横浜流星主演の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほか)で長谷川平蔵宣以を演じる歌舞伎俳優の中村隼人。主人公・蔦屋重三郎を演じる横浜とは2023年上演の舞台「巌流島」で共演して以来親交を深め、劇中でも「気を許せる仲」として関係を育んでいる(※一部ネタバレ)。
大河ドラマ第64作となる本作は貸本屋から身を興し、喜多川歌麿、葛飾北斎、山東京伝、滝沢馬琴、東洲斎写楽らを世に送り出し、江戸のメディア王として時代の寵児となった蔦屋重三郎(横浜)を主人公にしたストーリー。脚本を大河ドラマ「おんな城主 直虎」、ドラマ10「大奥」(NHK)シリーズなどの森下佳子が務める。
隼人演じる平蔵は、池波正太郎の小説、ドラマ「鬼平犯科帳」などで知られる実在の人物。父は明和の大火の咎人を捕らえた火付盗賊改方の長谷川平蔵宜雄。青年時代は放蕩の限りを尽くし、のちに老中・松平定信に登用され火付盗賊改方を務める……という役どころだ。
劇中での蔦重と平蔵の出会いは最悪だった。仲間を引き連れ肩で風を切って吉原を歩いていた平蔵だが、どうやら吉原は初めてのようでしきたりを知らず、刀を預かろうとする蔦重ともみ合いに。蔦重は平蔵を金づると見て画策するのだが、この初回では横浜のとあるアドリブに驚いたという。平蔵が有名人であることを知った蔦重が、吉原一の引手茶屋である駿河屋で仕切り直しをさせてほしいといい、見得を切るシーンだ。
「蔦重が見得を切るところは流星が事前に何も言っていなかったのでびっくりしました。笑いをこらえるのに必死だったし“何やってんだこいつ”って(笑)。ただ、シーンの前に流星が畳を確認していて。足を踏み出す練習をずっとしていたんです。“何やってんの?”って聞いても“いやいや、別に。畳の感じをね……”ととぼけていて(笑)。しかも、撮り直してましたからね。オッケーが出たのに、ずっと“いや~”って言っているんですよ。“芝居が気に入らなかった?”って聞いたら“いや、見得がさ……”と。“そこかい!”って(笑)」
隼人は、そうしたシーンは、舞台での共演を経て関係を築いていたからこそ生まれたシーンだったと振り返る。舞台「巌流島」では横浜が宮本武蔵、隼人が佐々木小次郎を演じた。
「僕も彼も人見知りで、舞台の共演で初めて会った時は二言ぐらいしか喋れなくて。マネージャーさんに“隼人さんの方が年上なんだから話しかけなさい”って言われて話しかけたっていうことがあるぐらい(笑)。でも初対面だったらああいうシーンにはならなかったと思うんですよね。彼が映画『国宝』(6月6日公開)で歌舞伎俳優を演じたこともあると思うけれど、流星自身の遊びの部分と、蔦重の陽気なムードメーカー的な部分がリンクしている。そうしたシーンには舞台での共演が生きている気がします。平蔵を手玉に取ってカモにしてやろうっていう表情だったり、流星にとっても重いシーンが多い中で、 平蔵とのシーンは割とチャリ場というか、コメディチックなところになるので、楽しんでやっているのかなと思います」
そんな横浜についてはリスペクトもあり、撮影現場での様子を話すと尽きない。
「年下なので可愛いなって思うところが多いんですけど、きっと想像を絶するようなストレス、プレッシャーを感じているのではないかと思います。蔦重は非常に明るく、ムードメーカー的なところがある役だと思うんですけど、流星自身はもの静かな性質の人なので、蔦重を演じることで心にかかる負荷は大きいと思うんですよね。なおかつ、大変な日程で、大先輩方と共演している。でも、そうしたことを感じさせないカラッとした性格。どちらかというと彼は周りに声をかけて引っ張っていくというより、自分の芝居を見せて引っ張っていく役者なのかなと思っていて。ピリッとしますよね。これだけ主演がドライ(カメラを使わないリハーサル)の段階からきっちりやってきたら、こっちも負けてられないぞって」
劇中では平蔵が、吉原を盛り上げるために資金集めやプロモーションに奔走する蔦重、その幼なじみである花魁の花の井(小芝風花)にまんまとカモにされることから、視聴者の間では“カモ平”と呼ばれ愛すべきキャラとして親しまれている。第2回の終盤では、彼がついに親の遺産を食いつぶしてしまったことが発覚するが、平蔵は自身がカモられていると気づいていなかったのか?
