映画『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』のポール・メスカルとデンゼル・ワシントンが来日時にインタビューに応じ、俳優陣とは通常リハーサルをせず、12台のカメラを一気に回すためどこから撮られているかもわからないという巨匠リドリー・スコット監督ならではの撮影現場や、演技論について語り合った。
初共演について聞くと「ひどかった!」と声をそろえ、すぐに笑い合うなど今や気心知れた様子の二人。ドラマ「ふつうの人々」(2020)でブレイクし、『aftersun/アフターサン』(2022)でアカデミー賞主演男優賞ノミネートも果たしたポールだが、まだ28歳。デンゼルという憧れの対象とどう向き合えばいいのか初めは緊張していたが、それは杞憂に終わったという。
「20代後半で、ずっと崇拝してきた人と親密に演技をすることになるなんて予期していなかったから、共演者になるのは難しいんじゃないかと思っていた。だけど、彼は完全な“創造”と共にやってきた。完全に献身的な共演者なんだ。それで、僕は解き放たれたよ。憧れの人でありながら、ただ一緒に働く人になれたから。共演シーンは毎秒素晴らしかった。僕のお気に入りはクリスマスの後の撮影だね。僕たちのシーンのほとんどはそこで撮影したから」(ポール)
ポールが「リドリーはリハーサルをしない傾向にある。だから二人でこっそりセリフを言ってみたりして」と続けると、デンゼルは「そうそう!」と相好を崩す。ポールは「僕はリハーサルをするのは好きだけど、それ以上に監督のスタイルに従うのが好きなんだ。デンゼルも言っていたけど、監督と俳優の根本的な違いはそこにある。映画は監督のカンバスで、ステージは俳優のカンバス。俳優は他の人のカンバスの中で演技をして、そこでどう自分の色を出すかに尽きる。だけど、撮影が進むにつれて、僕たちは次第にミニリハーサルをやるようになっていったよ。リドリーなしで」と密かにリハーサルをしていたと明かした。
デンゼルも「まあ、リドリーは他に25のことを心配しないといけないからね。俳優はわがままだから、もし彼が俳優たちに助けを求めることを習慣化させたら常に煩わされることになる」と笑って付け加えた。
そして、遠くから多数のカメラで一気に撮るスコット監督の撮影現場では、俳優陣はカメラを一切意識せずに演技をする。“カメラを何台見つけられるかゲーム”をやったこともあると明かしてデンゼルを驚かせたポールは、「12台というのは、注意を払うには多すぎるよ。半分は自分の後ろにあるから、そもそも見えないし。カメラは僕たちに決して近づかず、引きとクローズアップを同時に撮っているんだ。だから劇場で演技をしているような感じだった」と振り返った。
ポールが演じたのは、第1弾『グラディエーター』には少年として登場したマキシマス(ラッセル・クロウ)とルッシラ(コニー・ニールセン)の息子ルシアスだ。『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』では帝位継承者であるために命を狙われ、ローマ帝国を追われたルシアスが、成長し、妻を殺したローマ帝国軍への復讐を胸にグラディエーター=剣闘士となる姿を追う。
グラディエーターとしての体作りの過程では、心理面でも大きな変化があったとポールは言う。「毎日ジムで過ごして、他の人を傷つけることができるような体──これって変な言い方かな(笑)──になると、興味深いことが起きた。ホルモンのせいかわからないけど、“ゾーンに入る”みたいな感じで。コロセウム(円形闘技場)も怖くなかったし、完全に世間知らずだと思うけど(笑)、元UFCファイターやボクサー相手に戦って勝てると思うようになった。僕はただの俳優なのに(笑)」
一方のデンゼルが演じたのは、ルシアスの復讐心に目を付け、グラディエーターの世界へと誘う謎の奴隷商人マクリヌス。カリスマ的でありながら、どす黒い野望を秘めた狡猾な男だ。「自分の役柄がどんなものか掘り下げる前に、監督と脚本に惹かれた。だから、“この役だったから”やることにしたとは言えない。脚本を読んで、監督を知り、共演者を知り、そして役を掘り下げる。その時初めて『僕はこれか!』みたいな(笑)。『なるほど、ルシアスを操るのか』と。マクリヌスに何が起こるのか、彼はどうしてそのようなのか、誰がかつて彼を操り、利用したのか。そして、彼が自分の身に二度と起こさないと決めていることは何なのか、と。そうした何百万の問いを考えていく」(デンゼル)
「役については、『ピーン! こういうことか!』と理解する瞬間が常にあるとは限らない。その段階ではまだ答えられないこともある。ただ、セットに全てを持ち込んで、そしてやるんだ。セットに入る前に、自分がやること全ての理由を知るべきではない。なぜなら、それはその場で見つけなければいけないから。今ここで(インタビューで)やっているようにね」(デンゼル)
デンゼルのこのアプローチには、ポールも100%同意する。「間違いなく、それが演技で一番楽しい部分だ。自分が“ゾーンに入っている時”に、“ゾーンに入っている”人と演技をする。そうすると本当に驚くようなことが起こる。脳の理性的な部分を失い、ただクリエイティブに、ジャズをプレイしているようになるんだ」と語っていた。その言葉通り、ポールとデンゼルの共演シーンは常に変化する力関係も相まってとんでもなくスリリング。本作のハイライトの一つとなっている。(編集部・市川遥)
映画『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』は公開中
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