吉高由里子が紫式部(まひろ)役で主演を務める大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)で藤原道長(柄本佑)の甥である藤原隆家を演じる竜星涼。4月21日放送の第16回で初登場して以来、兄・伊周(三浦翔平)と波乱の人生を歩んできた隆家の転機や、兄弟の愛憎、隆家のマインドの強さの理由までを語った。
大河ドラマ初出演となる本作で竜星が演じる隆家は、中関白家の繁栄のために野心をぎらつかせる兄・伊周とは対照的に、物事や状況を俯瞰してみる冷静な男。史実では、さがなもの(荒くれ者)と呼ばれ、のちに大宰府に赴任。大陸から攻めてきた刀伊(とい)と対峙した功績があることで知られる。
本作での隆家の初めの転機は、隆家が花山院(本郷奏多)の牛車に矢を放ったことから一家が没落する「長徳の変」。隆家は伊周と共に流罪となるも、あっという間に一条天皇(塩野瑛久)の命によって都に召喚。干しシジミを土産に道長のもとへ向かい、けろりとした表情で「私は兄とは違います。兄は恨みをためる、私は過ぎたことは忘れる。左大臣様のお役に立てるのは私にございます」と自分を売り込む。この隆家の切り替えの速さを、竜星はこう分析する。
「あの事件は、将来の彼になるための第一歩だったような気がします。家を託した父(道隆/井浦新)の思いは兄が引き継いでいて、母は兄に過保護でたとえ悪い方向に行っても守ってしまう。だから隆家は奔放に生きられたし、その中で兄の背中やいろんなことを見ることで実の伴わない貴族の世界に飽き飽きしていく。“もっとこういうことをしたい、ああいうことをしたい”と思うようになって、彼にとってはそれが政だったりする。自分の失敗によっていろんな人を巻き込んで家族をダメにしてしまって、責任を感じてはいるけれども、パーソナルな部分ではきっと“これでよかった”と思っていると思いますね」
道長を呪詛したり、暗殺を計画したりと負の感情を糧に生きる兄・伊周を見かねた隆家は、一度は彼を引き戻そうと説得するもかなわず、己の道を歩んでいく。なぜ、隆家は道長に政の実権を握られようと、負の感情に囚われないマインドの強さがあったのか? 竜星は「兄の姿を反面教師にしたのが一番大きかったのではないか」と見る。
「兄はどちらかというと、身分や過去の栄光に固執するタイプで、大人になり切れなかった人。弟の隆家はそうした姿をずっと見ながら生きている。だから、僕はやっぱり家族構成ってすごく大事なんだなと思ったりするんですけど。隆家は貴族っぽくはないけど、意外と客観的に物事を捉えている。それも彼が長男とか上の人間じゃないからだと思うし、上を見て育っているからこその判断力、決断力だったりもするのかなと。かっこよくて華やかな存在だった兄が、家が落ちぶれてそうではいられなくなった時、立ち直れるのか直れないのか。隆家には、兄貴のようにはならないようにしようっていう、単純にそういう気持ちがあったのではないか。絶望から跳ね上がる力、強さが彼にはあったのかなって思います。それと、史実とは描かれ方が違っているようですが、隆家が道長と対峙した時に、初めて兄が負ける瞬間を見たというか、もっと上手の強い人間がいるんだと気づいて惹かれていった。加えて、隆家は武力を重んじていますが、そうした意味での強さもあり、戦のない時代においては異端児でありながらも、先を見据えることができた人間だとも思っています」
13日放送・第39回では伊周が、これまでの呪詛がわが身に返って来たかのように病に倒れ衰弱し、この世を去った。伊周は「俺が何をした……父も母も妹もあっという間に死んだ……。俺は奪われつくして死ぬのか……」と無念の思いを口にし、息子の道雅(福崎那由他)に「左大臣(道長)には従うな」「低い官位に甘んじるぐらいなら出家せよ」と言い残し、最後にはかつて父、母、定子(高畑充希)と雪遊びをした幸せな日々を思い返しながら死んでいった。竜星は息絶え絶えの兄に対して涙ながらに「敦康親王様のことはわたしにお任せください。安心して旅立たれませ」「あの世で栄華を極めなさいませ」と言葉をかけた。兄を看取った隆家の心情を、竜星はこう振り返る。
「唯一の家族だった兄貴が亡くなる。本当にあのセリフの通りなのかなと思いましたけどね。自分のせいで兄の人生を狂わせてしまったかもしれない贖罪の念はありつつ、だからこそ“あの世では自分の好きなような道を歩んでほしい”と。あのシーンは、本当に……兄貴がようやく楽になるっていう気持ちもあったんじゃないかと思います。ここまで恨んで恨んで恨んで……っていうのを原動力に生きていて、最後には楽しかった頃を思い出して死んでいく。ようやく自分の好きだった兄貴に戻ったのかなっていう、そういう最期だったような気もしますね」
その伊周を演じた三浦とは、「ああいう(緊迫した)シーンが多かったので、よく喋るという感じではなく、お芝居の中で会話するっていう感じでしたかね」と言い、最も印象深かったシーンとして先の伊周の最期を挙げる。
「その後、ききょう(清少納言/ファーストサマーウイカ)もそうですけれど、伊周側の人間たちはずっと人を恨んでそれを根源に生きているので、何でもそうですけど、誰かと比較しているうちはやっぱりうまくいかないと思うんです。自分がどうするか、自分がどう変わるか。兄貴は変われなかった。おそらく自分でどうにかしたくてもできなかったんだろうと思うんですけど。それが中関白家の貴族の長男の生きざまのような気もしますけどね。父の遺志を継いでいたから、そこから出られなかったプライドみたいな。それを奪われても地を這って強く生きられたのが隆家だった、ということでしょうか」
ところで、竜星自身にも過去に誰かと比較して進めずにいることはあったのか?
「10代から20代前半ぐらいの若いころは、きっと皆、同年代、同世代の俳優をライバルとして、比較するものじゃないですか? でも、やっぱりそこじゃなくて、 自分がどういう風になっていきたいかとか、自分自身と向き合った時に、初めてより多くの方に見ていただけるような存在になるのかなという気がします」
伊周の最期では「隆家の中で一つの区切りというか、人生の第2章が始まるような感覚もありました」ともいう竜星。伊周の死後、隆家は兄との約束通り、彼に代わって定子の皇子である敦康親王(片岡千之助)の後見を道長に申し出ると同時に、「敦康さまの後見となりましても、左大臣様にお仕えしたいと願っております。どうかそのことをお認め下さいますよう伏してお願い申し上げます」と道長に忠誠を誓った。ここでも隆家は「わたしは兄と違います」と主張していたが、今後彼がいかにして自分らしく生きていくのか。その行く末を見届けたい。(取材・文 編集部・石井百合子)
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