国民的医療ドラマであり、そのカッコよさと潔さから絶大な支持を得ている外科医・大門未知子の活躍を描く「ドクターX ~外科医・大門未知子~」(2012~)が、『劇場版ドクターX』(12月6日公開)で完結を迎える。フィナーレを飾る映画で描かれるのは、未知子の知られざる過去に迫るエピソードゼロ。12年にわたり未知子を演じてきた米倉は、どんな思いでラストの選択を下したのか。
大門未知子は一生の宝物
未知子との別れを決意したことについて、米倉は「毎シーズン、ファイナルだと思って演じていましたから、そんなに怖くなかったです」とにっこり。そのうえで、「やはり大門未知子は、みなさんの記憶の中で、カッコいい存在でありたいと思うんです。でも、私たちは歳も取るし、いつまでも素足にミニスカートは恥ずかしい(笑)。多くの方にご期待いただけたのでここまで続けてこられましたし、未知子は一生の宝物ですけど、自分としてはもうそろそろ、新しい一歩を踏み出したい」と前向きな決断だったことを明かした。
未知子を演じる中で、学ぶことも多かった。「医療のことを考えるようになりました。私自身、体調を崩してお世話になったこともあり、お医者さんがご苦労されていることや、特にまだまだ男性社会なので、女性の先生が頑張っていることなど、興味を持つポイントがだいぶ変わりました」と打ち明ける。
さらに、「未知子は一見冷たく見えるけど、それにはネガティブな部分がなく、前しか向かないからです。病気の原因を考え、患者に真摯に向き合うのは医者の鑑だと思いますし、人の鑑ですよね」と未知子の人間性をうれしそうに褒め、「私自身は完璧ではないし、失敗ばかり。意外と不安症だったりネガティブだったりするので、プライベートでも未知子みたいな人間でありたいなと思います」と憧れを語った。
人生には「苦労と経験」が必要
今作では、未知子の困難な半生も描かれている。「彼女は苦労しているけど、ちゃんと前に進むための苦労なんです。彼女は天才に見えますが、決してそうではなくて、経験と苦労を重ねてここまでになった。だから私は、この映画を若い方に観てほしいなと思っています。人生、誰にとっても簡単なことなんてないんだ、苦労と経験が必要なんだって、私自身、勉強になりました」
テレビシリーズは「面白いな、これ」「ゲストも豪華!」と改めて思いながら、再放送などを観ているという。「撮った直後は客観的に反省しかないんですけど、12年も経つとふつうに楽しめます。ここでお風呂のV字足上げをやっちゃったのかーとか(笑)」と素直に感想を語った。
また、劇場版にお馴染みのキャストが勢ぞろいしたことについては、「多方面で活躍されている方ばかりなので、本当にありがたいです。共演のみんなが、私を一匹狼にしてくれました。1人では作れないんですよ、一匹狼は」と感謝を捧げた。「(森本光役の田中)圭くんなんて、ほかでは主役を演じたりするのに、12年前と同じ新米みたいな立ち位置で参加してくださって。みなさんがものすごくしっかりした土台を作ってくださったから、未知子は立てていたのです。今回は、私の体調が万全ではなかったのが悔しいところですが、だからこそ逆に、みんなが『もっともっと!』と押し上げてくれました」
西田敏行さんが嫉妬した、岸部一徳との関係性
今作では、未知子の師匠でもある神原晶(岸部一徳)が大きな危機に陥る。「『この作品を成功させるためには』と一徳さんが本当にいろいろ考えてくださいました。海辺で倒れているシーンでは、そんなことしなくてもいいのにわざわざ水をかぶる態勢になってくださって。あとから、『息が出来なくてパニックになりそうだった』っておっしゃっていましたけど(笑)」と裏話を明かす。
米倉と岸部の仲の良さは周知の事実だが、その関係性は「全部をお鍋に入れてミキサーで混ぜちゃった感じです。未知子と晶さんも、私と一徳さんも全部(笑)」と親密を超えた間柄を言葉にした。「父娘みたいな感じですけど、本当の親子を超えている関係だと思います。いつだったかは忘れましたが、温泉のロケがあって、背中を流しに行った記憶があります。私の撮影は終わっていたので、未知子としてではなく、米倉としてね(笑)」
「でも、劇中の晶さんが自分の腕をまくって血を抜くシーンで『この腕カッコいい』って胸キュンしました。そんなふうに、ちゃんと男性としても見られますから、年の離れた恋人同士役とかも大丈夫です」と笑う。そして、「一徳さんとは2人でデートもするんです。でも、これを言うとトシちゃん(西田敏行)がすっごい嫉妬するから、内緒にしていましたけど(笑)」と今シリーズで存在感のある敵・蛭間重勝を演じ、先ごろ逝去した西田さんとの関係も明かした。「一徳さんは西田さんを役者としてとても尊敬していて、素敵な関係でした。もちろん私もそうです。西田さんの近くでお芝居をご一緒できて、幸せでした」
未知子を経験した米倉は、今後どんな活躍をしていきたいのだろうか。「役者であるならば、いろいろなタイプの役を演じたいですけど、私に求められているものもあるし、体はひとつしかないから、ゆっくり決めていきたいです」と明かし、「ずっと主役でやらせていただいていますけど、脇役として主役をお支えするとか、影の重要人物とか、そういう挑戦もしてみたいです」とこれからの展望を語った。(取材・文:早川あゆみ)
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