横浜流星主演の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほか)で“鬼平”こと長谷川平蔵宣以を演じる歌舞伎俳優の中村隼人。序盤では、平蔵の放蕩を尽くした若かりし日々が描かれ、原作・池波正太郎、主演・中村吉右衛門のドラマ「鬼平犯科帳」などで描かれる貫録あふれる平蔵とのギャップが大いに話題を呼び、視聴者の間では“カモ平”の愛称で親しまれている。国民的人気キャラクターを演じるにあたり当初は「怖かった」という隼人。そんな不安を解消したのは、チーフ演出の大原拓からの思わぬ提案だった。
大河ドラマ第64作となる本作は貸本屋から身を興し、喜多川歌麿、葛飾北斎、山東京伝、滝沢馬琴、東洲斎写楽らを世に送り出し、江戸のメディア王として時代の寵児となった蔦屋重三郎(横浜)を主人公にしたストーリー。脚本を大河ドラマ「おんな城主 直虎」、ドラマ10「大奥」(NHK)シリーズなどの森下佳子が務める。
隼人は、二代目・中村錦之助を父に持ち、歌舞伎のほか映像作品でも活躍。とりわけ2019年に始まった主演作のBS時代劇「大富豪同心」(八巻卯之吉役)は3シーズンにわたって制作されるなど人気を博している。大河ドラマへの出演は「龍馬伝」(2010・徳川家茂役)、「八重の桜」(2013・松平定敬役)に続いて3作目となる。
隼人演じる平蔵は、青年時代は風来坊で「本所の銕(ほんじょのてつ)」と呼ばれ、遊里で放蕩の限りを尽くしたという逸話も持つ。のちに老中・松平定信に登用され「火付盗賊改方」を務め、凶悪盗賊団の取り締まりに尽力する……という役どころ。長谷川平蔵宣以といえば世間では池波正太郎の小説、ドラマ「鬼平犯科帳」のイメージが強く、隼人自身も「やはり中村吉右衛門さんが演じた鬼平のイメージが強いというか、ほとんどそのイメージ」だったといい、「私の大叔父の萬屋錦之介も演じたことがありますが、吉右衛門さん、丹波哲郎さんといった大御所のスター俳優たちが務められてきたなかで、30代の僕が演じることが初めはすごく怖かった」と話す。
自身が抱いていた「男の色気、男臭さがある平蔵」のイメージ。しかし、それは早々に覆されることとなった。
「最初に監督に言われたのが、“シケを垂らしてほしい”ということ(※シケ=額や耳から垂れたほつれ毛)。シケにも種類があるのですが、今回の場合は“色シケ”と言われるものに近いと思います。よくアイドルが前髪を垂らしたりしていますがそれと似ています。普段はきっちりしている髪型が、髪がちょっと垂れることによって色気が出る。歌舞伎や和物の舞台などでは付き物なのですが、映像作品、特に大河ドラマではあまりないことで。僕も“どういうことなんだろう?”と不思議に思ったので、きっと視聴者の方々も“何やってんだこいつは”と思われたんじゃないかと思います(笑)」
劇中、平蔵は吉原を訪れた際に花魁道中を行う花の井(小芝風花)に一目ぼれ。以降、平蔵は足しげく吉原に通い、シケを吹いたり、鏡で念入りにチェックしたりする姿が映し出された。今ではシケが彼のチャームポイントとして認識されることになったが、隼人自身にとっても役をつかむ大きな手がかりになった。
「シケがあることで“普通”の人物ではないなっていうのは何となくわかるじゃないですか。しかもそれを吹いたり触ったりするところからナルシストな部分も感じられますし。シケの長さや太さもかなり研究しました(笑)。シケに鬢付け油を回しているんですよ。そうしないと束で固まらないので油の量とかもミリ単位で調整しました。油が付きすぎると風になびかなくなってしまったり、逆に少ないとなびきすぎてシケ感がなくなってしまうので。シケのある平蔵になって、どういう風になるかなと思いながら撮影を進めていく中で、今回は吉原の目を背けたくなるような部分も描いていることもあり、この平蔵が視聴者の方にくすって笑っていただいたり、息抜きになればいいなと思いながら僕は毎回演じています」
