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広島で世界のアニメーションを楽しもう! 「ひろしまアニメーションシーズン2024」8月14日開催、見どころは?

映画.com 2024年8月11日 7時0分

 8月14日~18日、広島市にて2年に1度のアニメーション芸術の祭典「ひろしまアニメーションシーズン2024(HAS)」が開催される。HASは、「ひろしま国際平和文化祭」メディア芸術部門のメイン事業で、世界4大アニメーション映画祭のひとつとして知られた「広島国際アニメーションフェスティバル」が2020年に終了したのち、2022年に新たな装いで生まれ変わった2年に1度のアニメーション映画祭だ。

 アニメーション映画祭としては日本唯一のアカデミー賞公認であり、世界のユニークなアニメーション作家たちが集い、長編、テレビ、ウェブメディアなど短編にかぎらずアニメーションの可能性と未来をパーソナルかつユニークに掘り起こすクリエイターたちを、古今東西・商業非商業の枠を超えて紹介する。

 「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」「BLUE GIANT」「ルックバック」など、近年話題を集めたヒット作の応援上映やトークイベントも開催、またファミリー層向けの作品の無料上映なども行われる。夏休みの予定がまだ決まっていないアニメファンは、広島まで足を運んでみるのはいかがだろうか?

 プロデューサーの土居伸彰氏と、アーティスティック・ディレクターの山村浩二氏に今年の見どころを聞いた。

▼前回の振り返りと今回のアップデート

――今回で開催2回目となります。前回の手ごたえとともに、今年の特徴を教えてください。

土居:長年広島という地では国際的に尊敬される映画祭(広島国際アニメーションフェスティバル)が開催されてきました。僕も山村さんも、その映画祭を通じて、今このようなキャリアを築くことになったといっても過言ではありません。運営的にはまったく別物なのですが、常にそういった歴史のことを考えながら、我々の観点でその歴史を継承し、アップデートするという気持ちでいます。

 また、自治体が行っている映画祭であることを考え、「公共性」ということも考えています。アニメーションを作品として美的堪能するだけではなく、アニメーションを通じて何か新しい知識や認識を獲得するお手伝いをしたい、と。たとえばアニメーションドキュメンタリーというジャンルであればアニメーション作品を通じて、作家の個人的な視点から、自分とは見ているものとは違った形で見えている世界を捉えるという経験ができます。

 前回の初回開催の1つの手ごたえとして、具体的に挙げるとしたら、今回も継続して取り組むクィアアニメーション特集です。前回からの選考委員でもある矢野ほなみさんにキュレーターを務めていただきました。アニメーション界でもクィアをテーマにした作品が増えてきていますが、まだ日本ではしっかりと紹介されきってはいません。前回このプログラムを組んだ時に、これまでのお客さんとは全く違う光景が広がったという感覚がありました。

 こういった話からはじめると、なんだか海外の難しいアニメーションを上映する映画祭なのかな? そんなイメージを持たれてしまうかもしれませんが、「フェス」であることも常に意識しています。

 前回「犬王」の応援上映を大友良英さんと後藤幸浩さんの生演奏付きでやりまして、熱狂的なお客さんがたくさん来てくれました。それは、今回の「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」応援上映に引き継がれています。アニメーションによって視野を広げること、社会的に有用であることとか、そして当然作家たちの優れた作品をしっかりと評価する場であるということは維持しつつ、このような祝祭性の強いイベントも盛り込みながら、いろんなタイプのアニメーションファンが楽しめる、より外に開いていく映画祭になるよう考えています。

山村:前回はコロナ禍だったこともあり、海外からの多くのゲストの来日は叶わなかったので、審査員も主に国内で、アニメーションとは異なる様々な文化に関わっている方々をお招きしました。例えば僕がアニメーションパートを担当した犬童一心監督の映画「名付けようのない踊り」のダンサーの田中泯さん、そのほか、漫画家のしりあがり寿さん、音楽家の世武裕子さん、メディアアーティストの真鍋大度さんらに依頼したのが第1回の挑戦でした。そこで、観客層が広がったことが、前回の手応えのひとつです。今回も、これからのアニメーションの新しい広げ方を意識して、全体の審査員やその他の構成を考えていきました。

