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重病の父の誕生日パーティーで揺れる娘の心、家という小宇宙「夏の終わりに願うこと」監督インタビュー

映画.com 2024年8月10日 9時0分

 ベルリン国際映画祭エキュメニカル審査員賞受賞、アカデミー賞国際長編映画賞ショートリストに選出されたリラ・アビレス監督長編第2作「夏の終わりに願うこと」が公開された。離れて暮らす父と再会した少女の揺れ動く心をみずみずしく描き、世界各地の映画祭で注目を集めた家族のドラマだ。東京国際映画祭でも上映され、昨年来日したアビレス監督のインタビューを映画.comが入手した。

<あらすじ>
ある夏の1日。7歳の少女ソルは大好きな父トナの誕生日パーティに参加するため、母と一緒に祖父の家を訪れる。病気で療養中の父と久々に会えることを無邪気に喜ぶソルだったが、身体を休めていることを理由になかなか会わせてもらえない。従姉妹たちと遊びまわることも、大人たちの話し合いに加わることもできず、いらだちや不安を募らせていく。ようやく父との再会を果たしたソルは、それまで抱えていた思いがあふれ、新たな感情を知ることになる。

――この物語は少女ソルの視点で始まりながら、家に集まったそれぞれの人々を映し出し、最終的に全体像が浮かび上がってくるという一般的な起承転結とは異なる構成になっています。

 中心軸はソルであることは決まっていました。でも、彼女を取り巻くのは一人ではない集団です。それ全てが、何らかの形でつながっていることを示したかったんですね。ですから、強制することなく、急ぐことなく、流れるように、カメラがそこにいる人物とコミュニケーションをゆっくりと追っていくようにしました。

――だからこそ、この作品は父と娘の物語でありながら、そこに終始せず、タペストリーのような作りになっているんですね。

今回は家という1カ所のロケーションで撮影しているのからこそ、多様が必要でした。私は音楽もあまり使わないので、どういう風に物語をダイナミックに表すかことができるかを考えたときに、複雑になっても、登場する一人ひとりが、それぞれの弱さをそれぞれのかたちで表出させることで、みんな違うということを表現したかったんですね。その中で、多様な美しさが現れてくると思いました。

――確かに、家族、友人だけでなく、動物、犬、猫、鳥、虫などの生き物がそれぞれに出てきます。

 今回、家という場所を、ミクロコスモス(小宇宙)として表したかったんです。その世界の中には、いろんなものが現れているということを示したかった。なぜかというと、今の世界はもう無茶苦茶で、破壊され尽くされているから。また、テクノロジーの進化も相まって、家の外で忙しい日常生活をずっと続けていると、家族がどんなものだったさえ忘れてしまいがちになります。だからこそ、私は基本に戻りたいと願い、家というミクロコスモスに、いろんなものを招き入れました。その中では、誰かとコミュニケーションをとる力は超能力のような特殊なものではなく、例えば、動物という存在がそこにいて、その存在が自分と関係として、お互いに相互作用しているんです。

――家族の中でも、言葉の使い方や言語が違うように表現されています。例えば、子どもたちにバレないための大人だけの記号的な言葉や、霊的なもの、非言語的なもの、動物や、AIとの対話などなど。言語がとてもお好きだということが伝わってきました。

 おっしゃる通り、私は言語というものがとても好きなんです。世界中で何百万もの言語がいろんな形であって、それぞれを違うものとして、その多様性を受け入れることが、自分だけじゃなく、周りの人たちも豊かにすると考えています。大体、いろんな問題は、話すことによって解決することが多いじゃないですか。だから、忙しくても、日々互いにそれを意識しながら使っていくことが大事かなと。昔は言葉遊びをよくやっていたはずなのに、だんだんそのことを忘れてしまう。でも、言葉で遊ぶことで、新たな発見があると思います。

――主人公ソルを演じたナイマ・センティエスは、演技未経験者だそうですが、どうやって見つけたのでしょうか。

 前回、「The Chambermaid」のキャスティングで、主演の女性と二人で、40人くらいオーディションをしたときに出会ったんです。お母さん役をした俳優の遠い親戚の子で、もちろんそれまでは芝居なんてしたことがない素人でした。一番気になってはいたので、それからナイマとは何度も会って話して、一番初めに感じた彼女の感受性をすごく好きだなと感じ、お願いすることにしました。少し、大人っぽさがあって、すごく忍耐強く、何にでも好奇心があり、楽しむことができる子だと思います。

――ナイマ以外にもノンプロの俳優とプロの俳優を混ぜているそうですが、そうすることの効果とは?

プロとノンプロと一緒に仕事をする方が、自分は居心地がいいんです。なぜかというと、プロの俳優の演技は素晴らしいけれど、ときどきエゴが顔を出すことがあるんですね。両方いることで、プロが素人に教えるだけじゃなく、素人がプロに教えることもある。そのバランスがいいなと。

――演技をしたことがない俳優に演出する際の秘訣があれば教えてください。

これはプロの俳優さんにも言えることですが、まず、信頼すること。私はキャスティングのときからそれを感じるようにしています。いくらいい俳優であったとしても、こちらとの関係を作る上で、柵というか障害を作られてしまったらうまくいかないと思うので、自分は常に心を開いて受け入れる、というかたちで見ています。そこになかなか入ってこない人もいますし、入るのが怖い人もいますが、その時点でわかるんですよね。

――スペイン語の「Tótem」は、家族や親族集団が神秘的、象徴的な関係で結び付けられている自然界の事物を指しますが、原題でもあるこの言葉が本編にすごくピッタリだなと感じました。

 私はタイトルがないと脚本が書けない人なのですが、自分が娘を肩車して撮った写真を見ているときにまず浮かびました。頭の中に物語はありましたが、それをどういうふうに出していくかというと、タイトルの名の下に解き放つんですね。「Tótem」という一つの言葉に、たくさんの意味があるのが美しいなと思っています。本作で50以上の映画祭に行きましたが、どの会場でも上映後に観た人たちが近づいてきて、彼らにとっての「Tótem」とは何かを話してくれました。もちろん、各国で思い浮かべる「Tótem」像は異なると思いますが、家族と自然という総称としてエンブレムみたいなものだという認識は、世界中の共通項としてあるんだなと。

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