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「フォールガイ」に参加した日本人スタントマン・浅谷康に聞く 泣いている人もいた――感動的だったアクションシーンは?

映画.com 2024年8月15日 14時0分

 ライアン・ゴズリングが主演し、「ワイルド・スピード スーパーコンボ」「ブレット・トレイン」のデビッド・リーチ監督がメガホンをとった「フォールガイ」が、8月16日から公開される。ゴズリングが演じるのは、大けがを負い一線を退いていたスタントマンの主人公。本作には、そんな主人公と同じくスタントマンとして活躍する日本人が参加し、裏から映画作りを支えた。

 そのスタントマンは、アクションコーディネーターの浅谷康氏。格闘シーンのコーディネートを行い、撮影準備段階やアクションのデザインから本作に携わっている。このほど浅谷氏がオンラインインタビューに応じ、本作の撮影の裏側、さらに知られざるスタントマンの世界について語ってくれた。

【「フォールガイ」あらすじ】

 大けがを負い一線を退いていたスタントマンのコルト・シーバース(ライアン・ゴズリング)。ひょんなことから映画の世界に舞い戻ることになったコルトは、そこで監督を務める元カノのジョディ・モレノ(エミリー・ブラント)と再会。ジョディに未練たっぷりのコルトは、彼女の気を引こうとアツいスタントを連発する。

 そんな中、幾度となく命がけのスタントダブルを請け負うも、過去にあっさりクビを切られた因縁の主役俳優のトム・ライダー(アーロン・テイラー=ジョンソン)が突然失踪してしまう。これを機にジョディとの復縁とスタントマンとしてのキャリアの復活を狙うコルトは、トムの行方を追う羽目になるが、思いもよらぬ事件に巻き込まれていって……。

■浅谷康:アクションコーディネーター

「アクアマン 失われた王国」「ソー ラブ&サンダー」「シャン・チー テン・リングスの伝説」などに参加してきた日本人スタントマン。「フォールガイ」には格闘シーンのスタントチームとして参加し、プリプロ(撮影準備段階)から携わっているほか、ジョディ(エミリー・ブラント)のカメラアシスタント役、劇中映画「メタルストーム」内のエキストラ役で出演もしている。

――アクションが大きな見どころとなる作品です。実際に浅谷さんが携わっているシーンを教えてください。

 基本的には格闘シーンです。ナイトクラブやトム・ライダーの家での格闘シーン、トレーラーの中でもみ合うシーン、オペラハウスでのシーンは僕らがデザインしています。

――アクションのデザインというのは、どのような作業なのでしょうか。

 最初に台本が配られるので、それを読んでから動きを考えていきます。車のシーンや落ちるアクションなど、さまざまな担当がいますが、僕らはフィジカルで立ち回りをするシーンを書き出して、動きをつけていきます。セットのデザインが出来上がっていたらそれを見せてもらうことも。例えば、トム・ライダーの家でのシーンだったら、吹き抜けになっているからここから落ちることができるよねとか、みんなでアイデアを出し合っていきます。

 今回、ファイトチームのメンバーは5、6人いました。話し合って、ラフな動きを作って、ビデオコンテにあげていって、監督たちから意見をもらう。みんなでどんどんアイデアをすり合わせていきます。

――スタントマンという職業に光を当てた作品です。企画を聞いたときどう思いましたか?

 最初はやっぱりプレッシャーがありましたね。世界中のスタントマンが観ると思うので……(笑)。そこに自分が参加してもいいのかなって考えたりもしました。

――実際にスタントマンの方々の反応はいかがでしたか?

 結構連絡がありました。今回はオペラハウスのシーンでエミリー(・ブラント)の横でカメラアシスタントの役もしていたので、いろんな知り合いから「思いっきり映ってるやん!」ってメールをもらいました(笑)。

――迫力のあるアクションシーンが何度も登場しますが、特に注目してもらいたいアクションシーンはありますか?

 車を回転させるシーンは大きな見どころだと思います。8回転半も回転して、実際にギネス世界記録を更新しているんです。台本を読んだときに“ギネスを更新する”っていう設定が書いてあったので、どうやって更新するのかをみんなで話し合って、テストがうまくいかなかったりもしました。

 今日の撮影でうまくいかなかったら、お芝居上でギネスを更新したってことにするしかないよねって話もしていたり。でも、トップクラスのスタントマンだったデビッド・リーチが監督をやっているんだから、実際に更新しないとダメでしょっていう、携わっている人たちのプレッシャーもありました。

 僕はその撮影のときは現場にはいなかったのですが、現場から「ギネス更新したよ!」ってみんなにビデオメッセージが届いたときは、すごく盛り上がりましたね。

――素敵な裏話をありがとうございます。浅谷さんのことも伺いたいのですが、いつ頃からスタントマンの道を歩み始めたのでしょうか。

 もともとはブレイクダンスを仕事にしていました。日本でもダンスをしていて、2001年にワーホリでオーストラリアに来て、後にダンスを通してオーストラリアの永住権を取得しました。2007年くらいにスティーブン・スピルバーグがプロデュースした「ザ・パシフィック」というドラマシリーズにエキストラとして参加したことをきっかけに、スタントマンの都合がつかないときに声をかけていただくようになりました。

 元ダンサーのスタントマンって、多いんですよ。動きの物まねができて、動きを覚えるのが得意な人が多いからです。もともとエンターテインメントの世界にはいましたが、映画は総合芸術ってみんなが言うように、いろんなジャンルのスペシャリストが集まっている感じがかっこいいな、自分もその一人になりたいなって思うようになりました。

――本作を観てスタントマンに憧れる人も多いと思います。実際になるためにはどんなことが必要ですか?

 ……ダンスじゃないですかね(笑)。あとは、やっぱり映画を好きでいないとやっていけないです。もちろん楽しいことばかりじゃないので、いっぱい映画を観て、ずっと好きでいてほしいと思います。

 時には痛いこともありますが、作品が出来上がった時の感動も大きいし、それがずっと映像に残っていく仕事です。そういうのを実感したときにはやっていて良かった、またすぐにやりたいって思います。

 「フォールガイ」は本当にすごい人たちの集まりでした。トロイ・ブラウンというスタントマンがヘリコプターから落ちるハイフォールのシーンを担当したのですが、実はトロイのお父さんのボブがハイフォールの世界記録保持者なんです。ボブは今回の撮影のために、自分が昔使っていたエアバッグを南アフリカから持ってきて、トロイが落ちるのを下から見ていました。

 トロイのハイフォールが成功した時には、現場が大きく盛り上がりました。そのエアバッグには、ボブが世界記録をとったときにサインをしていたのですが、今回はトロイもサインをしていて。感動的なシーンで、泣いているスタッフもいました。そういう瞬間を見ると、この仕事をやっていて良かったなと思いますね。

――貴重な裏話です。 最後に、ハリウッドではアカデミー賞にスタント賞の増設を求める声が多く上がっています。浅谷さんや周りのスタントマンの方々はどのように考えていますか?

 スタント賞ができたら、スタントマンっていう職業も確立してくるのでとてもいいことだと思っています。衣装さんだとちゃんとした仕事って捉えられていますが、スタントマンがちゃんとした仕事だと認められているかっていうと、今の段階では曖昧です。大きな団体に認められると僕らも嬉しいですし、スタントマンになりたい人の指標になってくると思うので、個人的には増設されたらいいなと思っています。

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