“カッコつけた”平蔵は、着物にも表現されているという。
「江戸で文化が発展してきた時代の話だから、こういう配色もありなのかなって思っていたのですが、衣装さん的には“野暮”だそうで。なので当時としてはダサいファッションをしています。ダサい着物を着てかっこつけるから、よりダサさが際立つみたいな(笑)。あと、衣装の着方には非常に気を付けていまして、江戸城のお勤めになるときっちり襟を合わせた着こなしになるのですが、仕事以外では着崩した感じにしています。シーンによって“ここはふかそう”“上前を上げてちょっと粋に見せよう”とか。そういったところは“勝手に”やらせていただいています(笑)」
シケを巡っては隼人のアイデアがたびたび採用され、撮影では演出の大原が隼人も仰天する提案をしたことがあったという。
「クランクインのシーンだったんですけど、監督が“そのシケどうします?”とおっしゃるんですよ。内心困惑しながらも“じゃあ吹いてみますか”と申し上げたら、監督がいきなりハイスピードカメラを持ってこられて“これでシケを撮ります”と。“嘘でしょ?”“これ大河でしょ?”って(笑)。それからシケで遊ぶっていうのは、自分で考えることが多くて。監督も僕がやることに対して“いい”“それじゃない”とはっきりおっしゃってくださるのでやりやすかったですし、楽しくやらせていただきました(笑)」
一方、吉原から客足が遠のき、貧困にあえぐ女郎たちの身を案じていた蔦重(横浜)は吉原のプロモーションのための資金集めに奔走。平蔵が恰好のカモとなる。すがすがしいまでに蔦重や花の井にカモられることから、視聴者の間では“カモ平”のあだ名をつけられ、SNSは彼が登場するたびにw(笑い)マークを付けたリアクションでにぎわっているが、この反響を本人はどう見ているのか。
「僕も歌舞伎の楽屋で先輩に言われました(笑)。歌舞伎座で行われる蔦屋重三郎が主人公の作品(「きらら浮世伝」)のお稽古中に、(蔦屋重三郎役の中村)勘九郎さんがアドリブで“さあ、今日はカモ平のおごりだ”って言い始めて。僕だけ何のことかわかっていなくて“カモ平って何ですか”と聞いたら“お前だよ!”って(笑)。そのぐらい“カモ平”が浸透し始めているようで非常にびっくりしているんですけど(笑)」
9日放送・第6回では、とある事件が勃発し、職業人としての顔を見せる。
「仕事になった途端、髪型が少し変わるのですが、そこでまず“どうした?”と笑ってもらえたら(笑)。やる時はやるんだぞ、遊んでいるけど仕事はきっちりできるっていうところを髪型でも表現した感じです。今回の平蔵はダメダメに見えるんだけど、仕事ができないっていう描写はないんですよね。実は人よりもやる気があって、行動力があって、頭も意外と切れる。そういったギャップをお見せできたらと思いますし、そのギャップがあるからこそ、プライベートで成長すれば、しっかりした平蔵になるというふうに繋げていけたらと思っています」
撮影前には長谷川平蔵宣以の菩提寺である四谷の戒行寺を訪れ、お経をあげてもらったという隼人。いまは愛嬌たっぷりの“カモ平”として愛される平蔵がいかにして「火付盗賊改方」になっていくのか。
なお、2月15日、16日にNHK総合で「べらぼう」初回から最新話までを一挙再放送。第1回から3回までを15日午前0時45分~3時15分、第4回から6回までを16日午前0時10分~2時25分に放送する。それぞれ放送後、NHKプラスで配信される。(編集部・石井百合子)
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