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「箱男」27年越し公開――永瀬正敏「言葉にならない」、浅野忠信は箱の中で“パンイチ”?

映画.com 2024年8月26日 13時0分

 作家・安部公房が1973年に発表した長編小説を映画化した「箱男」の公開記念舞台挨拶が8月24日、東京・新宿ピカデリーで行われ、主演を務める永瀬正敏、共演する浅野忠信、白本彩奈、佐藤浩市、メガホンをとった鬼才・石井岳龍監督(「狂い咲きサンダーロード」「蜜のあわれ」)が出席した。

 97年に製作が決定した本作だが、スタッフ・キャスト陣が撮影地となるドイツ・ハンブルグに渡航後、突然中止になり、幻の企画になった本作。27年前にも主演を務める予定だった永瀬は「言葉にならない。感無量です。長い歳月、心のなかで『箱男』と歩んできた」とファンを前に万感の思い。「監督、おめでとうございます!」と執念で映画化を実現させた石井監督を祝福した。

 ダンボールを頭からすっぽりと被った姿で都市をさまよい、覗き窓から世界を覗いて妄想ノートを記述する「箱男」。すべてから解放された“人間が望む最終形態”に心を奪われ、自らも箱男として生きるカメラマンの“わたし”(永瀬)をはじめ、箱男の存在を乗っ取ろうとするニセ医者(浅野)、箱男を完全犯罪に利用しようと企む軍医(佐藤)、“わたし”を誘惑する謎の女・葉子(白本)ら、箱男に魅了・翻ろうされる人々の姿を描く。

 安部氏生誕100周年を迎える今年、映画が公開されることに、永瀬は「世の中が原作に近づいてきた。ほぼ全員がスマートフォンをお持ちで、石井監督も『それこそが箱じゃないか』って。安部公房さんは予言者のよう。すごいなと思うし、ご覧になる皆さんの理解度も高まっているかもしれない」と、令和にこそふさわしい作品だとアピール。石井監督は、「自分にとって『箱男』とは? わからないですが、その謎が惹きつけるんだと思います」と語った。

 浅野は「当時、詳しいことは知らなかったが、残念ながら中断したと聞いていた」と振り返り、「復活すると聞き、すごいことになるなと思いましたし、永瀬さんと石井監督とは、何本もご一緒しているので、徹底的にやろうと」と本作に注いだ思いを明かした。

 劇中では、箱に入った永瀬と浅野が、ぶつかり合うアクションシーンもあり、「箱をかぶると、安心感や恐怖心、いろんな気持ちになりますね。見える風景も変わりますし。ただ、箱の中が暑いんで、気持ち悪かった。浅野くんは“パンイチ”だったよね(笑)」(永瀬)、「箱に入ると、周りから存在を忘れられて、誰も相手にしてくれない(笑)。それがだんだん心地良くなるんですよ。(箱に入った)永瀬さんとだけ目が合ったり」(浅野)と本作ならでのは舞台歌も明かされた。

 オーディションで出演を勝ち取った白本は、「恐れ多かったというか、怖かったですね」とベテラン俳優陣の共演に戦々恐々だったといい、「ですが、石井監督が『葉子は任せる』と言ってくださり、そこから心を固めました。監督はキャストの皆さんを猛獣だとおっしゃっていて、私が猛獣使いになれていたのか、わかりませんが」と笑顔を見せた。

 この日は、午前9時スタートという異例の舞台挨拶となり、佐藤は「舞台挨拶で、おはようございますなんて言うの、初めて。朝見る映画じゃないです(笑)」と思わず苦笑い。佐藤も出演者として27年前の“悲劇”の現場に立ち会っており「27年間という月日が果たして、良かったのか、悪かったのか。結果は何十年も先に出ると思うが、いまの時代は情報量が広がっているのに、何かがすごく狭くなっている。その対比が面白い」と分析し、「劇場という箱を、ぜひ熱くしていただければ」と早朝から映画館に駆けつけたファンに呼びかけた。

 そして、石井監督も「ぜひ、お客様に映画に参加してほしい。ご覧になったお客様、ひとりひとりの『箱男』を作っていただき、それがどんなものなのか教えてほしい。いろんな見方ができるように、仕掛けています」とメッセージ。改めて「感無量です」と言葉を噛みしめ、「とても豊かに実現してくださった」と映画完成に尽力したすべての関係者に感謝を示していた。

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