人気ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(2016)の脚本・野木亜紀子&演出・土井裕泰コンビによるTBS新春スペシャルドラマ「スロウトレイン」(1月2日、よる9時~)。本作で、鎌倉に住む三人姉弟の長女・葉子を演じる松たか子が取材に応じ、2017年のドラマ「カルテット」で作品を共にした土井への思いや、ターニングポイントとなった作品について語った。
松が演じる葉子は、交通事故で両親と祖母を亡くし、妹、弟と共に鎌倉に住む女性。フリーの編集者として地に足の着いた生き方をしている一方、独身であるため妹・都子(多部未華子)、弟・潮(松坂桃李)が自分に対して何か思っていることがあるような気配を感じている女性だ。
松いわく、葉子は「当て書き」だったそうで「本読みで初めて野木さんにお会いしたとき『当て書きですから』と言われたんですよね」と笑うと「脚本を最初読んだときはすごく面白くて感動したのですが、同時に葉子さんは非常にちゃんとした人というか、普通に働いて生活も抱えて、しっかり生きている人。説得力を持って表現できるのかなという心配があったんです」と“当て書き”という言葉が、プレッシャーになったようだ。
一方で、松なりに野木の発言に向き合った結果「はたから見ると、葉子さんはいろいろなことを背負って大変だなと思われるような女性なのですが、そんな苦労みたいなものは表に出さず、いまをどう生きるか……という思考に展開していけるような人。そこはすごく共感できましたし、そんな部分を私にイメージしていただけたのなら、自分もそうありたいなと思ったんです」と撮影に臨んだ思いを語る。
松が長女で、妹が多部、弟が松坂と演技派が揃った三姉弟は、放送決定が報じられたときから大きな反響があった。松は「多部さんは去年舞台(※NODA・MAP第26回公演『兎、波を走る』)で一緒でしたが、映像では初めて。松坂くんも初めましてだったので、ご一緒するのがとても楽しみでした」と期待に胸を膨らませてのクランクインだったというと「本当に居心地が良い俳優さん。お話していても楽しいですし、話さなくても大丈夫。撮影中も『この場面どうしようか』なんて話をした記憶がない。そういう必要がないぐらい、向かい合うとお芝居にスッと入れるんです」と相性の良さを強調していた。
また劇中、元担当編集だった星野源演じる作家・百目鬼見(もめきけん)とのやり取りも見どころだ。百目鬼はやや面倒な作家として、葉子の手を焼かせる。「星野さんとは年末に他局の”某アワード”でご一緒していたのですが、お芝居は初めて。作品を観ていただければわかると思いますが、すごく会話のテンポが弾むというか、演じていて楽しかったです。野木さんのドラマにたくさん出演していて、テンポ感やムードが分かっていらっしゃるんでしょうね。ついて行けばいいという安心感がありました」
松が本作に出演する際「ぜひ」と脚本を読む前から前向きだったのが、演出を務める土井の存在。第54回ギャラクシー賞テレビ部門の優秀賞など数々の賞を受賞した「カルテット」で作品を共にした監督だ。
松は「土井さんの卒業制作的な意味合いもある作品だったので、お声を掛けていただけてすごく嬉しかった。その気持ちで本を待っていたんです」とオファーを受けたときのことを振り返り、「土井さんは多分、心の底では絶対『こうしてほしいんだけどな』という思いを抱えているはずなのですが、そういう素振りを一ミリも出さない。ずっと見守ってくださるんです」と特徴を挙げる。
一方で「何も言わないのではなく、どこかで誰も傷つけずに気づきを与えてくれるんです。それは俳優だけではなくスタッフさんも一緒」と称賛を続けると「多くのことを与えてくださるなか、ご自分もスタッフさんや現場でいろいろなことを吸収している。いろいろな人のエネルギーをご自分にも取り入れる柔軟さみたいなものを今回の現場では感じました」と語っていた。
作品では、葉子、都子、潮の三人に分岐点が訪れる。松にとっての分岐点を問うと「いろいろありますが、いまパッと思い浮かぶのは、初めて連続ドラマに出演させていただいた『ロングバケーション』(※1996年にフジテレビ月曜9時枠で放送)という作品ですかね」と切り出すと「ちょうど大学生になったばかり。19歳ぐらいのとき。もともと舞台をやりたくてこのお仕事の世界に入ったので、連続ドラマのお話に迷いがあったんです。でも『一つのチャンスかも』と周囲の方に助言していただき出演したことで、新たな道が開けました」とターニングポイントの一つになったという。
その後、松は数々の連続ドラマに出演するようになったが「あのときドラマに出ていなかったら、また違う道に進んでいたかもしれません。自分の人生ですが、自分の考えだけで決まるものではないんだなと感じる出来事でした」と振り返っていた。
2025年は本作からスタートする。松は「近年、1年に1本舞台をやっていたのですが、2024年はなかったんです。その分、ほかのお仕事で素敵な出会いもあったのですが、1年空いたことで『やっぱり舞台をやりたいんだな』と認識した1年でもありました」と語ると「2025年は後半に舞台があるので、元気に健やかに過ごせたらいいなと思っています」と抱負を語った。(取材・文:磯部正和)
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