12年ぶりに再始動した「踊るプロジェクト」の最新映画『室井慎次 敗れざる者』(公開中)に、連続ドラマ「踊る大捜査線」と同じく森下孝治役で出演した遠山俊也。劇中で描かれる室井慎次(柳葉敏郎)との再会シーンは感動的だと評判だが、その裏には驚きの事実があった。遠山が最新作の撮影秘話、大ヒットコンテンツとなった「踊る」シリーズについての思いを語った。(以下、『敗れざる者』のネタバレを一部含みます)
こんな形で「踊る」に出ていいの!?
遠山は、『室井慎次』の製作情報を「ネット記事で知りました(笑)。そのあとで、出させていただけるというご連絡をいただいて。ありがたかったです」とうれしげに語った。「これだけ長く関わらせていただいていると、『本当にやるの!?』と『やっぱり来たか』という両極端の気持ちがあります。僕の心の中から、森下という役が無くなることはなかったです。それも『森下がいるって感じる』とか意識もしてないくらい心の奥底に」と明かす。
だが、今作の台本を見て驚いた。「室井さんの映画といったら、管理官の姿を想像するじゃないですか。でも、それを2つも3つも4つも超えてくる、全く想像してなかったストーリーでした。さすが、『踊る』制作陣はすごいです」と驚嘆。さらに「『踊る』はある種群像劇で、画面の隅々まで気を抜いてる人が一人もいない、いい意味でみんなが出たがりな作品でした。端から端まで全部が生きてる“動”の感じが『踊る』の醍醐味で、僕もいつもはそっち側だったんです。だけど今回はぜんぜん違って、ものすごく静かなシーン。室井さんとその里子のタカ(森貴仁/齋藤潤)と3人のところは『こんな形で「踊る」に出ていいの!?』と思いました(笑)」
それでも、「室井さんがいれば、そこは『踊る』の現場になります。もう、緊張感は半端なかったです」という。遠山のクランクインは秋田県の刑務所のロケシーンだったが、タクシーで到着した瞬間、外ロケの合間だったらしい柳葉と出会ったのだという。「『お久しぶりです』とか一切言う間もなく、開口一番『秋田県人会、やるぞ』って(笑)。その瞬間、室井さんの世界にガーっと引き込まれました」と怒涛の再会を語った。自身も秋田出身であることを伝えた森下に、いつか一緒にきりたんぽ鍋を食べようと室井が返した連ドラ第4話のやりとりが、27年後の今作に活かされているのだが、その関係性を柳葉は「秋田県人会」と粋な形で表現したのだ。
「おべででけだたすか」の一言でまさかのNG連発
だが、「本当はあんまり言いたくないエピソードです」と前置きして、遠山は「その後すぐ、柳葉さんは『森下の台詞、秋田弁で』ってバーッと書いてくださったんですけど、そのシーンで僕、死ぬほどNG出しちゃったんです」と衝撃の事実を明かした。「『おべででけだたすか(覚えててくれたんですか)』という一言です。テストとか、僕が後ろ向きのカットとかは大丈夫だったんですけど、僕の正面の顔向けになった途端、何故だか噛みまくって、ぜんぜん言えなくなってしまって……。もう10回も20回も間違えて、間違えすぎて笑うしかなくなって、僕のいちばん嫌いなNGを出してヘラヘラ笑ってるタイプの役者になってました(笑、、、えない)」としきりに反省する。
「柳葉さんはさすがでした。怒りもしないし、嫌な顔もしない。何回もつきあってくださいました」と感謝をささげるも、「でも、途中で『これ、間違った台詞のほうが、森下が緊張してる感じが出ていいんじゃない? ねえ、監督』とおっしゃって。本広(克行)監督も『そうですね、そのほうが臨場感あるかもしれないですね』って。僕は焦りまくって必死で『ちょっと待ってください!』とお願いしました(笑)。やっと最近、心の傷が癒えてきたところです」としみじみと心境を語った。
それが今作屈指の名シーンになっていることには、「感動したとおっしゃってくださる方には本当に申し訳ないです」と前置きしつつ、「すごくありがたいし、うれしいです」と素直に喜びを表した。「きりたんぽ鍋のシーンは、連ドラ当時も書いてくださってうれしかったですし、そのつながりをまた作ってくださって、撮ってくださった。もう、本当に幸せでした」とうれしそうに語るも、「でも個人的には、森下は絶対、室井さんと一緒にきりたんぽ食べちゃいけないと思ってます。別に君塚(良一・脚本)さんもわざわざ書かないと思いますけど(笑)」
そのシーンについて、柳葉は遠山が涙ぐんでいるように見えたとシネマトゥデイのインタビューで語っていたが、「室井さんときりたんぽシーンへの思い入れと、台詞を間違えまくった悔しさと、両方の思いが出ていたのかもしれません(笑)。自分では泣いてたとは思ってないですけど、滲んでいたように見えたなら、それはその人の見方ですから、どうとでも解釈していただいていいです(笑)」
“人間・室井慎次”を楽しめる
ただ、柳葉の姿と芝居が感情を引き出してくれたのは間違いないのだという。「自分で勝手に作った感情なんてまったくなくて。台本を読んだときにもいいシーンだとは思いましたけど、柳葉さんのお顔を見たときに出てきたのは、それよりもさらに深い感情でした。柳葉さんは、同じ空間にいらっしゃるだけでこっちの背筋が伸びる方です。先輩俳優はたくさんいらっしゃいますが、僕はそんな俳優さんは数えるくらいしか知らない。そのうちのお1人です」と明かす。さらに「僕がお会いするのはほぼ『踊る』の現場だけですから、やっぱり『柳葉さんだ』というより『室井さんだ』という感覚が強くて。100%の柳葉さんとして見ることはほとんどないです」と素直な心情を吐露した。
「踊る」の魅力については「ディティールがすごい細かいところだと思います」と語った。「全部がつながっていて、それこそ今回みたいに27年前の伏線をちゃんと回収する。だから、最初からのファンの方もしっかり楽しめるんだと思います。もちろん、『敗れざる者』から観る方でも、ちゃんとわかるように作られていますしね」と解説する。そして、それを踏まえた上で「それにしても、今回はこれまでと違う感触でした」と『室井慎次』2作品の特色を挙げる。「『踊る』は、すみれ(恩田すみれ/深津絵里)さんの一連の事件みたいな、警察としてのトラウマがある場合以外、個人の恋愛や家庭事情とか私生活はほとんど描きませんでした。それが、今回は室井さんが人間になっている(笑)。“人間・室井慎次”を楽しめるのは、違う意味で魅力的です」と『敗れざる者』と続く『室井慎次 生き続ける者』をアピールしていた。(取材・文:早川あゆみ)
『室井慎次 敗れざる者』全国公開中
『室井慎次 生き続ける者』11月15日(金)全国公開
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