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中欧魔女狩りホラー「ナイトサイレン」監督、ロカルノ受賞の本作は「セクシュアリティへの理解、現代社会の薄暗い部分を考えるため」

映画.com 2024年8月1日 14時0分

 ロカルノ映画祭2022年金豹賞、シッチェス映画祭 2022年最優秀長編ヨーロッパ映画賞を受賞したスロバキアの魔女狩りホラー「ナイトサイレン 呪縛」。8月2日の劇場封切を前に、テレザ・ヌボトバ監督のインタビューが公開された。(聞き手:氏家譲寿)

<あらすじ>
 人里離れた村で暮らす姉のシャロータと妹のタマラは母親の虐待から逃げ出すことを決意したが逃げ込んだ森の中で恐ろしい事故に遭ってしまう。事故から20年、消息を絶っていたシャロータがある出来事をきっかけに村に戻るも受け入れる者はいなかった――。村が夏至祭に近づく中、彼女が過去のトラウマと対峙するほどに人々は疑念を募らせてゆく。

――本作は“魔女”を描いていますが、超自然的な存在としてではなく、女性が持つセクシュアリティをテーマに据えているようにみえますね。

 ホラー映画の基本はやはり「観客に対して恐怖」を提示するジャンルです。その点、ホラー映画の “魔女”といえば“邪悪で超自然的な力”で、人々の生活を脅かして破壊する存在といった認識が一般的だとは思います。私はその見方を変えたいと思ったんです。“魔女”の歴史を俯瞰してみると、社会に順応できない、あるいは風変わりな女性を“魔女”として避けてきた蔑視の歴史とも言えます。これは依然として現代社会でも続いています。

――ただの違和感を“悪”と決めつけてしまう社会こそが邪悪だということでしょうか?

 そうです。魔女なんかよりも、社会の方がよっぽど邪悪だと思います。その邪悪な部分を女性の観点から客観視して、女性のセクシュアリティはもちろん、女性の力を描きたかったんです。家父長制がある村社会において、女性は自身の行動をコントロールされてしまう。当然、男性側も女性の力よって何かしらのコントロールを受ける。「ナイトサイレン 呪縛」のシャロータはコントロールされた社会からの解放を目的に、様々な行動をとります。究極的には私自身が日々感じていること、セクシュアリティへの理解、そして現代社会の薄暗い部分を考えるために本作を制作しました。

――村をあえて題材にしたのはなぜですか?

 コントロールされた人間と自然のコントラストを用いて、抑圧と解放をドラマティック描きたかった事が挙げられます。またスロバキアでは、小さなコミュニティの方がエモーショナルなんです。本作では極端な感情表現を行いたかった。その点、街よりも村の方がより自然に感じられると考えました。

――欧州全体にはカトリック特有の宗教観があると思います。本作とカトリックの宗教観に繋がりはありますか?

 もちろん!北欧や東欧はチェコを除いてカトリックの影響が強い地域です(チェコは歴史的に無宗教が多数派)。故に超保守的な考えを持つ人々が多く存在します。本作の脚本を作る際、人類学について調査したのですが、未だに本作で描いたような“超保守的な村”は存在し、“魔女”を信じているそうです。

――冒頭でうかがった、現代社会における違和感につながるということでしょうか?

 まさに。私はスロバキアのカトリック観には問題があると思っています。子供を欲していない女性や性的マイノリティを異端視して、恐れている。いわば“教会”に受け入れられていない人々は、自分たちとは違うと。私自身、カトリックの洗礼は受けていますし、叔父は神父です。ただ、私はこういったカトリックの組織には属したくありません。何故なら、この宗教が政治にも影響を及ぼしているからです。人工中絶禁止がいい例です。当然の権利を奪って人々の生活を雁字搦めにしようとしています。

――とても信念をもった監督であると感じました。なぜ監督業に携わろうと考えたのですか?

 エモーショナルなものであれ、ロジカルなものであれ物語が人々に会える影響に魅せられたんです。宗教もそうですよね?聖書の物語が人々を引きつけているわけです。映画は脚本、音楽、映像と全てが一体となって物語を紡ぐことができる。さらに加えてチームでないと作れない。人々を繋ぎ、自由に物語を構築できる。こんなに楽しいことは他にありません。

 8月2日から ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿ほか全国公開。

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