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山口馬木也、俳優業は“永遠の憧れ” 話題沸騰『侍タイムスリッパー』で見えた現在地

シネマトゥデイ 映画情報 2024年11月23日 8時10分

 今年の「ユーキャン新語・流行語大賞」へのノミネートが先日発表されるなど、国内で話題沸騰中のインディーズ映画『侍タイムスリッパー』。池袋シネマ・ロサだけでの上映から全国規模に拡大し、現在も上映館数を増やしている。同作で主人公・高坂新左衛門を演じたのは、ドラマ「剣客商売」シリーズや大河ドラマ「鎌倉殿の13人」などにも出演した俳優・山口馬木也(51)だ。8月17日の上映開始から間もなく100日を迎える中、山口は拡大する“侍タイ”ムーブメントをどのように受け止めているのだろうか。

“想定外”の領域へ…空前の『侍タイ』ブーム

 『侍タイムスリッパー』は、落雷によって現代の時代劇撮影所にタイムスリップしてきた会津藩士・高坂新左衛門(山口)が、自らの剣の腕を頼りに「斬られ役」として新たな人生を歩むコメディー。東映京都撮影所で撮影された本格的な殺陣、新左衛門をはじめとする個性豊かなキャラクターが織りなす人情劇が話題を呼び、SNSなどを通じて瞬く間にクチコミが拡散された。11月18日現在で上映規模は338劇場まで拡大しており、全国で多くリピーターを生み出している。

 SNSがあまり得意ではないという山口は、「少し前までは(上映拡大の)スピードがあまりにも速かったもので、ついていけませんでした。お客様の口コミ等で、劇場にも多く足を運んでもらえるようになり、ここ1週間ぐらいでようやく一安心できるようになりました」と現在の心境を明かす。

 “侍タイ”現象は多くの媒体で取り上げられるようになり、安田淳一監督やキャスト陣のメディア露出も急増した。「最初の方は、今日はこのテレビ番組で宣伝されますということが共有されていたのですが、あまりにも数が増えてしまったので、僕のところまで情報が来ないんです(笑)。前までは指折り数えて、楽しみに録画していたりもしたのですが、今ではSNSで『今日放送されていた』と知ることもあります」と山口も追いきれないほどの勢いだ。

 そんな『侍タイムスリッパー』のはじまりの場所でもある池袋シネマ・ロサは「僕の中でもパワースポット化しています」と山口。休みの日は劇場に足を運び、映画を鑑賞した観客に自ら声をかけることもあるという。「故郷に帰ってきたみたいな感覚があります。劇場自体がそういう雰囲気を持っています」

 「たくさんのお客様の目に触れて、初めて映画は完成するのではないか」山口は、世界的彫刻家イサム・ノグチの逸話を引き合いに本作への思いを語る。「イサム・ノグチさんが滑り台を作った時に『子どもたちの尻がこの作品を完成させる』という例え方をされていて、それがこの映画にも当てはまると思っています。ただ、今はどこが完成かもわからなくなってきている状態です。全国のお客様はもちろん、海外の人にももっと観てほしいという声も上がっているので、そういった意味では、今後が楽しみです。ここから先はもう“想定外”です」

誰にも渡したくなかった新左衛門役

 山口自身のハマり役となった高坂新左衛門だが、安田監督によると、もともとは新左衛門の“因縁の相手”である風見恭一郎(冨家ノリマサ)役で山口を起用することが想定されていた。

 新左衛門に違う俳優がキャスティングされたかもしれない。その可能性を想像した山口は「僕は嫌ですね」とキッパリ。「やっぱり愛着がありすぎて……。もう愛おしいといいますか、あの役を他人に(渡すこと)はすごく嫌です。もちろん、風見恭一郎役は素晴らしいですし、冨家さんが立体化して魅力的なキャラクターになりました。それでも、やっぱり演じたいのは新左衛門です」

 台本を読んだ時から、新左衛門を「すごく身近に感じた」と山口。「役の半分以上は相手であったり、周囲が作ってくださることが、僕の中で原則としてあります」と語る通り、新左衛門は「周りが作ってくれたキャラクター」だという。

 途中から、山口の中に“新左衛門の血”が流れ始めたといい、撮影現場ではキャラクターと同化して「侍になりきっていたりするんです」とその感覚を表現する。新左衛門として会津弁のセリフを放った際には、安田監督が目を潤ませて「やっと(新左衛門に)出会えました」と山口に伝えるほど、撮影現場では新左衛門としての人生を生きていた。

「俳優になること」に憧れ続けている人生

 同じインディーズ映画で社会現象を巻き起こした『カメラを止めるな!』と同じ道を辿っていることから、「第二のカメ止め」としても注目されている『侍タイムスリッパー』。安田監督を「恩人」と表現した山口は、「この作品は、僕の中では忘れられない大きな分かれ道になる作品。監督が自らお金を出して、真っ白なキャンバスから死ぬ気で生み出して、決して自分を卑下して言っているわけありませんが『そこで僕を起用するか?』という話なんですよ。安田監督の中では、本当に賭けですから。僕を起用してくださったことが、未だにすごく不思議です。これが一番の奇跡かもしれません」と感謝をにじませる。

 『侍タイムスリッパー』で新左衛門と出会っていなければ、「ここまで大勢の方に見ていただいて、認知されるっていうことは多分なかったはずです」と続けた山口。「この大きな分かれ道に、安田淳一監督がいることは間違いないです」と力強く語った。

 そんな山口に今後のビジョンについて聞いてみると、「それが、ビジョンがないんです」と意外な答えが返ってきた。「それってなぜだろうと思うんです……。もちろん、ご縁があったら嬉しいことですが、それ以上に自分がこういう役をやりたいとか、 もともとないんですよ。ハリウッド進出とかも考えていません」

 というのも、山口には「俳優になりたい」という願望が、ずっと心の中にあり続けているのだという。「もちろん『自分は俳優です』とは言いますが、もともと何もできなかったし、コツコツやって、毎回振り出しに戻って、また一から這い上がって、自分の中では未だに『俳優になれている』という感覚が出せていないんです。俳優になるということに、憧れ続けているんです」

 『侍タイムスリッパー』のヒットで山口の知名度はさらに上昇しているが、本人は「多分そこまではいっていない気がします」と謙虚な姿勢を見せた。「俳優として尊敬すべき人がこの世の中にはたくさんいて、やっぱりその人たちに近づきたいし、一緒にお仕事もしたいです」

 役者の道を探求し、極めようとする山口はまさに“職人”だ。「どれだけ真っ直ぐな線を引けたとしても、多分もっと完璧を目指すと思います。自分が納得したものが生涯かけて引けるかどうかわからないですが、本当に引けたら辞めると思います。歳を重ね、いろんなことを勉強したり知ったりすることで、最初に描いていた線がどんどん狭まる可能性もあります。(俳優業には)終わりがないんです」

 「もっといろいろな方に出会いたいし、いろいろな俳優さんと共演したい」と目を輝かせた山口。先日発表された第49回報知映画賞のノミネーションでは、主演男優賞候補に名を連ねており、日本アカデミー賞への期待も高まっている。『侍タイムスリッパー』と同じく、山口の快進撃はまだまだ続く。(取材・文:編集部・倉本拓弥)

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