2024年ハリウッドのサマーシーズンも終わり、10月のハロウィンシーズンまでホラーは少しひと段落かなと思いきや、9月6日に北米で封切られたティム・バートン監督作『ビートルジュース ビートルジュース』が、ボックスオフィスランキングで3週連続1位の大ヒットを記録。北米の興行収入はすでに2億5,000万ドル(約350億円)を超えている。同作に限らず今年はホラー映画、特にインディペンデントのホラーのヒットが顕著な異例の年となっている。(数字は Box Office Mojo 調べ、1ドル140円計算)
インディースタジオの二大巨頭といえば、A24とNEON。まずA24だが、今年はローズ・グラス監督、クリステン・スチュワート主演のボディホラーにしてクライムスリラー『ラブ・ライズ・ブリーディング(原題) / Love Lies Bleeding』が3月に北米公開され6位を記録。7月にはタイ・ウェスト監督の『X エックス』シリーズ第3章『マキシーン(原題) / MaXXXine』が初登場4位、興行収入1,500万ドル(約21億円)を超えるスマッシュヒットを記録した。9月6日にはブランディー主演のサイコロジカルホラー『ザ・フロント・ルーム(原題) / The Front Room』が公開され、トップ10入りを果たした。
今後も注目作が目白押しだが、A24が製作と北米配給も手がけるヒュー・グラントとソフィー・サッチャー主演の『ヘレティック(原題) / Heretic』が11月8日に公開される。2人のモルモン教の宣教師が信仰心を証明するためある家を訪れると、そこに住んでいたのは悪魔のような男だった! というサイコロジカルホラー。12月6日にはジョナ・ヒル製作のホラーコメディ『Y2K(原題)』が封切りに。1999年大晦日の夜、負け犬高校生2人は高校のパーティに参加するが、バグが原因ですべてのテクノロジーが突如生命を持ち人類に襲いかかる。当初ジェナ・オルテガが出演する予定だったがスケジュールの都合で降板、代役としてレイチェル・ゼグラーが出演している。
2025年以降だが、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の(ダニー&マイケル・)フィリッポウ兄弟の最新作『ブリング・ハー・バック(原題) / Bring Her Back』は、もちろんA24が製作&北米配給。主演はサリー・ホーキンス。内容はベールに包まれているが、ホラーであることは間違いない。8月にクランクアップしているので来年前半の映画祭でお披露目になる可能性もありそうだ。ドラマ「一流シェフのファミリーレストラン」でブレイクしたアヨ・エデビリ主演『オーパス(原題) / Opus』も、来年には北米で公開されるだろう。数十年間行方不明になっていた人気ポップスターが突如舞い戻ってくる……というホラードラマ。ジュリエット・ルイスとジョン・マルコヴィッチが共演する。
純粋なホラーではないが、アリ・アスターの最新作『エディントン(原題) / Eddington』も撮影は完了しており、来年にはお披露目になるかもしれない。新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミック最中のニューメキシコを舞台にした西部劇でありダークコメディだが、ホアキン・フェニックス、エマ・ストーン、オースティン・バトラー、ペドロ・パスカルというオールスターキャストがどんなケミストリーを見せてくれるか?
