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「ラストマイル」2つのポイントに感じるポテンシャルの高さ 興収はどうなる?【コラム/細野真宏の試写室日記】

映画.com 2024年8月24日 8時0分

 映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

 また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

 更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

2024年8月23日(金)から「ラストマイル」が公開されました。

 この「ラストマイル」という作品は、映画オリジナル作品ではありますが、2つの点で、ポテンシャルの高さを感じます。

 1点目は、TBSスパークル所属の塚原あゆ子監督の作品であること。

 映画作品では、前作「わたしの幸せな結婚」(2023年)にて有能な監督であることが把握できたので、「塚原あゆ子監督作品」というだけで期待が持てます。

 2点目は、「塚原あゆ子(監督)×野木亜紀子(脚本)」のコンビによる作品であること。このコンビによるテレビドラマに「アンナチュラル」(2018年)と「MIU404」(2020年)があります。

 私は、連ドラの「アンナチュラル」と「MIU404」は見たことはないのですが、タイトルは目にしていて「存在」は知っていました。

 どちらの作品もTBSドラマ。連ドラの世界も各クールごとに各局が競うように新たな作品をリリースし、なかなか「存在」を知ってもらうのさえ難しいと感じています。

 そんな中、「アンナチュラル」と「MIU404」については、ネット記事などで評判の良さをよく見かけていたのです。

 この段階でも十分なポテンシャルなのですが、「ラストマイル」では、医療系の「不自然死究明研究所」の「アンナチュラル」メンバーと「警視庁刑事部・第4機動捜査隊」の「MIU404」メンバーが登場します。

 この手法については、連ドラ「MIU404」の中で、すでに「アンナチュラル」メンバーが登場したりもしていたようです。

 つまり、本作は、映画オリジナル作品でありながら「人気連ドラ作品のスピンオフ映画」のような面も持ち合わせ、底堅さもあるわけです。

 実際に作品を見てみると、「アンナチュラル」と「MIU404」の出番はそこまで多くはないですし、どちらの作品も知らなくても特には問題を感じませんでした。

 その一方で、そんなに出番はなくても、「アンナチュラル」と「MIU404」の連ドラファンの目には“違った光景”に映っているはずで、連ドラのファンムービーとして成立しているように思います。

 この“他作品が一緒に集まる作品”の象徴に「アベンジャーズ」などがありますが、これまでこのコラムでも触れていたように、そのコラボが最もしやすいテレビ局はフジテレビだと考えていました。

 例えば「コンフィデンスマンJP」に「リーガル・ハイ」や「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」、「踊る大捜査線」などが絡むのは想像しやすく、権利関係においても“実現可能”なものだと思っています。

 それをTBSが先手を打ってきたのは個人的に興味深い動きでした。

 そんなことを考えながら見ていたことが関係しているのかはわかりませんが、実は「ラストマイル」を見ながら思っていたのは、構図などが「踊る大捜査線」的だな、ということだったのです。

 局は違うのですが、不思議と「踊る大捜査線」のDNAを受け継いでいるのが、塚原あゆ子監督であるように感じました。

 奇しくも今年の10月と11月に「踊る大捜査線」をはじめとする「踊るプロジェクト」の最新映画2部作「室井慎次 敗れざる者」「室井慎次 生き続ける者」が公開されますが、個人的には、その出来栄えに大いに関心を持っています。

 というのも、「踊る大捜査線」シリーズがシュリンクしてしまったのは、後続作品の出来映えに勢いがなくなっていたからだと考えています。

 一時代を作ってきたクリエイターのさらなる躍進となるのか、本作のように新たなクリエイターの時代となるのか、はたまた良いライバル関係を保って映画業界を牽引していくのか――その答えが今年中に判明しそうです。

 タイトルの「ラストマイル」は、通常は「ラストワンマイル」と呼ばれることが多いと思いますが、商品などを顧客に届ける「物流サービス」で使われる用語で、「荷物を顧客に届ける最後の区間」を意味しています。

 その「ラストワンマイル」で起こる11月のブラックフライデーに関連する連続爆破事件が、世界的な巨大ショッピングサイトを舞台に繰り広げられます。

 さて、本作は、伏線もしっかりしているし脚本も良く出来ている、単純に面白い作品でした。

 ただ、連ドラファン以外に、どこまでウケるのかが見極めにくい作品でもあるような気がしています。

 制作費は5億円程度だと思われるので、P&A費を考えると、興行収入21億円で映画だけでリクープできそうです。

 私は、この程度であればラクに達成し、興行収入30億円台には余裕で乗せられると思っています。

 果たして、ちらほら登場する2つの連ドラの影響も含めてどのような化学反応が起こるのか、日本における初のケースとも言え、大いに注目すべき作品なのです!

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