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D23 Expoで見たディズニーの現在と未来――“底力”を見せつけるラインナップで気づいたことは?【ハリウッドコラムvol.356】

映画.com 2024年8月24日 16時0分

 ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米ロサンゼルス在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。

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 ひさびさにD23 Expoに参加した。D23 Expoとは「究極のディズニーファンイベント」として知られ、米カリフォルニア州アナハイムのコンベンションセンターで数日間にわたってさまざまな展示やイベントが目白押しだ。

 ディズニーといっても、もはや実写やアニメだけではない。ピクサー、マーベル、ルーカスフィルムに加え、近年買収したフォックスまでが参加するようになり、その世界観はどんどん多種多様になっている。2年に一度の開催だが、毎回その規模は拡大の一途をたどっている。まさに、その名の通り「究極」のイベントと呼ぶにふさわしい。

 そして、2019年を最後にコロナの影響で中止となっていたが、2024年、ついに久々の再開を果たした。

 5年ぶりのD23 Expoとなるわけだが、昨今のディズニーは以前のような無敵状態ではない。マーベル・スタジオの「エターナルズ」「アントマン&ワスプ クアントマニア」「マーベルズ」は批評・興行ともにさんざんだったし、ピクサーの「バズ・ライトイヤー」と「マイ・エレメント」もかつての黄金期にはとてもかなわない。ディズニーお得意のアニメの実写化「リトル・マーメイド」や、ルーカスフィルムによる「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」に対する評価も芳しくなかった。

 そんなディズニーの危機に、2020年に引退したロバート・アイガーCEOが2022年に電撃復帰。以来、彼の指揮の下で立て直しが進められてきた。今年4月には敵対的買収の試みを阻止するなど、株主のアイガーCEOへの信頼は厚い。

 ただ、ディズニーもこの夏ようやくスランプを脱出したようだ。5月公開の「猿の惑星 キングダム」がスマッシュヒットとなり、6月公開のピクサー作品「インサイド・ヘッド2」は世界総興収16億ドル超え、7月公開のマーベル作品「デッドプール&ウルヴァリン」も世界総興収12億ドル超えを記録。強いディズニーが帰ってきたのだ。

 こうした成功を受けて、今回のD23 Expoは最高のタイミングでの開催となった。もちろん、イベントの準備は数々のヒット作が公開される前から進められていたが、結果的にディズニーの復活を印象づける絶好の機会となったのだ。

 第一夜に行われた「ディズニー・エンターテイメント・ショーケース」は、1万2000人収容のホンダセンターで実施された。期待と興奮に包まれた会場は、まさにディズニーマジックそのものだった。

 最初に登壇したロバート・アイガーCEOは、まるでロックスターのような熱狂的な歓迎を受けた。彼自身もその反応に驚いた様子で、「サプライズを届け、みなさんの心に喜びと驚きを満たすこと以上にわたしたちが愛することはありません」と熱いメッセージを届けた。

 アイガーCEOの登場で会場の熱気ははやくも最高潮に達したが、それはほんの序章に過ぎなかった。

 ジェームズ・キャメロン監督が「アバター」シリーズ第3弾の正式タイトル(「アバター ファイヤー・アンド・アッシュ(原題)」)を発表したのを皮切りに、ウォルト・ディズニー・アニメーションは、「モアナと伝説の海2」「ズートピア2(原題)」「アナと雪の女王3(仮題)」(「アナと雪の女王4(仮題)」も準備中だとか)を発表。

 ピクサーのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めるピート・ドクター監督は「星つなぎのエリオ」「トイ・ストーリー5」「ホッパーズ(原題)」「インクレディブルズ3(原題)」のプレゼンテーションを行った。

 マーベルのケビン・ファイギ社長は「キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド」と「ファンタスティック・フォー ファースト・ステップス(原題)」といった映画と、ディズニープラス向けの「アガサ・オール・アロング」「アイアンハート(原題)」「デアデビル ボーン・アゲイン(原題)」を発表。

 ルーカスフィルムは、「キャシアン・アンドー」(シーズン2)、「スター・ウォーズ スケルトン・クルー」といったテレビシリーズに加えて、「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」以来の映画となる「ザ・マンダロリアン・アンド・グローグー(原題)」のフッテージを公開。

 ほかにも「トロン:アレス(原題)」「ライオン・キング ムファサ」、実写版「白雪姫」、実写版「リロ&スティッチ」など数え切れないほど。まさに、ディズニーの底力を見せつけるラインナップだった。

 ただ、あらためて気づかされたのは、ディズニーのIP(知的財産)重視の姿勢が一段と強化されていることだ。今回発表された作品群の中で完全なオリジナル作品は、ピクサーの「星つなぎのエリオ」と「ホッパーズ(原題)」、そして、ドウェイン・ジョンソン主演の「モンスター・ジャム(原題)」だけだ。

 これは、現在のエンタメビジネスを取り巻く状況を如実に反映しているといえる。実際、アニメ史上歴代興行収入ナンバーワン映画となった「インサイド・ヘッド2」も、続編でなければここまでのヒットには至らなかったかもしれない。オリジナルの大作映画は、今やリスクが高すぎるのだ。

 しかし、マーベルがフェーズ4以降で躓いたように、お馴染みのキャラクターをただ焼き直せばいいというわけではない。既存のIPをいかに新鮮に、そして高いクオリティで提供できるかが鍵となる。

 その点をディズニーはしっかり理解しているようだ。例えば、「トイ・ストーリー5」の監督に、「トイ・ストーリー」と「トイ・ストーリー2」の脚本を執筆し、「ファインディング・ニモ」や「ウォーリー」を手がけたアンドリュー・スタントンを起用。また、「インクレディブルズ3(原題)」をこれまで通りブラッド・バード監督に任せるなど、優秀なクリエイターを重用している。

 オリジナル作品が少ないのは残念だけれど、今回のラインナップは現状を冷静に反映していると思う。そもそもディズニーほど貴重なIPを抱えているエンタメ企業も少ない。そのなかで、安全性と創造性のバランスをうまく取っていると思う。ディズニーの黄金時代が再びはじまりそうだ。

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