あらためて、出会ってくれてありがとうございます。これからも監督として、友達としてよろしくお願いいたします」という言葉で締めくると、キャスト陣がいっせいに監督に駆け寄り、全員でハグをしあいながら、この日の喜びを分かち合っていた。
突然の感謝の手紙に「言葉が出ないです」と感激した様子の空監督は、言葉を振り絞るように「本当にありがとう。感動しています。みんな本当に大好きなので、これからもよろしくね」と呼びかけていた。(取材・文:壬生智裕)
映画『HAPPYEND』は全国公開中
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