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ティーンの初体験描く「HOW TO HAVE SEX」監督インタビュー インティマシー・コーディネーター、セラピストとともに臨んだ撮影の裏側、世界観の構築

映画.com 2024年7月19日 17時0分

 昨年の第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でグランプリを受賞した映画「HOW TO HAVE SEX」が公開された。ティーンの友情や恋愛、セックスが絡み合う夏休みを活き活きと表現した青春ドラマだ。ミュージックビデオで撮影監督として活躍し、長編デビュー作となった今作が、カンヌ国際映画祭はじめ世界の映画祭で19受賞・30ノミネートという快挙を成し遂げたモリー・マニング・ウォーカーのインタビューを映画.comが入手した。

<あらすじ>
 主人公タラ(ミア・マッケンナ=ブルース)は、親友3人で過ごす卒業旅行の締めくくりに、パーティーが盛んなギリシャ・クレタ島のリゾート地、マリアに降り立つ。自分だけがバージンで、初体験というミッションを果たすべく焦る彼女を尻目に、親友たちはお節介な混乱を招いてばかり。そんな中、ホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが…。

──カンヌ国際映画祭など各国の映画祭を筆頭に、批評家の高い評価を得ています。海外の観客の反応を、どのように受け取っていますか?

 女性だけでなく男性もまた自分になぞらえて、この映画を観る人々の数の多さに一番驚きました。やはりこの映画で描かれているような事件は、起きる場所はパーティーや遊ぶために行ったどこかの島などではなくとも、家族の集まりでもなんでもいいのですが、大なり小なり誰もが経験していることなのだと思います。私たちとしては、この映画を通して「自分たちのことを見てくれている人がいるんだ」というふうに観客の皆さんに感じて欲しいと思っていたのですが、ここまでのスケールで皆さんが当事者性を持って受け取って下さるとは考えていませんでした。それだけ普遍的なテーマなのだと思います。

──こういう繊細なテーマを扱った作品で、俳優さんたちのケアをどうされたのでしょうか。

 インティマシー・コーディネーターのほかに、今回はセラピストの方もいたんですよ。スタッフもキャストも1人5セッションまで受けることができて、必要があれば延長もできるということにしていました。というのも、今起きていることだけでなく過去や未来のことについても話せるような、みんなにとって居心地のいい環境を作りたかったから。そして、もし何か仕事する上で引っかかることがあれば、その場で皆さんに話して欲しかった。6週間の撮影の間中、ずっと自分の中に問題を溜め込んでしまうことがないような現場にしたかったのです。

──ディテールがリアルで、この種のパーティやバカンスに行ったことがあるかどうかは別として、似たようなシチュエーションを肌感覚でわかると思わせるものがあります。このような世界観をどのように構築したのでしょうか?

 衣装から美術から全ての部署において、とにかくディテールにこだわりまくる人たちばかりでした。特にパーティーのシーンをスクリーンで再現するのは難しいんです。なぜかというと、頭で私たちがイメージしてるパーティーと映像で再現されるものとでは、観客が「ちょっと違うんじゃないか」と感じがちだから。リアルに感じてもらうためにはニュアンスが大事になってくるので、ロケハンもしっかりしました。

 例えば、たまたま行ったクラブみたいなところには裸の女性がプリントされているトランプがあって、それを劇中で小物として取り入れたりしたのですが、実は劇中ではどのシーンにも裸の女性が登場しているんですよ。ライターやトランプ、タオルなどにプリントされていたりするのですが、なぜそうしたかというと、私たちがあらゆる場所で常に受けている性的な圧力、プレッシャーを、いろんなアングルから皆さんに感じて欲しかったからです。

 あとはティーンのTikTokやブログであったり、私が10代の時に35ミリの使い捨てカメラで撮影した写真なども参考にしました。基本的な構造としては、前半がディズニーランドのように楽しくてクリーン、後半はそれがどんどんゴミだらけのような場所に落ちていくようなイメージですね。

──2人の男性のキャラクター、パディとバジャーも非常に重要な役割を担っています。特にバジャーはタラのことを気遣うなどいい人に思えますが、親友のパディについて「あいつはひどいやつだ」とわかっていながら何もしないという、いわゆる男性同士のかばい合のようなものも感じました。

 一つ思っていたのは、この問題を女性だけのものとして描かず、その対話から男性を排除してはいけないということ。むしろ迎え入れて、 一緒に対応していくべきだと考えていたので、パディとバジャーのキャラクターをしっかりと描くことも重要でした。多くの男性が、やはり男たるものはパワフルでなければいけない、自分が何を欲しているのかを理解し、自分の力で手に入れなければならないというふうに育てられている人が多いと思うんですね。

 でも、それはすごく間違っている。間違っているけれど、その誤った認識を文化的に全部ほどき直すためには何年も時間がかかる行為なんじゃないかと思っています。この映画を観た男性の中には、つらかっただろうと思うのですが、この映画を観た男性の中には、悪い男子のパディに自分を見てしまう人もいました。でも多くはどちらかというとバジャーに自分を重ねていたと思います。バジャーはすごく優しくてユーモアもあるのですが、やっぱり肝心な時にはタラのために行動できないんですよね。正しいタイミングで声を上げることができないということもまた問題だと思っています。 男子女子に関係なく、誰もがお互いの振る舞いが何か違うと思ったならば、声をあげて指摘しなければなりません。

──音楽についてのこだわりのポイントを教えてください。

 今回は、昔からの友人であるDJのジェームズ・ジェイコブに依頼しました。作曲は初体験だったそうですが、DJとして、こういった南の島のパーティーカルチャーの世界をよく知っていました。一緒に話をする中で、ベースの音がいわゆる性的攻撃を表現するものにしようと決めて曲を作ってもらっていました。映像でそれを見せるというよりも、ベースの音が聞こえると、タラがトラウマを抱えていることを感じてもらえるようなアプローチをとりました。

──ミュージックビデオを多く手掛けてきて、また撮影を担当された「SCRAPPER スクラッパー」が日本でこれから公開されます。短編「アンスピーカブル」(20)を経て今回が初の長編監督作となったわけですが、そもそも監督業をやりたいという希望は以前からあったのでしょうか?

 いえ、絶対に監督をやりたいと思っていたわけではなく、たまたまそうなったという感じですね。「アンスピーカブル」は自分が体験したある種の性的被害を描いていて、私にとってセラピーのような作品でした。それがカンヌ国際映画祭批評家週間で上映されて、そのことをきっかけに長編映画の脚本を書き始めて、結果としてこの映画を作ることになったんです。

──最後に日本の観客にメッセージをお願いいたします。

 「HOW TO HAVE SEX」も「SCRAPPER スクラッパー」も、やはりまずは楽しんで観ていただきたいです。私たちも本当に楽しんで作った作品ですから、同じぐらい楽しんでいただきたいし、皆さんに響く作品であるならば嬉しいですね。世界中の方が、すごく心に響くものがあったと言ってくださっているので、日本の観客の皆様にもそう感じてもらえたら嬉しいです。

 7月19日から、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋、シネマート新宿、アップリンク吉祥寺ほか全国で公開。

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