8月30日から山田尚子監督の最新作「きみの色」が公開されます。長崎を舞台に、ミッションスクールに通う女子高生ら3人がバンドを組んで心通わせていく様子が細やかに描かれる、青春と音楽の魅力がつまったオリジナル作品です。
最新作の公開を記念して、これまで山田監督が手がけてきた作品をご紹介します。「きみの色」をきっかけに、ぜひ他の作品にも手を伸ばしてみてください。
■「映画 けいおん!」(2011)
社会現象を巻き起こした女子高生バンドアニメ「けいおん!」の劇場版。山田監督の初監督作品であるテレビシリーズでは、楽器の練習や格好いい演奏シーンはひかえめで、部室でお茶を飲みながら、たわいない会話を繰り広げる様子を主軸にした青春ストーリーが描かれました。一見するとゆるくてなにげない描写に青春のきらめきを感じさせる繊細な演出は、山田監督作品の特徴のひとつです。
■「たまこラブストーリー」(2014)
京都アニメーションのオリジナルテレビアニメ「たまこまーけっと」の続編を描いた劇場版。テレビシリーズでは昔ながらの商店街を舞台にした群像劇がコメディタッチで描かれましたが、劇場版では主人公の女子高校生たまこと幼なじみのもち蔵の恋模様が展開されました。あることをきっかけにたまこの“世界の色”が一変するところは、最新作「きみの色」に通じるエモーショナルな名シーンです。
■「映画 聲の形」(2016)
「不滅のあなたへ」でも知られる大今良時氏による漫画が原作。関連のテレビシリーズなどなく、この映画のみで完結するため、山田監督作品の入門編として最適の1作です。8月16日の「金曜ロードショー」で放送されたことも話題になりました。元ガキ大将の少年と聴覚に障害をもつ少女のドラマを軸に、いじめなど重い題材を交えつつ少年少女の言葉にならない鬱屈した思いが、美しくも残酷な映像美で見事に描かれます。
■「リズと青い鳥」(2018)
アニメ「響け!ユーフォニアム」シリーズのスピンアウト的な劇場版。吹奏楽部に所属する2人の少女にスポットをあて、それぞれの心の葛藤や親友同士である2人の関係性のゆらぎが、息がつまるほど繊細な演出で丁寧に描かれます。一見穏やかに見えつつも、刺さる人にはグサグサとくる心の奥底をのぞきこむような少女2人の心の交流のすごみは、山田監督作品の到達点のひとつと言えるでしょう。「響け!ユーフォニアム」シリーズを見ているにこしたことはありませんが、未見での鑑賞でもまったく問題ありません。
■「平家物語」(2022)
「きみの色」のアニメーション制作を担当したサイエンスSARUと山田監督が初めてタッグを組んだテレビシリーズ。古典の「平家物語」(翻訳:古川日出男)を原作に、栄華をきわめた平家一族が滅び、貴族社会から武家社会に変化する激動の時代が、未来が見える琵琶法師の少女・びわの目をとおして描かれます。
作品歴でみると異色にみえますが、火が消える一瞬のきらめきを捉えるような、滅びを目前にした人々の心境をつづった同作は、山田監督ならではのものであることが見ていただくと分かると思います。山田監督は製作発表時、「確かに生きた人たちの、大切な物語に真摯に向き合いたいと思いました。『平家物語』は宇宙のように果てしない存在だと思っていましたが、とても色鮮やかで、実に情の深い作品でした」とコメントしています。