続いて、NEON。オズ・パーキンス監督、ニコラス・ケイジ、マイカ・モンロー主演の『ロングレッグズ(原題) / Longlegs』が7月12日に北米で封切られ、初日から3日間で2,240万ドル(約31億円)を稼ぎ出し、初登場2位を記録。これはNEON史上最大のオープニング成績で、現時点での北米の興収は7,404万ドル(約103億円)、世界興収は1億ドル(約140億円)を突破する大ヒットに。『パラサイト 半地下の家族』を超えて、NEON歴代1位のヒット作となった。オレゴン州で連続殺人事件が発生、女性FBI捜査官がオカルトを信仰する謎のシリアルキラーを追跡する、というダークで詩的で意外性のある、ニコラス・ケイジのエキセントリックな怪演が光る秀作だ。
他にも、3月22日に北米で公開されたシドニー・スウィーニー主演の『イマキュレット(原題) / Immaculate』も初登場4位、累計興収は1,567万ドル(約22億円、世界興収は2,844万ドル)。ハンター・シェイファー主演『クックー(原題) / Cuckoo』は8月9日に封切られ、こちらもトップ10入り。620万ドル(約8億円)を超える興行収入を上げた。ホラーではないが、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したショーン・ベイカー監督のコメディドラマ『アノーラ(原題) / Anora』もNEON配給で10月18日に北米公開される。賞レースを騒がせる一本になるだろう。
2025年のNEON配給作品だが、スティーヴン・ソダーバーグ監督『プレゼンス(原題) / Presence』が2025年1月17日に北米公開。郊外の幽霊屋敷を舞台にしたツイストのあるホラーだ。脚本はデヴィッド・コープ(『インディ・ジョーンズと運命のダイアル』)が執筆。2月21日には、パーキンス監督がスティーヴン・キングの短編小説を映画化した『ザ・モンキー(原題) /The Monkey』が封切られる。双子の兄弟が屋根裏部屋にあった猿の人形を発見したことを機に怪死事件が発生するというホラー。ジェームズ・ワンが製作。サラ・レヴィとテオ・ジェームズが主演。2作連続でパーキンス監督作がヒットとなるか注目。デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督『イット・フォローズ』(2014)の続編『ゼイ・フォロー(原題) / They Follow』もNEONが製作と北米配給を手がけ、いよいよ2025年にクランクインする。
今年はこの2社以外にもインディーホラーが好調だが、IFCフィルムズが北米配給した『悪魔と夜ふかし』は3月22日に封切られ、オープニング3日間で283万ドル(約3億9,000万円)の興収で6位にランクイン。これは、IFCフィルムズにとって歴代ナンバー1のオープニング成績。北米の興収は1,000万ドル、世界興収は1,500万ドル(約21億円)を突破。IFCフィルムズ配給のホラー映画としては最大のヒット作となった。同じくIFCが配給した、殺人鬼の視点で描かれたスラッシャーホラー『イン・ア・バイオレント・ネイチャー(原題) / In a Violent Nature』は5月31日に封切られ、週末3日間で215万ドル(約3億円)の興収を上げ初登場8位を記録。最終的に422万ドル(約6億円)を稼ぎ出し、すでに続編の製作も決定している。
他にもミラマックス製作、新興のマゼンタ・ライト・スタジオズが北米配給した、ウィラ・フィッツジェラルド主演のトリッキーな低予算ホラー『ストレンジ・ダーリン(原題) / Strange Darling』も8月23日に封切られ、300万ドル(約4億円)の興行収入を上げている。『アバター』『テッド』などで知られる俳優ジョヴァンニ・リビシがプロデューサーと撮影監督を務めていることも話題になった。
本題から少し話が逸れるが、2024年を代表するホラーはフランスから生まれた。カンヌ国際映画祭で脚本賞を、トロント国際映画祭のミッドナイト・マッドネス部門では観客賞を受賞し、今年最もワイルドでセンセーショナルなホラーといっても過言ではないコラリー・ファルジャ監督、デミ・ムーア、マーガレット・クアリー主演『ザ・サブスタンス(原題) / The Substance』だ。同作はメジャーでもインディでもなくイギリス発のストリーミングサービスMUBI配給で、9月20日に北米1,949館で公開され320万ドル(約4億5,000万円)を稼ぎ出し、初登場6位を記録(日本では2025年5月公開)。同社の配給作品としては最大のヒットとなった。
今後も、IFCフィルムズとシャダーが共同配給する『アズラーイール(原題) / Azrael』が9月27日に北米で封切られる。サイモン・バレット(『サプライズ』『ゴジラxコング 新たなる帝国』)脚本、サマラ・ウィービング主演のアクションホラーだ。シネヴァースが北米配給を手がけるシリーズ3作目『テリファー 聖夜の悪夢』も10月11日に公開(日本公開は11月29日)。2022年に封切られた前作『テリファー 終わらない惨劇』が、製作費25万ドル(約3,500万円)ながら北米で興収1,000万ドル(約14億円)を超える大ヒットを記録しただけに、この最新作もハロウィンシーズンを席巻しそうな予感。A24とNEONを筆頭に、今後もインディーホラーに要注目だ。(小林真里:映画評論家/映画監督)
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