 また、僕はディレクター就任から環太平洋アジアという地域性に注目をしていて、今回のコンペティションでも「環太平洋アジアユースコンペティション」という部門を設けました。ヨーロッパの映画祭では、アジアの作品もヨーロッパ的な価値観で評価されてしまうことが多いと感じていたこともあって、アジアの、我々の内側からの視点で選考するのが大事ではないかと思いました。ですから、この部門では、ほかの映画祭ではなかなか見られない作品を楽しんでいただけると思います。

土居:山村さんのお話にもあったように、前回、他分野の方々に見ていただいたことで、この映画祭が選ぶ作品の色が決まった気がします。それがなにかといえば、「”作る”という行為に対して純粋であること」なのかなと考えています。短編だろうが、長編だろうが、国内だろうが、海外だろうが、関係なくです。

▼今年のセレクションの見どころ

――レオン&コシーニャの新作「ハイパーボリア人」が日本でお披露目となりますね。

土居:今回は、ヤン・シュバンクマイエルと「オオカミの家」のクリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャを並べて紹介できることがうれしいです。去年、山村さんとチェコのシュバンクマイエルさんのアトリエにお邪魔できる機会がありました。今回の特集は生誕90年に合わせてのものなのですが、今もご健康で、我々がお邪魔したときも、純粋に自分自身のビジョンに従った制作をしていらっしゃいました。

 それはレオン&コシーニャも同じです。アニメーションを作る、という意識ではなく、自分自身を触発する手法に、こま撮りアニメーションがある、という作り方をしてます。シュバンクマイエルも同じで、彼らの作品には、こま撮りの純粋さ、それを使う喜びが感じられます。観客の皆さんにもシュバンクマイエル、レオン&コシーニャそれぞれの作品世界にぐっと入り込んでいただけると思います。

山村:僕は「ハイパーボリア人」の今年のカンヌのワールドプレミアに立ち会って、その熱狂を感じました。実写、ストップモーション、人形劇など多くの要素を織り交ぜた、手作り感満載の画面作りは、物作りへの愛情とカオスに満ちていて、唯一無二の作品になっています。

 実在の作家、秘教哲学者のミゲル・セラノの常軌を逸した思想をチリの歴史、オカルト、右翼の陰謀論、ユング心理学、無声映画などからのアイデアを結び付け、これまでのナラティブの規制概念を覆すような自由な展開が続き、その画面の移り変わりの面白さ、イマジネーションと現実が自由に入り乱れ混沌としていきます。「オオカミの家」にハマった人たちの期待を全く裏切らない作品だと思います。

土居:彼らの過去の短編作も上映します。「オオカミの家」のピュアな部分、その源泉を色濃く感じられると思います。

山村:シュバンクマイエルも日本でブレイクする前から、広島でコンペティションをはじめとして長年紹介されてきました。そして今でも作家として現役で、発信し続けている。その姿をドキュメンタリーも含めた特集長編プログラムで感じていただけると思います。

▼短編と長編のコンペティション、部門それぞれの特色

――コンペティション部門についてお聞かせください。短編は「社会への眼差し」「寓話の現在」「虚構世界」「光の詩」の4つのカテゴリに分かれていますね。

土居:短編コンペティションのカテゴリは毎回少しずつ変化しています。カテゴリをはじめから決めるのではなく、応募作品の傾向から「強い」作品を選ぶことができるカテゴリを毎回設定しなおしています。

山村:僕の中ではその4つに純粋なグラデーションがあり、「社会への眼差し」から「寓話の現在」「虚構世界」「光の詩」へと、抽象性が高くなって、現実とのインデックスがだんだん減っていきます。「社会への眼差し」はアニメーションドキュメンタリーを含む、現実との関係性が分かりやすい作品、何か現実との接点が見える作品群です。「寓話の現在」は少し現実も絡みながら、メタファーを通して現実世界を描くようなもの、「虚構世界」は作者の想像によるフィクションの世界、そして、より具象性もなくなってくる「光の詩」という流れです。

 もちろんこれは、暫定的なもので、人によって認識も変わると思います。未知の短編作品を鑑賞する上で、こういったカテゴリ分けが観客の理解の少しのきっかけになってくれればいいなと思います。

――環太平洋アジアユースコンペティションは、アジアの若い才能が結集しました。

山村:僕が選考で約2600本を見ていく中で、アジアの作品が全体に強いことを実感していて、それがこのコンペティションに反映されています。特に印象に残ったのは、中国、韓国作品ですね。

