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「踊る大捜査線」本広克行、再始動は一度断った 『室井慎次』監督を引き受けた理由

シネマトゥデイ 映画情報 2024年10月27日 7時10分

 社会現象を巻き起こした「踊るプロジェクト」の12年ぶりとなる新作映画『室井慎次 敗れざる者』が公開中だ。亀山千広プロデューサーと脚本の君塚良一とともに、「踊る大捜査線」シリーズをヒットに導いた本広克行監督がメガホンを取ったが、本広監督は当初「やりたくない」とオファーを断っていたという。本広監督が本作を手がけることになった経緯、作品作りの苦労と楽しさ、「踊る」シリーズの魅力について語った。

ヘリコプター登場は台本になかった

 「僕にとって『踊る』はコメディーなんです」と開口一番、本広監督は言う。「今回の主役の室井(柳葉敏郎)さんはコメディーを引き立てる側の人。それは僕は苦手だなと思いましたし、向いてないと思いました。だから何度も断ったんです。柳葉さんも最初断っていて、交渉の現場にいたんですけど『やった、ラッキー』って思いました(笑)」と打ち明けた。

 ではなぜ引き受けたのか。「亀山さんに『お前にやってもらわないと困る』『久しぶりのクリエイティブな仕事なんだ。社長業じゃなく』と言われているうちに、もしかしたらこれが亀山さんの最後の作品になるのかもしれないと思って。上司ではないけど、恩師であることは間違いないので、優先しないといけない方なんです」と考え直しはじめた矢先、「台本をいただいて、演出的に考えることが多すぎて、ほかの仕事もたくさん重なってたので、熱中症で入院しちゃったんですよ、去年の夏。でも、それがかえってよかったのかもしれません」と本広監督。亀山プロデューサーの「なんで本広は倒れるほど嫌がるんだ?」という疑問に、君塚が「ヘリが出てないからじゃないですか?」と台本にヘリコプターの登場シーンを足してくれたのだという。

 「もちろん、ヘリだけが理由じゃないんですよ(笑)。ただ、車がいっぱい来るような躍動感のあるシーンや、事件もどんどん足してもらって、やりやすくなった。それでクランクインできました」と驚きの事実を打ち明けた。「ヘリから降りてくるのが誰だったら面白いんだろうと考えて、『緒方かよ!』がファンの方は一番笑えるだろうなって」と緒方薫(甲本雅裕)が登場した秘話も明かす。「ヘリも室井さんのよりも小さくて、最初機体には何も書いてなかった。やっぱり『警視庁』とある方が面白いよなと思って、CGで書き加えました(笑)」

男のあこがれが詰まった室井の生活

 そもそも、スーツを脱ぎ、故郷・秋田で子供たちと暮らす室井を撮ることに、本広監督は抵抗なかったのか。「ありましたよ。雪国を撮るのも苦手だし、難しいなと思いました。でも、新しいキャラクターも入ってきたし、子供と接する室井さんという疑似家族の話なら、笑いあり涙ありというのができると思いました」

 室井の生活を描くのは楽しかったという。「定年前に退職したとはいえ、室井さんは官僚だったのでそれなりにもらっていたはずだから、豊かな生活をしてると思うんです。車だって、ふつうは軽トラなのに、ダットラ(=ダットサントラック)ですからね。自分の畑でできる作物で子供たちを育てて、バルコニーで星を見ながらロッキングチェアに揺られ、ゆったりと好きなお酒を飲む時間がある。ある意味、これは男の人のあこがれです」と声を弾ませる。

 「お酒は、亀山さんが好きな『厚岸(あっけし)』というウイスキーのブランドの方々が、ラベルまで特別に作ってくださって。ガレージは、クリント・イーストウッド監督・主演の映画『グラン・トリノ』(2008)みたいに、道具がピシッとそろってる、男の子の大好きなヤツをやらせてもらいました。ロッキングチェアは『さすがに室井さんでもそこまでは作らないだろう』ということで、通販で(笑)」と明かす。さらに、室井が猟銃免許を友人に誘われて取ったという劇中設定も「そんな友人、いたのかなって(笑)。そういうのを考えるのも演出の仕事なんです」と笑った。

室井のきりたんぽ作り、柳葉の実体験が元だった

 室井一家が住む池のほとりに佇む家も印象的だ。「ジャン・レノの映画『ラスト・バレット』(2020)で、ああいう小屋が出てくるんです。すごくいいなって、そういう家を制作部に探してもらって。雪が降って緑もあるロケーションで、スタッフや役者さんたちの控室もないといけない。すごく難しかったですけど、新潟で見つかりました。バルコニーとか作業小屋とかは、美術で作っています。住んでる方たちは撮影の4か月間、ホテルに移っていただきました」と紹介。囲炉裏などの室内はセットで、「CGの技術が進歩して、窓外は合成なんですよ。ぜんぜんそうは見えないでしょ?」とうれしそうにアピールした。

 食にもこだわった。室井がきりたんぽを自ら作るシーンは、台本にはなかったのだという。「あれは保存食で、柳葉さんもご自分で作られていたそうです。なので、それをやってくださいとお願いしました」とのこと。飼い犬の秋田犬・シンペイが必ず室井たちと同じタイミングでご飯を食べるのは「家族の一員ということです。生活を描くうえで、食はすごい大事ですよね」と説明。室井が家の掃除中に食べていたカップラーメンは「踊る」お馴染みの「キムチラーメン」だが、それには仕掛けがあるようで、「『室井慎次 生き続ける者』で正解が出てきます」とニヤリと笑った。

 本広監督は「やっぱり、君塚さんの脚本がすごいんですよ」としみじみ。青島(俊作/織田裕二)と室井の“約束”は「踊る」を貫く芯になるものだが、「いい大人があんまり“約束”とばかり言ってるのはちょっと子供っぽい。そこを里子たちに、約束なんて守れない、と言わせているところが脚本の巧みなところです」と感心する。「作っている最中、『あ、こういうことなんだ!』って僕が思った本は、これが初めてでした。事件に関しても『こんな解決方法があるんだなあ』とびっくりして、先日君塚さんにもそうお伝えしたら『だろ?』って(笑)。僕は感動しました。観た方がどう捉えてくださるか、楽しみです」と本広監督。監督自身が驚いたという『生き続ける者』の結末を楽しみに待ちたい。(取材・文:早川あゆみ)

『室井慎次 敗れざる者』全国公開中
『室井慎次 生き続ける者』11月15日(金)全国公開

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