米テレビ界最高の栄誉とされる第76回エミー賞で、作品賞(ドラマシリーズ部門)を含む史上最多18部門を制覇し、歴史的快挙を達成したドラマ「SHOGUN 将軍」。受賞を記念して、第一話&第二話が全国の劇場にて期間限定で公開される。劇場上映にあたり、同作のプロデューサーを務めた宮川絵里子(エリコ・ミヤガワ)がインタビューに応じ、「長い道のり」だったというエミー賞までの旅路、制作が予定されているシーズン2への期待を語った。
真田広之が主演&プロデューサーを務めた「SHOGUN 将軍」は、天下分け目の「関ヶ原の戦い」前夜を舞台に、歴史上の人物にインスパイアされた主人公・吉井虎永(真田)ら戦国武将たちの陰謀と策略渦巻くドラマを描いた全10話のシリーズ。宮川は真田と共にプロデューサーに名を連ね、オーセンティック(本物志向)な時代劇を目指して、日本人&現地のスタッフと共に奮闘した。
なぜ「SHOGUN 将軍」は全米で社会現象化したのか
今年2月にディズニープラスで配信開始となった同作は、ロサンゼルスやワシントンDCはもちろん、日本でもプレミアが行われた。各地の好反応で手応えを掴んでいたという宮川は、全米最大のスポーツイベント「スーパーボウル」での出来事で、「SHOGUN 将軍」が現地で認められたという確信を抱いた。
「スーパーボウル(のハーフタイム)でCMが流れたんです。ものすごくお金がかかることですし、普通は『スター・ウォーズ』ですとか、老若男女が楽しめる大作のスポット映像が流れる枠です。ディズニー/FXがそこに仕掛けてくれたこと、それもディズニーのトップのサインがないとできないことだと思うので、その時にそのレベルの作品として認めていただけたんだという実感がありました」
「SHOGUN 将軍」はアメリカで社会現象を巻き起こし、ビルボードには虎永のビジュアルが大々的に掲示されるなど、日本の時代劇が現地の人々を虜にした。「いろんなことが重なったと思うんです」と切り出した宮川は、ハリウッドの熱狂ぶりを以下のように分析した。
「GOサインを出したFXの方たちを虎永に例えれば、風を読み、時を待って(作品を)仕掛ける(人たち)。ストリーミングがコロナ禍で一気に浸透して、世界中の視聴傾向が民主化し、面白いものがあれば観るようになりました。字幕への抵抗感もなくなったので、『パラサイト 半地下の家族』『イカゲーム』といった(非英語圏の作品も)面白ければチャンスがあることを知りました。日本文化も(アメリカに)かなり浸透しています。そういった、いろいろな織り重なった結果です」
「また、ジャスティン・マークス(企画・製作総指揮)が素晴らしいですよね。本当に才能のある脚本家兼ショーランナーで、 (「SHOGUN 将軍」と)相性がよかったことが考えられます。自分の文化ではない、自分の言葉ではないこのチャレンジを、こんなにもしっかりとコントロールしながら、明快なビジョンを持ちながら、自分がわからないことをしっかり聞き入れて受け止めて、好奇心を持ってストーリーに取り入れていく姿勢が、作品のよさにつながったと思います」
日本描写の変化を後押し
前述したように、本作で真田を筆頭とするキャスト&スタッフが求めたのはオーセンティックな時代劇。日本文化・作法の描写に違和感がないよう、日本から各部門のプロフェッショナルを招聘し、綿密な時代考証が行われた。
「何がこの作品にとって正しいのか。どういう作品が観客に広く受け入れられ、違和感なく楽しんでいただけるのか。このことを常に意識していました」と宮川は語る。「真田さんは数多くの時代劇に出演してきて、豊富な知識と経験値を兼ね備えています。時には、白黒はっきりしないこともたくさんありました。『歴史の先生はこう言っているけど、これをするとお客様がわからなくなる』『大河ドラマでは、ここはこんな風にやっていた』『アメリカの感性はこうだ』といったことを加味して、『SHOGUN 将軍』にとって一番正しい選択は何なのかを、こと細かく話し合いながら固めていきました」
日本人がプロデューサーとして参加できたことも、日本描写を正しく届けることにおいてプラスに働いた。「かなり早い段階で指摘できたり、アウトラインの話し合いの席や脚本が上がってきた段階でも(間違っている箇所を)言うタイミングがありました。撮影現場では、プロデューサー用のテントがあり、モニターを確認しながら、寒い中何時間も座って、震えながらモニターを確認していました。(真田とは)信頼関係も築きますし、友情も育むことができました」