土居:ミャンマーの作品もありますね。これは社会の苦境に置かれている人たちの話。日本だと娯楽性が前面に来るものが多いですが、地域によって、アニメーションの役割は全く違ったりもします。そういった、聞こえてなかった声がひろしまアニメーションシーズンで聞こえてくると思います。

山村:また、このコンペの他に、中国美術学院、台北芸術大学の特集があります。台湾もユニークな作品が多く、中国、韓国とはまた違う感性で、ホラーのような作品、カテゴリに分けようのない不思議な作品があって、アジアの中でも独自性を発揮しています。

土居:もちろんそれぞれの国の歴史的なものを背負ってはいますが、映画祭は政治的な軋轢を超えて、アニメーション作家が人間として交流する場ですから、その狙いも感じ取ってもらえると思います。

山村:対面での交流の大切さ、そこで共有できる価値観を見つけて、創作の大きな未来を見てもらえたら、最高です。もちろんそんなに大きなコミュニティではないですが、アニメーションシーズンもそういうところは担っていきたいと思いますね。

――日本依頼作品コンペティションでは、テレビ放映された作品などが集まっています。

山村:一般的に映画祭のコンペでは、純粋に作品として作られたものが優先されがちになります。しかし、商業的な場所で作られた作品は、それぞれの作家の持ち味が発揮されているので、今、どんな日本の作家がいて、日本のどういうメディアの中でアニメーションが作られているのかをパノラマとして見てもらえます。

土居:僕は今子育て中で、Eテレをよく見ていますが、クオリティの高いものがたくさん作られていることを改めて実感します。今回このコンペティションの新設記念として、伝説のアニメーターとして知られる、南家こうじさんの特集もあります。「みんなのうた」を一番多く手がけられている方ですが、また「うる星やつら」など80年代のテレビアニメのオープニングやCMのお仕事も多く、何本か見ればこれは南家さんの仕事だとわかる、非常に特徴的なアニメーションです。今回、作家として南家さんを取り上げることも、日本依頼作品コンペを作った理由と似ており、いわゆる“お仕事”の作品にもピュアな創造性が宿り得るのだということを感じていただけると思います。

山村:短編のコンペティション全般で、新しい作家をたくさん紹介しますが、今回の特徴としては、1980年代あたりから制作を続けているようなベテラン作家たちの新作に力強いものがあったり、80代ぐらいの作家の作品もあったり、若手から大ベテランまで、入り乱れてのコンペになっています。

――長編部門は、2023年のアヌシーでのオープニング作品「シロッコと風の王国」や新潟国際アニメーション映画祭グランプリの「アダムが変わるとき」などの話題作、そして、珍しいパキスタンのアニメーションもノミネートされています。

土居:「シロッコと風の王国」は東京アニメアワードフェスティバルで、「アダムが変わるとき」は新潟と、すでに日本でも紹介されていますが、ほか2作については今回日本初上映です。

 「ガラス職人」は、パキスタン初の2D長編アニメーションです。日本のアニメに大きな影響を受けた、という若い監督が、この作品の制作のためにスタジオを作ったそうなんです。絵はジブリのような雰囲気もあります。戦争がテーマになっていますが、パキスタンの視点からの、独特な語り口になっていると思いますし、監督も来場してトークを行います。

山村:カンヌで監督にお会いしましたが、広島に来られることを喜んでいましたね。とっても厚い絵コンテの束を僕に渡してくれて、見てほしいと。ジブリや今敏さんなどの絵コンテ集を独学で勉強して作り上げたそうです。日本の影響を受けて、完成した作品が日本で上映されることはうれしいですね。

▼特別上映では「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」「映画 窓ぎわのトットちゃん」「BLUE GIANT」「ルックバック」など近年のヒット作がずらり

土居:僕は、映画祭は歴史を記録していく場だと考えています。そこで今回上映する作品はすべて非常にユニークですし、これらの作品が好きな方は、この映画祭で初めて出会うこと、見慣れていない海外の作品も気に入ってもらえると思うんです。そういう入り口であり、同時に日本の商業アニメに携わる方々と海外の作家が混ざり合う、良い触媒の場として機能させたいと考えています。

――8月15日には「映画 窓ぎわのトットちゃん」が上映されますね。

土居:この映画祭が「ひろしま国際平和文化祭」の一環として行われるものですし、「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」も、娯楽作ではありますが、両方とも太平洋戦争やそれを引き起こした日本の社会の構造についての話でもあるので、アニメーションを通して、新しく歴史を考え直すきっかけになるといいですね。

