クリエイティブプロジェクト「.ENDRECHERI.」を展開し、独自のアートワークを確立させている堂本剛(45)。新たなフィールドに立った今年、映画『まる』(10月18日全国公開)で27年ぶりとなる映画単独主演を果たした。これまでで“最も難しい芝居”に挑んだという堂本が、主人公・沢田の役づくり、日々変化していく環境との向き合い方について語った。
『まる』は、人気現代美術家のアシスタントをしている主人公・沢田が、1匹のアリに導かれるように描いた〇(まる)を発端に、日常が〇に浸食され始めるストーリー。主演の堂本は、「.ENDRECHERI./堂本剛」として映画音楽にも初挑戦している。
沢田は、メガホンを取った荻上直子監督が堂本にあて書きしたことで誕生したキャラクター。脚本を執筆するにあたり、荻上監督は堂本の過去のインタビュー記事を熟読し、“自分がわからなくなってしまう人の話”としてストーリーを膨らませていった。
脚本を読み終えた堂本は、「芝居人生で一番難しいものになる」と感じたのだという。その理由の一つには、物語を引っ張るキャラクターを演じることが多かった堂本が、掴みどころのない「受け身」の役に挑んだことが挙げられる。
「僕自身は巻き込まれていくだけで、これが非常に難しかったです。自分発信で物事を荒立ててみたり、 沈めてみたりできる役に対して、(沢田は)無に近い境地です。撮影現場では、荻上監督に『これってどういう気持ちで言っていたりするんですか?』と質問してみると、 監督の中では『きっと』『多分』という返答が多かった。現場現場で答えを定めていったことも含めて難しかったです」
近年はアーティスト活動を積極的に行っている堂本。俳優業もコンスタントに続けている印象だが、意外にも単独主演映画は『金田一少年の事件簿 上海魚人伝説』(1997)以来27年ぶりだ。「お芝居が嫌いなわけではありません」と切り出した堂本は、「このお話は随分と前からいただいていて、形を変えながら最終的にここに至りました。(沢田は)難しい役でしたが、楽しいと思いながら日々過ごしていました」と振り返り、沢田の人生を重ねて「自分がこれまで生きてきた道、これから生きていこうと思っている道を信じてあげたいなと思いました」としみじみ語っていた。
2024年は、堂本にとってさまざまな“変化”があった年になった。フィールドを変えたばかりの今年5月から6月にかけて行われた「.ENDRECHERI.」のライブツアー「RE」では新たなスタッフが加わった。
「自分のブランディングの中で『.ENDRECHERI.』のアートワークをずっと作ってきて、フィールドが変わったため、ゼロから説明をする時間が多くなりました。ライブで言えば、どういったお客さまが来てくださるのか、そのお客さまがどう楽しんでいるのかをシェアする時間もいっぱい取りました。ただ、自分が行う工程に関しては、特に変わりはありません。環境の変化は大きかったとは思いますが、ずっとひとりでアートワークして来ましたし、自分の体感上では変化はほぼありません」
人生において変化はつきもの。「変化をそんなに怖がる必要もない」と堂本は語る。「全てが変わらないなんてことはないし、基本は変わるものです。その変化に対して、自分がどれくらい対応できるのか。自分が試されている感じもあって、僕は柔軟です。合気道のような感覚です。自分で選んでいない選択に関しては、対応能力が問われるし、自分の人生はこうして生きていくんだという答えさえ見つけていれば、どれだけ周りが変化したとしても、自ずと答えは自分自身ですから」
「10代の頃から強く生きられていたかというと、そうではありません。いろいろな経験を経て『どうせ傷つくんだったら。しんどいな、疲れるな』と思うのであれば、自分の選択した果てがいいなと。人に勧められて失敗するよりも、自分で選択して失敗した方が気持ちいいです。そういう感覚が歳を重ねるごとに多くなりました」
『まる』で演じた沢田のように「自分がどういう人生にしたいかは、いっぱい考えて悩むべき」と訴えた堂本。「その答えを人様からいただくことはもちろん重要ですが、自分から自分にプレゼントしてあげる方がいい。誰かと自分を比べて『あの人みたいな生活したいな』と思うより、自分はどうしたいのかを考えた方が絶対に人生は豊かになる。自分を選択できる環境に持っていって、その選択ができた時には、大きな喜びや幸せにつながると、この映画を観てすごく感じました」と感慨深げに語っていた。(取材・文:編集部・倉本拓弥)
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