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キーラン・カルキン起用の奇跡 ジェシー・アイゼンバーグ監督『リアル・ペイン~心の旅~』の裏側

シネマトゥデイ 映画情報 2025年1月31日 18時2分

 ジェシー・アイゼンバーグが脚本、監督、主演を務め、アカデミー賞の脚本賞と助演男優賞にノミネートされた『リアル・ペイン~心の旅~』(全国公開中)。先立って発表されたゴールデン・グローブ賞の映画部門では、作品賞(コメディー/ミュージカル)など4部門でノミネートされ、キーラン・カルキンが助演男優賞を受賞するなど、高評価を得ている。アイゼンバーグが、キーラン・カルキンとの共演や撮影の裏側を記者会見で語った。

 ニューヨークに住むユダヤ系アメリカ人のデヴィッド(アイゼンバーグ)と従兄弟のベンジー(カルキン)は、最近亡くなった祖母の遺言で、彼女がかつて住んでいたところを見るためにポーランドを訪れ、ツアーグループに入って強制収容所などを見て回ることにする。子供の頃は兄弟のようだったが、大人になってから疎遠になっていた2人は、一緒に旅をするうちに、お互いに心に溜めていたものをぶつけ合うことになるのだが……。

 性格がまったく違う主人公たちの微妙な心理描写が非常にリアルでありながらユーモアに満ちており、先が読めないストーリー展開も秀逸。脚本家、監督、そして俳優としてのアイゼンバーグの際立った才能を感じさせるオリジナリティあふれる感動作だ。
 
 2008年、映画の主人公たちと全く同じように、妻と一緒にポーランドのあちこちをバックパック旅行したというアイゼンバーグ。しかし、実際に脚本を書いたのは2年前、コロナ禍の最中だったと言う。

 「この映画には自伝的な部分がたくさんあって、主人公たちの祖母ドリーおばあさんは、106歳で亡くなった大叔母のドリスがモデルになっています。彼女は僕の人生で最も大切な人で、30代前半のとき、一緒に暮らしたこともあります。とても厳しい人でしたが、僕が俳優になって、自分の道を見失った時、彼女は僕を支えてくれました」と振り返る。

 カルキンは、突拍子もない言動で周囲を驚かせるが、チャーミングでどこか憎めないベンジー役に見事にはまっている。しかい、アイゼンバーグは自分でベンジーを演じるつもりだったという。

 「以前『The Spoils』という戯曲を書いて、ベンジーというキャラクターを演じたんですが、(今作の)ベンジーは、そのキャラクターにインスパイアされているんです。その戯曲は(映画とは)全く違う作品でしたけどね。でも、今作のプロデューサーのエマ・ストーンに、ベンジーのように不安定な性格のキャラクターを演じながら、監督や撮影現場の管理をするのは難しすぎると助言してもらい、デヴィッドを演じることにしました。その決断で最も幸運だったのは、本当に素晴らしいキーランを起用できたことです」とアイゼンバーグは語る。

 「キーランの仕事はよく知りませんでしたが、オーディションで一度会ったことがあったし、一時期彼と交際していたエマを通して会ったこともありました。彼は、信じられないほどぶっきらぼうなんですが、とても親切で感情的にオープンなんです。まさにこのキャラクターのようでした。また、僕の妻と妹がキーランを勧めてくれたんです」と、キャスティングの経緯を明かした。

 デイヴィッドとベンジーのやりとりが最高に面白く、演技のタイミングが絶妙。アイゼンバーグに撮影現場で2人がどうコラボしたのか尋ねると、「彼との撮影は本当にワイルドな経験でした」という答えが返ってきた。

 「撮影監督と3か月間、絵コンテを描き、映像だけでストーリーを語るような素晴らしいショットを考えたんです。でも、キーランが現場にやって来て、(撮影プランを説明すると)『なぜ僕があそこに立たなきゃいけないの? あそこには立たないよ』と言うんです。『準備した多くのことが無駄になってしまう』と思いました。それで2日目、カメラをドリーから外して、キーランにセット内を走り回らせて撮影し、プレイバックを見ると、『こっちの方がいい。これでいこう』となったんです」とキーランに自由を与える演出に切り替えた。

 また、全編にわたって、ショパンの美しい音楽が流れるのがとても印象的だが、脚本の段階ですべての曲を書き込んでいたと言う。「シーンを撮影するとき、俳優のために、そして撮影監督に必要なショットの長さがわかるように曲を流しました。キーランと僕が町の広場を歩くシーンがあるんですが、曲とシンクロしてカメラを動かしたかったので、2人の歩く長さと距離を少し足す必要がありました」。

デヴィッドと同じようにOCD(強迫性障害)を持つアイゼンバーグが、今作で問いかけようとしたのは、「メンタルヘルスに苦しむ僕の個人的な痛みは、客観的に見てもっと恐ろしい先祖の痛みと比べてどうなのか?僕の痛みは語るに値するものなのか?」ということだったそうだ。だからこそ、彼の家族が経験したホロコーストが背景になっているが、コメディ作品ということで、「最大のチャレンジは、ユーモアとペーソスをうまく織り交ぜながら、歴史を踏みにじらないようにするにはどうしたらいいか、ということでした」と言う。
 ポーランドとのつながりをもっと強めたいと、最近ポーランドの市民権も取得したそうだが、「自分がどこから来たのか興味を持っている人なら誰でも、あらゆる文化圏を超えて、とても個人的な僕のストーリーと家族の経験に共感してくれることを願っています」と締めくくった。(取材・文:吉川優子 / Yuko Yoshikawa)

映画『リアル・ペイン~心の旅~』はTOHOシネマズシャンテほか全国公開中

【関連情報】
映画『リアル・ペイン~心の旅~』オフィシャルサイト
【画像】マコーレー・カルキンの弟!『リアル・ペイン~心の旅~』のキーラン・カルキン
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