吉高由里子が紫式部(まひろ)役で主演を務める大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)が15日、最終回を迎えた。最終回では主人公まひろと、深い関係にあった藤原道長(柄本佑)との永遠の別れが描かれたが、シーンの裏側をチーフ演出の中島由貴が語った(※ネタバレあり。最終回の詳細に触れています)。
大河ドラマ第63作となる「光る君へ」は、紫式部の生涯を、平安貴族社会の最高権力者として名を馳せた藤原道長との深い関係を軸にオリジナル脚本で描いたストーリー。脚本を、大河ドラマ「功名が辻」(2006)や、吉高と柄本が出演したドラマ「知らなくていいコト」(2020・日本テレビ系)などラブストーリーの名手としても知られる大石静が務めた。
本作のチーフ演出を務めた中島にとって、大河ドラマに携わるのは1996年の「秀吉」(竹中直人主演)、2012年の「平清盛」(松山ケンイチ主演)に続いて3度目。10月25日にクランクアップを迎えた。主演の吉高は、その際に中島が号泣していたことをインタビューで明かしていたが、どんな心境だったのか。
「(撮り終えて)安心した気持ちもあったと思うし、何よりもその場が温かかったからだと思います。まひろと道長、二人のシーンを撮り終えて その収録に来てない俳優たちやスタッフたちも集まってくれてたんです。泣くつもりはなかったんですけど、まず柄本さんに花束を渡し、柄本さんの最後の挨拶を聞いている段階で泣けてきて。確か、現場の雰囲気が良かったというようなことを話されていて、しかも訥々と。その後、泣いたまま吉高さんに花束を渡したら、吉高さんもつられて泣いてしまって。吉高さんには泣いてほしかったんですけど、彼女は“ここで泣くつもりはなかったのに……”とおっしゃっていて(笑)。スタッフさんたちがみなニコニコしていたので、そんな彼らの空気に押されて涙が出た、というのもあります」
~以下、最終回のネタバレを含みます~
なお、最後に撮影したのはまひろが死にゆく道長に寄り添い、物語を読み聞かせるシーン。道長の妻・倫子(黒木華)に「どうか殿の魂をつなぎとめておくれ」と懇願されたまひろが道長のもとに駆け付けると、道長の目はもう見えておらず、まひろの手を探って握る。「この世は何も変わっていない……俺は一体何をやってきたのであろうか」と悲観する道長に、まひろは「戦のない泰平の世を守られました。見事なご治世でありました」「それに源氏の物語はあなた様なしでは生まれませんでした」と語りかける……。スタッフの気配りもあり、二人が永遠の別れに向かっていくシーンで終えるようスケジュールが組まれ、撮影最終日は一日中二人きりのシーンを撮ったという。中島は「撮っている間、ほぼずっと泣いていた」と振り返る。
「二日に渡って二人のシーンを撮りました。まずは、まひろが道長の手を取って涙しているのだけれど、声だけは元気というか、不安を感じさせないように語りかける。このシーンを撮り続けている間、もうずっと感動していて気持ちとしてはずっと泣いていた感じです。翌日は、ワンシーンの中で数日経過していく設定で、道長は日にちを追うごとに弱っていき、まひろは毎晩彼のもとに通っては不安を与えないように、死なせないようにお話を聞かせる……というシーン。演技なのですが、柄本さんの痩せ具合も相まって、本当に一人の人間が死に向かって行く様をまひろと見届けるような気持ちになってしまい、ここも泣きながら撮っていました」
死にゆく道長を目の当たりにしながら、まひろが「声だけは元気」に努めようとするのは、ドラマを通じて描かれていた「時に思っていることと言っていることが裏腹」であるまひろの人物像を顕著に表したものだという。
「人ってそんなに簡単に答えが出ないもの。このドラマでは常にまひろと道長の感情が行ったり来たりしていて、1+1=2というようには描いていません。二人ともあまり気持ちをストレートに出すことがないのです。特にまひろは文学者ということもあってめんどくさい人。だから道長ともどうしてもすっきりしないやり取りになっていくのですが、でもそれが人だよね、と。もちろん、大河なので史実とは向き合わなければいけないのだけれど、大石さんも(歴史ドラマというより)“人間ドラマ”として書いてくださっている」と前置きしながら、本シーンの意図をこう語る。
「まひろが道長に水を飲ませる後半のシーンでは、まひろは憎まれ口をききながら道長を生かそうとする。死にゆく道長に対して厳しいことを言ってでも生かしたい、という思いがまひろにはあるので、あえてお互い笑っちゃうくらいの明るい方向の芝居をお願いしました。前半はあるブロックの本番で吉高さんが柄本さんの手を握った時に、顔を伏せたんです。やっぱり手を握ったら万感の思いが溢れてきちゃうよねと思ったので、吉高さんに“今、道長の手を握った時に気持ちがグッとなったよね。彼には(まひろの姿が)見えていないから、泣いてもいい”という話をして。だけど、声は泣いていない体で喋ってほしいと。もうすぐ死んでしまう愛しい男を目の前にして、まひろがボロボロ泣きながら自分の感情を抑えつつ話しかける姿は、ものすごく感動的でした」
特にこの場面での吉高は「予想を上回る芝居」だったといい、「説得力が半端ない。涙を堪えるのが大変だった」と続ける。あらためて、吉高と柄本の魅力を問うと、中島はこう語った。
「まひろと道長のシーンは本当にたくさんいいシーンがあるんですが、吉高さんも柄本さんも常にフラットで現場に来られました。だから、そのままでというわけにはいかなくて、シーンの解釈を伝えたうえで同時に三つぐらいのことをやってもらったり。一つの芝居の中で“表はこうで内はこう。だけど出すのはここ”といったふうに。二人とも、そういうめんどくさい演出の細かいあれこれを嫌がらずに聞いてくれるのです。私の面倒な注文をインプットして、それ以上のものをアウトプットする様をずっと見てきたので、きっと二人とも“聞く力”が強いんじゃないかと。聞いて、演技に昇華する能力が高いのだと思います」
なお、最終回後も残された謎の一つが、まひろが産んだ道長の隠し子・賢子(南沙良)は、果たして実父が道長であることに気づいているのかということ。これに対しては、「前の場面ですべてを知った倫子がまひろに“このことは死ぬまで胸にしまったまま生きてください”とくぎを刺しているので、約束したからには賢子にも話せない。まひろは事実を告げぬまま旅立ち、賢子は一生知らないまま生きていくことになると思います」と話していた。(取材・文:編集部 石井百合子)
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