田村結衣のラブコメ漫画を実写化した映画『矢野くんの普通の日々』(11月15日公開)で、初の映画単独主演を務めたダンス&ボーカルグループ・FANTASTICSのボーカル、八木勇征。2021年のドラマ「美しい彼」に始まる一連の作品で俳優としての新たな道を切り開いた八木が、彼自身の挫折を乗り越えた高校時代と、俳優としての今を語った。
映画化もされたドラマ「美しい彼」シリーズ(2021・2023)で俳優としてブレイクしてから快進撃が続く八木。今年は「婚活1000本ノック」(フジテレビ1月期)、「南くんが恋人!?」(テレビ朝日7月期)と2本のドラマで主人公の相手役を務めた。『劇場版 美しい彼~eternal~』(2023※萩原利久とダブル主演)以来となる主演映画『矢野くんの普通の日々』は、ケタ外れに不運体質の高校生・矢野くんと、極端に心配性な隣の席の吉田さん(池端杏慈)をはじめ彼を取り巻くクラスメイトの心優しい日常を描く学園モノ。八木は新学期早々からケガだらけで登校する、かなりドジな矢野くんを演じている。
ごく普通の日常を送るだけで不運を強烈に引き寄せてしまうという、特殊な役柄を演じるにあたって、八木は「普段の自分の話し方だと大人びてしまうので、まず声はツートーンくらい上げました。歩き方もすたすた歩くけれど歩幅は狭く、細かい。原作ではそんなイメージがあったので細部まで意識して、無意識にもそうなるように演じてました」と、まずは目に見える部分に心を砕いた。
そうして八木はアーティストとしての華やかさを潔く封印し、180cmの高身長も感じさせず、思わず手を差し伸べたくなるか弱さ。原作の矢野くんの再現度はかなり高い。またアクシデント続出の矢野くんの日々を描く「まるで殺陣のようだった」というシーンも、「難しかった」と言いつつその高い身体能力でナチュラルに着地させている。
彼自身にとっては、不運というものに対して「落ち込み過ぎないこと。ネガティブになり過ぎると、さらなる不運を呼んでしまう気がします。グループとしても、ネガティブな人が一人でもいると、それが伝染してしまうんですよね」と語る。そうはいってもアンラッキーというのは理由なく誰の身にも降りかかってしまうものなので、「心の余裕があれば対処の仕方も全然違ってくるし、ネガティブはただ悪いことかというとそうでもなくて。ネガティブなことがあったからこそ、それと向き合う自分と出会う。それは1つの経験になるわけで、“次に同じような不運があったときはこうしよう”という対策がバッチリ立てられますから」とあくまで前向きに捉える。
そこには、八木自身の高校時代の経験も少なからず影響があったよう。高校生としての普通の日々を夢みる矢野くんとは異なり、八木が追い続けた夢はサッカー。ケガを機にその夢から遠ざかることになったものの、「だからこそ、アーティストになりたい! という夢を新たに抱くことが出来ました。夢はいくつあってもよくて、たくさんあった方が、人生はきっと楽しいと思うんです」と微笑む。
それでいて、「普通って、全然当たり前じゃないと思うんです」と、“矢野ドリーム”にも共感を示す。何気ない日常のなかで喜びを噛みしめられるのは人としてステキだと続け、「一つ一つのことに感謝出来る矢野くんは、不運なようでマインドとしてはラッキーなのかも」とその人間力の高さを指摘する。そうして自身についても思いを及ばせ、「普通に日常を過ごせていること、アーティストとしてライブをさせてもらえることも当たり前じゃない」とした上で「でも僕の職業だとやっぱり普通じゃいけないんですよね。“八木くんの普通じゃない日々”でないと!」と笑う。
激しくデフォルメされたようなキャラクターでありながらごく普通の高校生でもある、そんな特異なキャラクターをキッチリと構築し、主演俳優としての役回りを全うした八木。撮影はシーンの順番通りではなかったため、「矢野くんの感情の振れ幅、揺れ動くその曲線をあらかじめ自分の中につくっておくとアレンジが効くんです。ゼロからマックスまで、自由に出せるようにしておくと、あとの調整がラクになります。あと動きとしては、矢野くんは仕掛けていく役回りなので、わかりやすく表現していきました」と振り返る。そうした役の構築に関しては「基本的には台本には書き込みません。ただ撮影期間中はその作品、役柄のことを考えない時間はないんです。何をやっていても絶対、頭の片隅に存在している感じです」とストイックな姿勢も明かした。
俳優として歩み始めて4年、また一つ俳優としてキャリアを積んだわけだが、芝居の面白さは「どんどんどんどん変化しています」と八木。演じる役によって変わるのは当然のこと、と前置きしつつ「俳優さんには、いろいろなお芝居をする方がいらっしゃいます。そうした方のお芝居を受けること自体が刺激になる」とこれまでの作品を振り返る。そのときに大切なことは「瞬間の判断」だと言い、「つま先から頭まで役が入っていないと。本番での数秒間で、その役として動くことは出来ません。映像作品なら、カットがかかって、役として動けた! と思えたとき、そのことに興奮します。舞台なら、観客の目の前で、その作品をつくる一人一人が歯車のようにがっちりとかみ合った! と思えたときも同じ感情になります。」と熱を込める。
もちろん、本作でもそんな“興奮させられる”瞬間があり、「何かを起こそう! と意図したものではなく、自分が無意識に下した咄嗟の判断で役としての動きがすべて決まっていく。そうしたときは自分でもシンプルに“すごい!”って思うんです(笑)。大きな達成感があります」と気持ちを高ぶらせるように語る。
来年も、鈴木おさむが脚本を務めた主演映画『僕らは人生で一回だけ魔法が使える』(2025年2月21日公開)の公開を控える。俳優・八木勇征の本当の快進撃はこれから、そう思わせる充実した表情だった。(取材・文:浅見祥子)
ヘアメイク:福田翠 スタイリスト:中瀬拓外
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