12年ぶりに再始動した「踊るプロジェクト」の新作映画『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』。27年前の連続ドラマ「踊る大捜査線」から続く、社会現象を巻き起こした大ヒットコンテンツは、同2作で室井慎次(柳葉敏郎)の物語に決着をつけた。「踊る」シリーズをけん引し、『室井慎次』のメガホンを取った本広克行監督が、「踊る」に対する思いと撮影裏話を語った。(以下、『敗れざる者/生き続ける者』のネタバレを含みます)
「踊る」に関してはファン目線
『室井慎次 生き続ける者』のラストシーンに、青島俊作(織田裕二)がサプライズ登場してファンが大いに沸いた直後、青島を主人公とした新作『踊る大捜査線 N.E.W.』が2026年に劇場公開される予定であることが発表された。室井の死を悼んでいたファンにとっては朗報だっただろう。本広監督も「僕は『踊る』に関してはファン目線なんです。だから、最後に室井さんが死んでしまうのは悲しいなと思いました」と語る。
「室井さんがいなくなったことで周りの人が動くという物語ですけど、それに対して一番いろいろなことを思うのは誰かというと、青島くんだと思うんです。だから、実は監督するお話を受けたときから、あのラストはイメージしていました」と本広監督は打ち明けた。27年前から「踊る」を貫く軸は、青島と室井の”約束”だからだ。結果的に織田が出演することになったが、そうでなくても何らかの形で青島を表現したのだろう。「室井さんがいてくれたから、いい方向にみんなの人生が変わっていった。それが遺言みたいなものですもんね。亡くなって、新しい何かがまた始まろうとしている、ということを出したかったんです」
青島の登場は「ニュートラルにしたかった」
青島登場シーンの撮影現場で本広監督は、「柳葉さんと織田さんが亀山(千広プロデューサー)さんを交えてわーって盛り上がっている輪に、僕は近寄らないようにしました(笑)」という。それはなぜか。「室井さんが亡くなってから来る青島は、ニュートラルな感じにしたかったんですよね。いろいろハッキリすると面白くないですから。だから、僕は遠くから織田さんに『お久しぶりでーす』って手を振っていました。近づくと、織田さんから聞かれますから(笑)」と明かした。「もちろん、あのシーンの台詞は現場で調整したので、お話はしていますけどね」
「エンドクレジットの最後、子どもたちが乗ったダットラを誰が運転しているのか、石津夫妻(小沢仁志、飯島直子)の息子の話を聞いたときに室井さんが誰に電話しているのかとか、観た人が考えられるようにしてあります。小説のようにしたいなと思っていましたから、僕らは考える材料を提供しました。たぶんそれが面白いはずだし、映画っぽいんだと思います」とニヤリ。本広監督なりの設定はあるものの、観客には自由に考えてほしいのだという。「逆に僕は『面白いことを思いついたら教えてよ』と思う。それが『踊る』だなと思います」
本広監督にとって、「踊る」は「めちゃくちゃ大変な作品」なのだという。「とにかく人がたくさん出るので、それをどう捌くか。特に『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』あたりになると、もうメインの方たちがみなさん連ドラの主役クラスになってらっしゃった。それぞれのキャラクターにぜんぶドラマがほしいから、めちゃくちゃ考えました。そこに亀山さんはまた、小栗旬(鳥飼誠一役)とか人気者を入れてくるから、よけいに(笑)。青島くんと室井さんを演出していると、すみっこで真下(正義/ユースケ・サンタマリア)が拗ねていたりね(笑)」と撮影の裏話を明かした。
「でも、いいところもいっぱいあります。キャラクターがみんな育ってくれているので、服1着でもファンが喜んでくれるんです。『これが室井さんのコート!?』とか『すげー! 青島コートだ!』とかって(笑)それは青島くんじゃなくて単にコートだよ? しかも何パターンもあるうちの1枚だよ? と言ってもみんな感動してくれるんです。いやもう、すごいコンテンツだと思います」としみじみ語った後、どこかうれしそうに言った。「こんな作品、この先もう絶対出会えないですよ」(取材・文:早川あゆみ)
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