大河ドラマ第63作「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)で「源氏物語」の作者・紫式部(まひろ)役で主演を務めた吉高由里子が、約1年半にわたって共演した藤原道長役・柄本佑との撮影を振り返った。
本作は、平安中期に1000年の時を超えるベストセラーとなる「源氏物語」を生み出した紫式部の人生を、平安の貴族社会で最高の権力者として名を残した藤原道長との絆を軸に描くストーリー。脚本を、2006年放送の大河ドラマ「功名が辻」、吉高と柄本が出演したドラマ「知らなくていいコト」(2020・日本テレビ系)などラブストーリーの名手としても知られる大石静が務めた。
くしくも大石脚本のドラマ「知らなくていいコト」でも惹かれ合う男女の設定で柄本と共演していた吉高。それから4年ぶり。吉高と柄本演じるまひろと道長(幼名:三郎)はそろって第2回から登場し、最終回まで撮影を共にした。下級貴族の生まれであるまひろは、上級貴族の道長と幼いころに出会って以来、身分の差を超えて惹かれ合い、それぞれ別の相手と結婚してからも交流は続き、まひろは道長の子・賢子を出産。道長が左大臣として権力を握るようになってからは道長の依頼により、彼の娘で中宮の彰子(見上愛)に仕えながら「源氏物語」を書くことになる。
本作では世界的に知られる「源氏物語」が生まれたきっかけが、道長が政(まつりごと)のために紫式部に依頼したという解釈がなされた。第46回ではまひろが「あの人はわたしに書くことを与えてくれたの。書いたものが大勢の人に読まれる喜びを与えてくれた。わたしがわたしであることの意味を与えてくれたのよ」と語る場面があったが、本作で描かれたまひろと道長の関係について、吉高は「もう視聴者の皆さんわかっていらっしゃって、わたしの言葉は必要ないはず(笑)」と前置きしつつ、こう語る。
「二人がそれぞれ月を見上げる描写が多かったと思うんですけど、イコールまひろと道長が互いを思っている描写だよね、と佑くんと話していました。月がない日はないように、互いを思わない日はないぐらい一心同体というか。互いの存在が生き甲斐であり、生きる糧になっていたんじゃないかなと思います。『川辺の誓い』(11月3日放送・第42回)では二人の会話、距離感から、恋愛でもない、友情でもない、二人の達観した関係がいよいよ最終形態に突入していて。二人のソウルメイトの感じがよく出ていて、とても素敵な回だと思いました」
まひろが「源氏物語」を書き始めてからは道長がプロデューサー的な役割を担い、ビジネスパートナーとしての関係が生まれた。しかし、第45回では「源氏物語」を書き終えたまひろが大宰府に旅立つ決意をし、道長に別れを告げた。このときのまひろの心境について、吉高は「もう苦しかったんじゃないかな」と振り返る。
「まひろは、自分が道長の役に立つことはもうできないとわかってしまっている上に、 手に入らない人のそばにずっといる苦しみもあって。ここにいる意味って何なんだろうとか、人生が虚しくなっている時期だったと思います。だからわたしがわたしでない場所に行って解放されたい気持ちもあっただろうし。道長から、自分を必要とされる言葉も聞きたかったのかもしれない。でも……もう苦しかったんじゃないかな。そばにいるのが。道長のためにできることはやり切ったっていう達成感もあったと思うんですけどね」
まひろは大宰府に旅立ち、今生の別れになると思いきや、まひろの従者・乙丸(矢部太郎)の懇願を受けたことから再び都に舞い戻り、道長と再会することになる。劇中では、まひろは旅先で大宰権帥・隆家(竜星涼)から道長が出家したことを聞かされ驚く展開だったが、吉高自身は道長の剃髪シーンに立ち会ったという。
