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“怖いガンダム”への挑戦「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」が描くMS描写へのこだわり

シネマトゥデイ 映画情報 2024年10月26日 13時12分

 Netflixで世界配信中のシリーズ「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」。ガンダムを恐怖の対象として描くコンセプトや、3D制作ツール・Unreal Engine 5(以下、UE5)を導入した制作体制の構築など、数々の新たなアプローチにはどんな狙いがあったのか。プロデューサーの彌富健一とアニメーションプロデューサー・音響監督の由良浩明が語った。

ガンダムを「恐怖の象徴」として描く

 本作の舞台は、シリーズ1作目「機動戦士ガンダム」(1979~1980)で描かれた、一年戦争真っ只中のヨーロッパ戦線。連邦軍に奪取された東欧基地奪還のため地球に降り立ったジオン軍のモビルスーツ小隊、レッド・ウルフ隊が、連邦軍の最新モビルスーツ・ガンダムEXの脅威に直面する。

 制作の経緯について、彌富は「本作の大きなテーマの一つが“怖いガンダム”を描くことでした。そのためには、連邦のモビルスーツ(以下、MS)がジオンより圧倒的に力量で勝るという状況を描く必要がある。そこから、必然的にジオン視点でのドラマ制作が進んでいきました。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』など、近年はオルタナティブユニバースの新作が続いていたので、一年戦争を舞台にした戦争ものを、本気で作ってみたいという思いもありましたね」と証言。

 由良も「例えば『プライベート・ライアン』(1998)や『フューリー』(2014)といった洋画作品で見られる、時を遡ったような、ザラッとした質感の戦争ものをやりたかったんです。またその方が、(世界配信されることから)海外の方々もシリーズに入ってきやすくなるのではないかという思いもありました」と証言する。

 “怖いガンダム”というコンセプトの通り、主人公イリヤ・ソラリ率いるレッド隊が初めて目にするビーム兵器の威力や、戦場で対峙するガンダムEXのシルエットから漂う絶望感は、リアリティーあふれる映像も相まって、まるでホラー作品のようなテイスト。あらためてMSが兵器であることを思い起こさせる。

ザクタンク奮闘の理由

 一方で「もともとガンダムシリーズは、敵味方を単純に区別しないこともひとつのテーマになっています」と語る彌富。その言葉の通り、本作では、レッド・ウルフ隊の支援に駆けつけるグフカスタムが、ヒーローのように頼もしく映るシーンもあり、戦争ものとして、MSの兵器としての一面がより浮き彫りになっている。

 “白い悪魔”の恐ろしさを演出するため、さまざまな工夫がこらされた。由良は「観た方には気づいていただいたと思いますが、今回のガンダムは表情が変わるんです。戦闘が終わったら目がぱっと開いたりする。そうやって、いかにして怖さを演出するか、仕草にもすごく気を使いながら試行錯誤しました。また、全話を観た後で振り返っていただくと、その仕草への理解が深まるようにしています。ただ怖いだけではなく、ちゃんと操縦するパイロットが乗っているんだということが、見返すとわかるようになっているんです」

 圧倒的な性能差を誇るガンダムに対抗する、ジオンの奮闘も本作の重要な要素。その中でも特に前半で印象的なのが、ザクタンクの活躍だ。彌富は「理由はわからないんですが、脚本のギャビン・ハイナイトがザクタンクを好きらしいんです(笑)。ただ、一年戦争のタイムラインで出せるモビルスーツには制限があるため、その必然性を大切にしながら、ギャビンとも相談して登場機体は決めていきました」という。

 由良も「あえてザクタンクを活躍させたというよりは、その戦場で動く機体が、ザクタンクしかないという状況ですよね。ガンダムを止めることができず、ザクIIは撃破されてしまい、生き残るために使える手段がザクタンクしかなかった。そうした必然性があってこその活躍なので、魅力的に映ったのではないでしょうか」と語る。

 そして、ガンダムと共にジオン軍を苦しめるのが、連邦の量産型MSジムの存在。過去のシリーズと一味違い、どこか無機質で冷たいジムの特徴といえるのが、やはり目だと由良は明かす。「ジムも(メカニカルスーパーバイザーの)山根公利さんがデザインしているのですが、目がアニメと違ってモノアイに見えるんです。山根さんが参考にされたと言っていたのが、無人兵器のプレデターのカメラ。無機質にキョロキョロと動く感じが、より恐怖感を演出していると思います」

 MSのデザインについては「やはりサンライズさんにとっては大事なIP(知的財産)なので、やってはいけないことはありました。けど同時に、これ通るんだ? みたいなこともありました」という由良。「例えば、ソラリが操縦する、ザクIIのアンテナですね。隊長機なので頭にアンテナが付くものなんですが、ウルフ隊だからと、かわいい耳のようになっているんです。側から見ていて“これは彌富さんが通さないだろう”と思っていたら、いいと言っていただけたり(笑)」と明かすと、彌富も「明らかなNG事項はあるのですが、逆に言えばそれ以外の試みは、社内的にOKであればいいですよと(笑)。もちろん、最終的に全ての要素はサンライズでチェックしていますけどね」と笑みを浮かべる。

Unreal Engine 5 の貢献

 由良が代表を務める制作スタジオ・SAFEHOUSEは、大ヒットゲーム「オーバーウォッチ」のシネマティック映像なども手掛けた、Blizzard Entertainment の元スタッフを中心に組織されている。一流アニメーターたちの手によって、モーションキャプチャーによるアクターの演技と、繊細なMSアクションの融合が実現した。

 「人物の動きはモーションキャプチャーで収録しています。監督の意向で英語版の声優にアクターまでやってもらいました。そして、MSの動きは全てアニメーターによる手付けです。ここだけは絶対に高水準のクオリティーを出さなければいけないので、『オーバーウォッチ』でもメインをはったレイ・シュウが、メカニカル・アニメーション・スーパーバイザーとして、全MSを担当しています。また、弊社の中にも数多くのガンダムファンがいるので、特に第1話では、“ファーストガンダム”からのレファレンスを見ていただけると思います」(由良)

 それだけこだわりの詰まったシリーズの制作期間は、企画の立ち上げから数えて約3年半。30分×6話という大作の制作期間としては短く感じられるが、そこで大きな役割を果たしたのがUE5だ。「もともと、UE5を導入し、リアルタイムレンダリング(※データの解析や生成)で全ての制作を行うのが今回の企画の趣旨でもありました。コンポジット(※合成)なしでここまでの大作を作る試みは、もしかしたら世界初かもしれません」という由良。彌富も「UE5を使うことで、短期間かつ少人数で高品質な映像を実現できました。これまでにない新たな表現方法を追求できたのは大きな挑戦でしたけど、完成させることができて、本当にほっとしています」と述べる。

 シリーズはその先を予感させる結末を迎えるが、シーズン2の可能性について、彌富は「今のところまだ何も。ノーコメントですね(笑)」としながらも「Netflixでは他のガンダム作品も配信させていただいていますし、またこのような新しい企画があればぜひやらせていただきたい」とも。由良も「こうして一度、これだけの規模の作品を、UE5で、リアルタイムレンダリングで作るというセットアップはできたので、次は確実に少しだけですが楽にはなります」と自信を見せると「これまでのガンダムシリーズ同様、人間ドラマを第一としながら、映像もサウンドもしっかりと作っていますので、まずは本作を観て、聴いていただければと思います」と語った。(編集部・入倉功一)※編集部注

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