今年2月に没後15周年を迎える名優・藤田まことさんの代表作「剣客商売」の第3シリーズ&第4シリーズ、スペシャル版(全6作)が、「没後15年 藤田まこと特集」としてCSホームドラマチャンネルで一挙放送される。同作の第4シリーズ(2003)から主人公・秋山小兵衛(藤田)の息子・大治郎を演じたのは、話題沸騰のインディーズ映画『侍タイムスリッパー』で注目を浴びる俳優・山口馬木也だ。作品の一挙放送にあわせて山口がインタビューに応じ、「剣客商売」への出演で感じたこと、時代劇への思いを語った。
作家・池波正太郎の代表作を藤田さん主演でドラマ化した本作は、悠々自適な生活を送る剣の達人・秋山小兵衛と、剣の道一筋に生きる生真面目な男・大治郎という、対照的な親子の生き方と、二人を取り巻く人々の人情を絡めた時代劇だ。
現在もロングランヒットを続ける『侍タイムスリッパー』が、奇しくも日本アカデミー賞の7部門で優秀賞を受賞したタイミングもあり、山口が出演する時代劇としても再注目されそうだが、本人は「おそらく前とは違った見方をされるんでしょうね。20年前ですから、本当にスタートラインに立ったばかりの頃。よちよち歩きだった時にああいう大役を任されていたなんて、今考えると本当に怖いですよ」と笑ってみせる。
本作には、時代劇の名手である一流のスタッフが参加。映像をつくり出す上でも、細部にわたって丁寧なつくり込みが行われていた。「まわりの環境が非常にいいんですよ。衣装、美術、セット、小道具もそうだし、(銀座の名店『てんぷら 近藤』の近藤文夫氏が監修した)お料理もそう。だから現場にはノイズがまったくない。おそらく美術の西岡(善信)さんがやられたことだったと思うのですが、撮影の時にはどこかから取ってきたコケを小屋の前に植えて、そこに小川を流したりしてセットをつくっていました。細部の見えないところまで、その時代の雰囲気に合ったものを用意されている。そういうことってお客さまにも伝わるんですよね。本当にぜいたくな現場だったなと思います」
思い返せば、時代劇に初めて出演したのは、巨匠・黒澤明監督の遺稿を黒澤組のスタッフが映画化した『雨あがる』だった。まさに俳優人生において、なかなかできないような経験を積み重ねてきた。「本当に最初からずっとぜいたくな現場にいさせていただいたなと思います。『侍タイムスリッパー』だってインディーズ映画で、50過ぎの役者が注目されるなんて異常ですよ。だから今まではそんなことを思ったこともなかったんですけど、ここに来て、もしかしたら自分は相当強運だったんじゃないかと思うようになってきた」としみじみ語りつつ、一方でその強運にあやかりたいという人もいたのだとか。「昨年末に競馬の有馬記念の予想をしてほしい、という仕事が来たんですよ。それまで競馬もやったことなかったんですけどね(笑)」と笑いながら付け加えた。
今はあらためて「時代劇がなければ俳優を続けられなかった」と感じている。「僕は役者の仕事を始めた時に、頼れるものが何もなくて。芝居の善し悪しは何を基準にしたらいいのかわからなかった。でも、時代劇だけは教えてもらえることができたんです。刀の抜き方、着物の着方、座り方といった所作は、覚えればできるんです。これが僕の中ですごく助けになった。もちろんそれだけに頼るわけにはいかないですが、助けになったことは間違いない。そしてそれは現代劇にもリンクしていくんですよね」と山口は振り返る。
殺陣の練習も、殺陣師や先輩の役者から学んだことをベースに、自分で練習法を編み出し、練習を積み重ねた。「公園ですり足をしながらタオルで殺陣の練習をしていました。タオルってフニャフニャだから。そんなタオルでもしっかり立てるように殺陣をする、というのをバロメーターにしていたんです。それが何に結びつくかわからなかったですけど、そのときはそれを信じてやっていました」
テレビなどの時代劇制作本数が減ってきたということもあり、時代劇を支えてきたキャスト、スタッフの技術やノウハウを若い世代に伝えるということの必要性を感じているという。「以前は当たり前にあった“伝えることの美学”が何年か前から途絶えているように感じます。時代劇においては、伝えるということは特に重要です。たとえば時代劇用の刀である竹光の扱い方にしても、本物の刀と比べても重心位置を変えて、重く見せるという技術は、武術とはまた別のものなんです。そういうのは伝えていかないと途切れるんですよ。演技ならば、それぞれの感性とかである程度完成させることができるかもしれないですが、時代劇の技術というものは伝えていくしか方法がない。だから伝えるということは本当に重要なんだと思います」と力強く語った。(取材・文:壬生智裕)
「剣客商売スペシャル」全6作品、2月11日(火)ほか一挙放送
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