新堂冬樹による同名小説を連続ドラマ「地獄の果てまで連れていく」(2025)のイ・ナウォンの脚本、映画『ミッドナイトスワン』(2020)の内田英治監督が映画化した『誰よりもつよく抱きしめて』(公開中)で、乃木坂46の久保史緒里と共に主演を務めた三山凌輝。俳優、また、BE:FIRSTのRYOKIとして活躍する一方、昨年放送されたNHK連続テレビ小説「虎に翼」で改めて注目を浴びた彼が、今回の役柄へのアプローチと自ら手掛けた主題歌の歌詞のこと、俳優としての現在地について語った。
『誰よりもつよく抱きしめて』で三山が演じたのは、絵本作家の水島良城。強迫性障害による潔癖症のため、久保演じる恋人の桐本月菜に深い愛情を抱きながらも触れることさえ出来ないことに苦しんでいた。そんな折、月菜の前に韓国人青年、イ・ジェホン(2PM・ファン・チャンソン)が現れる。「人を心から愛したことがない」という彼の登場で、良城と月菜の絆が揺らぎ始める……。
“表現者”という言葉がちょうどいいのかも
良城は直接モノに触れられないため、常にビニール手袋を装着し、ひりひりとした日常を生きている。アーティスト活動においては感情表現豊かなボーカルとキレのいいダンスを見せる三山が、そうしたイメージとは真逆の良城を演じるにあたり、「基本的にはまず自分が思ったことをやってみる。それで良城の潔癖症の部分、触れることを拒絶するにもそれをどう演じるか? 静かに表現した方が苦しみがより伝わるとか、パニックを起こした場合はこうとか、静と動の使い分けを監督と話し合った」という。
劇中の彼は、ナイーブな心で過酷な現実と戦おうとする良城そのもの。それはステージ上で強い光を放つキャラクターとはまったくの別人であることを指摘すると、「(両者は)警察官と消防士という感じ。どちらも人を助けるという目的は同じですが、アプローチが違う。そういう意味で自分は、“表現者”という言葉がちょうどいいのかも」と説明する。
また、作品が変わるたびに環境もガラッと変わるのが俳優。そうした場面では「変化への対応力、その速度が求められる」と言い、「どこにいても自分であること、自分との戦いで感性を広げていくことの大事さを実感しています」と熱を込める。
俳優を目指した当初のモヤモヤ
そんな彼はそもそも、どのように俳優とアーティストを夢みたのだろう? 幼稚園の頃から街でスカウトされていたが、「『仮面ライダー』で変身する男性に好奇心をくすぐられても、現実的に“この人たちはどういう職業なの?”と思うことはなくて。同じ頃に歌って踊るアーティストに、格好いい! と感性をくすぐられたりしていました」と振り返る。
そうして小学校6年生で事務所にスカウトされたことを機に中学生のとき、俳優業からキャリアをスタート。歌やダンスは好奇心からやっていたものの、演技では「レッスンを受けるまでお芝居はやったことがなくて。なんだこのもどかしさは!? 正解がないじゃないか! と、モヤモヤして(笑)」と壁に突き当たることに。しかし、「頑固で負けず嫌いなところがあったので、どうにかして納得できる答えを見つけたい。それまではやり続ける! と思ったんです」と、その性格が幸いしたよう。
そうして俳優として、アーティストとして着実に歩みを進める三山。演じる上では、「ベーシックとしては心がちゃんと動くことを大切に、現場で対応していきます。それでいて表現には思考力、奥深さ、感性が表れる。人間力が問われるのでいつでも目の前のことをよく見て。年上の方の話を聞いて想像力を働かせ、やるべきことに早く気づくのが大事だなと思っています。」と25歳とは思えない達観ぶり。
芝居に関しては「感覚、感性を大事にするタイプ」。「もちろん役のバックボーンなどのポイントは抑えますが、基本的には出たとこ勝負!いろいろと考えて用意しても、いざ撮影になると想像とは全然違う“投げ玉”を返されることは当たり前にありますから。芝居は、その時どきの“セッション”です」とアーティストらしい言葉で締める。
また、演じることは「自分との戦いでもある」とも言い、「その役を生きている瞬間、本番では“これが(本編で)使われてしまう”という緊張感があります。役と向き合い、“こんなにも闘っています!”という自分をカメラに見せないことも必要で」と芝居が微妙なバランスの上に成り立つことを明かす。
主演作の主題歌作詞に自ら加わる意義
映画では、三山がRYOKIとしてSKY-HIと共に主題歌の歌詞も手掛けていて、「作品を通して俳優として目にした景色、感情は確かなものです。それを歌詞として表現出来るなんて本望。作品のテーマについてもそれを演じたからこその確信をもって、それに則って書きました。さまざまな手段で、リミットなく表現させてもらえた」と充実感をのぞかせる。
そうして気づいたのは「抽象的な表現の大切さ」だったという三山。「映画を観るとさらに感情移入できる歌詞になっています。それでいて、映画を観ていなくてもいろいろな受け取り方が出来る。例えば“抱きしめたい君だけ。触れられない痛みすらも”という歌詞なら、それは物理的なことなのか、心情としてなのか? 具体的にし過ぎないことで聴いた人が個々の過去やそれぞれが思い浮かべる情景を引っ張り出して共感していただける。それが素敵だと思うんです」と俳優とアーティスト、二つの面を持つからこその曲作りを楽しんだ。
そんな風に両者の融合のような作業を通して改めて感じたのは、それぞれの醍醐味のようなものは「プリンを食べるのとリンゴと、何が違いますか? というのと同じ」と確かに違うとのこと。シンプルに俳優としては、「ひとりの人間として作品と向き合い、自分ではない役柄のフィルターを通し、さらに自分と共存させながら必要な要素を足したり引いたりしていく。アーティストとしては自分というものを加速させ、ステージ上だけの、ある意味でもう一人の自分のようなエネルギーを持つ。アドレナリンが出ている状態です」と続ける。
俳優として、アーティストとして、確信を持って自らの道を切り開く三山。「2年後にはハリウッド映画に出演したい」と言葉にするのは、「そうして自分を追い込むため(笑)。言霊というのは、そういう使い方をするものかなと。それでいて“常夜灯”というのか、いつでも強い光を放つ存在になりたい。筋の通った生き方、努力の仕方をしていれば、その光を見てくださる方がいるはず。そんな生き方が多くの人にとって新たな一石を投じるようなものになればいい」と、強いまなざしにさらに力を込めた。(取材・文/浅見祥子)
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