▼お子さんの映画デビューにもぴったり 泣いてもOK“赤ちゃんフレンドリー上映”

土居:前回、朝イチの上映プログラムで、入場無料で子供も楽しめる作品を上映したところ、お子さん連れの観客がたくさん来てくださいました。今回も継続し、とりわけ「シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺにゅうワールド」は0歳から2歳児向けのシリーズなので、明かりも暗くせずに、音も抑えめで、泣いてもOK、そんな“赤ちゃんフレンドリー上映”をで実施します。

山村:これまで小さいお子さんを映画館に連れて行くのは難しかった、という地元のご家族にはぜひ楽しんでいただきたいです。子供向けの上映自体、これまであまりなかったことので、今後も少しずつ増やしていきたいです。

▼「ひろしまアニメーションアカデミー&ミーティング(HAM)」

――クリエイター、クリエイター志望の学生向けアカデミープログラムも充実しています。

土居:今回、ひろしまアニメーションアカデミー&ミーティング(HAM)」を新設しました。パーティーやミーティングのようなコミュニケーションのイベントと、レクチャーやシンポジウム、ワークショップなどのアカデミーイベントが併設されており、山村さんにも日本と中国と台湾でのアニメーション教育の話をしていただく予定です。現在、メジャーなアニメスタジオの関係者から学生まで、300人くらいの方が登録してくださっています。中国、台湾、韓国などアジア圏からの参加者もいます。

 横の繋がりを作る場所として、業界関係者、学生さん、クリエイターや創作を目指している方に絞っていますが、業界関係者を広く捉えていただいて出版、編集などメディアの方にも来ていただきたいですし、他の映画祭の人たちが集まるミーティングのプログラムもあります。

山村:このプログラムでコンペ作家同士の交流も図れると思います。

▼映画祭だけではなく、広島の街、グルメも楽しめる

土居:8月の広島はとても暑いので……日中は映画をたくさん見ていただいて(笑)、夜は気温も下がって歩きやすくなるので、 夜に色々散歩するのがおススメです。川沿いや原爆ドーム付近を歩いて、当時の8月にここで起こったことを振り返ることができますし、また、繁華街も楽しめます。

山村:早朝の平和公園もいいですよ。会場から近いので、上映前にぜひ立ち寄ってみてください。

土居:おいしいものもたくさんありますよね。お好み焼きや、ホルモンの唐揚げ、アナゴ。あとはやっぱりお酒、日本酒が素晴らしいです。

山村:広島発祥のつけ麵も有名店が会場の近くにありますね。

――「ひろしまアニメーションシーズン2024」に興味を持った方や、参加を検討しているアニメーションファンにメッセージをお願いします。

土居:僕は毎回自分がプロデュースする映画祭はフェスだと考えています。何か目当ての作品があって来場して、時間が合えばそれ以外も見てみよう――そういう気持ちで参加していただけると、思いもよらぬ発見や経験があると思います。作家さんと話をできることもあります。

 僕のおすすめとしては、1日券や全プログラム券を買って、お目当てののプログラムに加えて、ちょっとだけ興味を惹かれるプログラムも見てみる、というものです。ちょっと見てみて自分にとっては面白くないと思ったら、また違う会場に行ってもいいのです。様々なものを少しずつ体験するというのも楽しみ方のコツで、気軽にふらっと来てもらえると面白いと思います。

山村:作り手の立場から言うと、映画祭は最先端の情報を得られる場所です。まとまった形でキュレーションされていて、作り手にとっていちばん勉強になる場所。なので、少しでもアニメーションを作ることに関心がある人には是非来てほしいです。もちろん自分もですが、知らない情報がたくさんあるので、未知との遭遇を楽しんでいただきたいですね。

 たった1本の作品がその人を変える、そういうことが実感としてあります。少しでも関心があるプログラムがあれば、それを足がかりに、他のプログラムを見て、何か大きな出会いがあるといいなと思います。映画祭には、普段映画やアニメーションを見慣れている人たちでも知り得ない世界があるので、そこにぜひ飛び込んでもらいたいです。

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 「ひろしまアニメーションシーズン2024」は、8月14日~18日開催。全プログラム、チケット詳細は公式HP(https://animation.hiroshimafest.org/schedule/)で告知している。1日券は一般前売り2,000円、当日3,000円。1回券は前売り1,000円、当日1,200円。そのほか全プログラム券や、大学生、高・中学生料金あり。

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