宮川は、鬼才クエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル』(2003)で翻訳家を務め、マーティン・スコセッシ監督の『沈黙 −サイレンス−』(2017)では共同プロデューサーを務めるなど、ハリウッドにおける日本描写の変化を長きに渡って見届けてきた。「SHOGUN 将軍」の快挙は、その変化を「強く後押しする」と断言する。
「北米では最近、多様性(ダイバーシティー)やプレゼンテーションという言葉をよく目にします。マイノリティーであったり、普段スポットライトが当てられてない人たちを描く時に、その文化だったり、その中にいる人の声をリスペクトして聞き入れて、正当にその画を描かなくてはいけません。もちろん、今でもそれができていないのではないかと思う作品も結構あります。そういう意味で、『SHOGUN 将軍』が本当に画期的だったのは、真田さんや私がプロデューサーとして発言権を持ち、早い段階から参加できたことで、ディティールまでこだわることができたこと。この規模感で日本を舞台にした作品だと、最後はディティール勝負になってくるので、それは本当に大きかったと思います」
「ハリウッドもどんどん多様になってきましたが、まだまだだと思うんです」と宮川は続ける。エミー賞授賞式という大きな舞台で、メリル・ストリープ、ナオミ・ワッツら錚々たる俳優たちと肩を並べるように真田やアンナ・サワイが出席したことは「大きな意味がある」と力を込めた。「真田さんもアンナさんも『これがスタートだ』と仰っていて、その通りだなと思います。やっと同じ入り口に立てたのかもしれない。これから、もっと同じ土俵で作品づくりができたら嬉しいです」
原作小説の“その先”へ…シーズン2への期待
2024年を象徴するドラマとなった「SHOGUN 将軍」。その序章である第一話と第二話が、映画館の大スクリーンでも堪能できる。宮川は「プレミアでも大画面で上映できる機会がありました。大画面で楽しめる壮大なスケールの作品ですし、 エミー賞では撮影賞はもちろん、サウンドも全部門制覇しました。特に真田さんは、刀の斬れる音、鞘に収める時の音、斬られた時の音など細かいところまでこだわって調整してきたので、大画面の方がずっと楽しめると思います」と映画館で観る醍醐味を語る。
来年1月のゴールデン・グローブ賞へのノミネートにも期待がかかる中、すでに「SHOGUN 将軍」はシーズン2に向けて始動している。ジェームズ・クラヴェルの原作小説はシーズン1で描き切っているため、シーズン2以降は完全オリジナルとなる。
宮川は「脚本段階なので、制作までは至っていない状況です」と進捗を明かす。「細かいことはお話できないのですが……」と前置きしつつ、「日本人であれば誰もがよく知っている歴史の大きなイベントがいくつか続くので、それはすごく面白いと思います。史実にインスパイアされつつ、もちろんフィクションなので、そのバランスを取りながら(考えていきます)。ジャスティンや脚本家チームが優秀で、 特にジャスティンは『トップガン マーヴェリック』にも携わっているので、観客の期待に応えながら、そこを(いい意味で)裏切ることも上手い。次に何が来るか、わからないと思います」と期待をあおった。
真田やFXのジョン・ラングラフ会長は、シーズン2において日本ロケも視野に入れていると言及していた。宮川によると、シーズン1でも日本ロケは検討されていたそうだが、コロナ禍での入国制限がネックとなり断念。「できることなら、ぜひ! という気持ちはみんなの中にすごく強くあると思うので、形になればいいなと思っています」とシーズン2での実現に希望をつなぐ。
「SHOGUN 将軍」の快挙が、日本の才能ある俳優&クリエイターが海外で挑戦できるチャンスにつながる。プロデューサーとして、宮川は彼らの挑戦の扉を開き、次世代への“種”を蒔くことができたことに誇りを抱いているという。世界を大きく変えた時代劇が、シーズン2でどのような進化を遂げるのか。虎永の「時はきた」という合図を楽しみに待ちたい。(取材・文:編集部・倉本拓弥)
『『SHOGUN 将軍』エミー賞(R)受賞記念上映 ~第一話、第二話~』11月16日(土)~23日(土)8日間限定劇場上映
「SHOGUN 将軍」全10話はディズニープラスの「スター」で独占配信中
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