「実はその日、自分の撮影は終わっていたんですけど、セットに残って道長の剃髪シーンを見届けていたので、道長と再会したときのシーンではサプライズ感はなかったんですよね(笑)。佑くんは全部地毛でやると2年間かけて髪の毛を伸ばしていて。それだけ気持ちが入っていたわけで、そういうふうに大事にしてきたものを切り落とす瞬間を、わたしも見ていたいと思い、残らせていただいたんです。佑くんは“言葉じゃ説明できない、わからない感情がこみ上げてきた”と言っていて。そういう瞬間を一緒に見られて、改めて共に戦ってきた感覚になりましたね」
まひろとして道長の剃髪姿を観たときの心境については「出家したと聞いていても、いざ入道姿になった道長を目の当たりにすると、びっくりはしますよね」と吉高。「『川辺の誓い』の回で病に倒れて弱っている道長の姿にショックを受けるのとはまた別で、衝撃はかなりあったと思います。あの時代、出家は死を意味するとも言いますから、ついに……という気持ちはあったと思います。でも一方でほっとしたのかなとも。もう苦しんでいる、弱っている道長の姿を見なくてもいいんだと。47回で再会したとき、まひろと道長はどれぐらい会っていないんだろうかと確認しました。わたしも1年半やっていて、こんなに気持ちがぐちゃぐちゃになることはないので、どういう気持ちだったのかと今一生懸命思い出しながら話しています」と言葉を紡いだ。
柄本について「(シーンについて)佑くんはどう思っているんだろうと自然に聞きたくなるような俳優さん」と信頼をにじませる吉高。まひろと道長の秘密の逢瀬の場所である廃邸のシーンなどでは「ぐったりするくらいぶつかり合い、話し合った」といい、「道長役が佑くんで本当に良かった」としみじみ。「ちょっと情けない三郎の部分も、(権力者として)恐ろしい道長になっている部分も、表情がころころ変わって。誰しも表の自分と内に秘めている自分の差っていうのがあるとは思うんですけど、そういう人間の生々しさを表現できる役者さんのお芝居を1年半も近くで見られたのは、すごく贅沢なことだなと感じています」
クランクアップもやはり柄本と一緒。10月25日にアップしたときの心境を、こう振り返る。「いつもはカットがかかるとスタッフさんの“チェックします”の声がかかるのが普通なんですけど、あの日はセットに人がぶわーっと集まってきて、“みんなでこのモニターを見ましょう”と。三郎とまひろ時代から道長と藤式部になってからのモンタージュ映像を作ってくださって、それを観ていたら1年半ってこんなにあっという間なんだなと。寂しい気持ち、嬉しい気持ち、安堵もあったけれど、その時は泣かなかったんです。でもチーフ演出の中島(由貴)さんが花束をくださったときに号泣されていて、つられて泣いてしまいました。凜として終わりたかったんですけどダメでしたね(笑)」
1年半にわたる撮影を終えたものの「解放感もありますけど、ロスっていうほど安心はしていないんです」と、まだ緊張感はぬぐえないという。「最終回が放送されるまでは、緊張感はありますね。筆の練習をしなくちゃ、セリフを覚えなきゃ、といった宿題から解放されたことにほっとしている部分はありますが、でも向かうところがないと寂しくもあるんですよね……。来週の撮影に向けて週末に準備していた自分が1年半あったので」
取材当日、髪を染めて現れた吉高。「1年半もの間、重い衣装を着て黒髪のカツラをしていた反動ですかね(笑)」と気分転換したといい、くったくのない笑顔で報道陣を魅了していた。(編集部・石井百合子)
【関連情報】
・【画像】道長、涙の剃髪シーン 第45回より
・【光る君へ最終回あらすじ】まひろ(吉高由里子)が全てを打ち明ける
・まひろと道長の美しすぎるラブシーン!【画像】
・柄本佑がたどり着いた「光る君へ」道長とまひろの関係
・まひろの言葉に号泣の道長【画像】
・「光る君へ」紫式部が大宰府に向かうオリジナル展開の理由