「僕はわかってない解釈ですかね。というのも、この後も蔦重との交流は続くんのですが、平蔵はカラッとしていて、その件に関しては一言も触れないんですよね。お金の件だったり、入銀本はどうなったとか。捉え方によっては全部をわかっていたという可能性もあるんですけど、第1回からの平蔵を振り返ると、きっと彼は思っていることがあったら言っちゃうと思うんです。何も言わないということは、本当に“粋を教えてもらったんだ”って思っているんじゃないかなと。その計算高くないところも愛嬌に繋がって、嫌味のないキャラクターになっているんじゃないかなと思います」
9日放送の第6回では、蔦重と平蔵の関係において大きな変化をもたらすエピソードが展開。鱗形屋(片岡愛之助)が「節用集」(用語辞典・国語辞典)の偽板(海賊版)制作の罪で与力、同心を引き連れた平蔵に捕らえられた際、身内と誤解され連行されそうになった蔦重を平蔵が助ける。
「一つは蔦重を守ったっていうところ。平蔵は真っすぐで曲がったことが嫌いなので、正しいことは正しい、違うことは違うという。あとは、“奉行所にでも移れねえかって顔を売ってんだ”っていうセリフもありましたが、平蔵が武士よりも町人の方が仲良かったからこそ、いろんな情報が入って捕り物に繋がったところもあると思うので、忖度なしの平蔵が人々の人気を得て、それが先のシーンに繋がればいいなと。そうした立派なところを見せることで、ちょっと抜けているところも際立つのかなとも思います」
6回のラストで蔦重は平蔵に、鱗形屋に危険が迫っていることを知りつつも忠告しなかったこと、心の中で鱗形屋に取って代わりたいと思っていたという罪悪感を打ち明ける。落ち込む蔦重に、平蔵は「濡れ手で粟」「棚から牡丹餅」の諺をアレンジした励ましの言葉をかけて“かっこよく”去る。実は、この日は初めてシケ(額から出たほつれ毛)のない平蔵となる。
「仕事になるとシケをしまうんですよね(笑)。その前までは、演出の方からとにかくシケを使ってほしいと言われていたのですが、シケがないのが初めてだったんです。だからどうしようかとなった時に、演出の深川(貴志)さんが“自分で言ったことに、自分で酔っちゃって笑うっていうのはどうですか”と提案してくださって。じゃあちょっとやってみますと、“俺いいこと言っちゃったわ”みたいな雰囲気を匂わせてニヤリとして去っていく流れになりました(笑)」
平蔵の粋な励ましによって前を向く蔦重だったが、二人の関係について横浜とは「劇中で最も気を許せる間柄」と話しているという。
「クランクイン前と今も変わっていないことで言うと、平蔵は親の七光で仕事をしているだとか、周囲からやっかみを受けて肩身の狭い思いをしている中で、蔦重が一番歳が近くて理解者というか、気が許せる存在だと思っています。かたや蔦重も吉原の過酷な状況で生まれ育った中で気を許せる相手だったのが平蔵なのかなと。こういう話をクランクイン前にしていて、お互い特別な関係というか立ち位置に見えればいいねと。撮影が始まってからは、ことに蔦重や平蔵が環境によって孤独になればなるほど2人の繋がりは強いのかなっていう話はなんとなくしました」
二人の関係はまだ始まったばかり。史実ではいずれも名を残す人物となる二人だが、それぞれの人生がどのように交錯していくのか、楽しみに見守りたい。
なお、2月15日、16日にNHK総合で「べらぼう」初回から最新話までを一挙再放送。第1回から3回までを15日午前0時45分~3時15分、第4回から6回までを16日午前0時10分~2時25分に放送する。それぞれ放送後、NHKプラスで配信される。(編集部・石井百合子)
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