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「みんなのうた」最多担当、伝説のアニメーション作家・南家こうじの功績を識者が熱くトーク 「ラムのラブソング」「スプーンおばさん」ダンスに見るリズム性

映画.com 2024年8月19日 6時0分

 広島市で8月18日まで開催されたアニメーション芸術の祭典「ひろしまアニメーションシーズン2024(HAS)」で、伝説のアニメーション作家・南家こうじの功績を振り返る上映とトークショーが行われた。

 南家氏は、1971年竜の子プロダクション(現タツノコプロ)の仕上げ部門に入社し、特殊効果を担当したのちアニメーターに転身。1974年に竜の子プロダクション退社以降はフリーランスで「うる星やつら」や「らんま1/2 熱闘編」など数多くの話題作でクレジットタイトルを担当した。

 アニメーションと音の緊密なシンクロ、洗練された抽象的なパターン、多彩な技法や画材の導入といった独創的な表現が特徴的な作家だ。本映画祭では特に2024年現在、番組史上最も多くの楽曲を手がけたNHK「みんなのうた」の中から「上級生」「ママが白鳥だった日」「ぼくとディジャヴ」「僕は君の涙」「はる なつ」「ヒナのうた」「アオゾラ」「私と小鳥と鈴と」「愛がお仕事」の8作品が上映された。

 上映後には、新進気鋭のアニメーション作家であり、アニメーション研究も評価の高いかねひさ和哉氏が登壇、キュレーターの田中大裕氏を聞き手にトークショーを行った。

 「ひろしまアニメーションシーズンが、ひろしま国際平和文化祭の一環として行われているという背景を踏まえ、南家こうじさんにはコミカルでチャーミングな楽しい作品も代表作の中にたくさんあるなか、今回は、さまざまな分断が世界中にある暗い時代の中であっても、見た人の心に控えめながらそっと寄り添ってくれるような優しさと温かさを感じられるような作品を選びました」と経緯を語った田中氏。

 かねひさ氏は、「南家さんは音楽をより魅力的に聴こえさせることができるし、音楽の力によってアニメーションがより魅力的に見える、その相乗効果を巧みに利用されている作家だと思います。南家さんのリズム性は「うる星やつら」であったり「スプーンおばさん」であったり「キョロちゃん」のような数々のタイトルアニメーションからも伺えることではないか」と考察した。

 今回キュレーションにおいて、南家作品の「手触り感」に注目したという田中氏。「カラーインクと鉛筆を駆使した作品を中心に選ばせていただきました。『上級生』では切り絵アニメーションのようなことをやられていたり、コラージュやストップモーションなど駆使して手法も多種多彩。ただ作品の手法やトーン・雰囲気を超えて、音楽とのマッチング、リズムにある種アニメーターとしての魂というか、「これぞ南家こうじ」というものが宿っているのかなと思います」

 南家作品からの影響を問われたかねひさ氏は「南家さんの作品からは、作家自身の精神性・リズム・アニメーションの生命力の楽しさが伝わってくる。キャラクターが躍動する動きが音楽と映像が同期していたら気持ちがいいし楽しい。それは南家さんの作品をみて強く感じていたことだったので、僕もアニメーションを作る際に自分の中で影響を認めている部分ではあります」と根源的な部分での影響を語った。

 キャラクターだけにフォーカスするのではなく世界そのものをアニメーションで描き、そこに優しさが宿り、キャラクターだけではなく描かれている世界そのものにエネルギーが満ちていると南家作品を分析する田中氏に同意したかねひさ氏は、「例えば消しゴムを使ったり黒板を使ったり、あるいは切り紙をコラージュしたりと多様な技法を扱われていることに関連すると思うんですけど、“世界を作ること”に対するこだわりを感じてすごいなと思ってきました。でも決して技巧に凝って難解になっているのではなくて、人々の善意を信じるというか、根源的な善性みたいなものが南家さんの作品の中でTVアニメーションのオープニングタイトルからCMに至っても存在していて、それは南家さんの大きな魅力なのではないか」と語った。

 膨大な品を手がけている南家作品の中から好きな作品を問われたかねひさ氏は「あさおきたん」(82)、「僕は君の涙」(98)、「海へ来て」(84)の3作を挙げる。

 「まず『あさおきたん』は南家さんのコミカルで朗らかで天真爛漫な側面。子どもたちがリズミカルに描かれているのが、僕が南家作品に惹かれた側面だったので、それがより強く出ていると思います。構成も巧み。南家さんはリズムの作家だなと強く思わせられた作品ですごく好きです。『僕は君の涙』も今見てもやっぱりいいなと思ったんですけど、南家さんの作品の中でも、曲の構成を尊重しているものの、アニメーションの中の世界の構成がすごいなと」

 「初期のNHK『みんなのうた』の南家作品はコミカルに躍動するような作品が多かったと思うんですが、『海へ来て』はリリカルな側面が強く出た初期の作品として重要だなと思っています。女の子が飛び上がったりする動きの美しさ、手の細やかさ、足をつく時の美しさが南家さんのアニメーション作家としての魅力が強くあるなと思ったし、色鉛筆のタッチを取り入れながらセルアニメーションも使っている、多様な技法が見られるという意味でも、作家のいろんなものが詰まっている。今回上映された『愛がお仕事』もそういう部分を感じます」と“南家愛”を滲ませた。

 田中氏が上映された作品とは違う南家作品の側面を知るために、と挙げたのが「御先祖様万々歳!」のオープニング。「非常に抽象的で画面ではビデオノイズが展開し、オープニングなのにキャラクターが出てこない。音楽に合わせてノイズが変形していくという作品なんですけれど、今の感覚だとCGで作るところを手描きでやっていて。コントラストの強いフィルムを使って、ビデオノイズ風のものを手仕事で再現するというところがすごく興味深く実験的な作品です」と紹介。

 「スプーンおばさん」のエンディングのダンスシーンにも話が及び、「南家さんの音楽とアニメーションのシンクロするチャーミングな魅力を感じられる」と田中氏が語ったことから、TVアニメのオープニングやエンディング映像の話へ。

 実験的なものやキャラクターがダンスするものがあるがその先駆けが南家こうじだったのではと田中氏が語ると、かねひさ氏は「『ラムのラブソング』が日本のTVアニメのオープニングタイトルの歴史を変えたと言ってもいいと思っていて。南家さん含めコマーシャルフィルムの畑にいた人がTVアニメのオープニングタイトルをスタジオワークから若干外れた立ち位置で作るということが歴史を変えた側面ではあるのかなと思う」と持論を述べる。

 「『ラムのラブソング』の現実では絶対踊れないであろうステップを踏み始めるところとか。ダンスではあるんだけどアニメーションでしかできないダンスをファンシーな感じの背景をバックに踊らせるというのは本当に1981年の作品とは思えない。エポックメイキングな作品だなと思いますね」とその功績を熱く語った。

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