1990年代の“ニュー・クィア・シネマ”というムーブメントを牽引し、インディカルチャーの旗手として知られるグレッグ・アラキ監督の「ドゥーム・ジェネレーション」(劇場公開:1996年7月6日)、「ノーウェア」(劇場公開:1998年8月3日)が、約30年の時を経て、デジタルリマスター版としてリバイバル公開されることが決定した。
グレッグ・アラキ監督は、1959年、ロサンゼルス生まれ。サンタバーバラで育った日系三世。自身もゲイであることをオープンにしており、同性愛、ティーンエイジャーをテーマとした作品を多く製作している。自身を形成したものは「クィアネスとセクシャリティ、そしてオルタナティブ・ミュージック」と語っているように、手掛ける作品にはシューゲイザーやオルタナティブロックなど作品を盛り上げ感情を揺さぶる音楽がプレイリストのように多用され、登場人物のセクシュアリティも実に多様なことが特徴。異性愛を常識とする当時の概念や、それを支えてきた映画のあり方に対抗した90年代の“ニュー・クィア・シネマ”を牽引した作家の1人だ。
「ドゥーム・ジェネレーション」は、一貫してティーンエイジャーを主人公に同性愛者のリアルライフを描いてきたアラキ監督が、プロデューサーからの「異性愛映画を撮ったら制作予算をあげよう」という提案に対し、彼なりの反骨精神あふれるパンクなやり方で挑み「表向きは”異性愛映画”としつつも、”史上最もクィアな異性愛映画“を作りたかった」と語る作品だ。また「ノーウェア」は、アラキ監督自身が「3部作の中で間違いなく最も野心的な作品」と評し、まるでジェットコースターのようなスピード感で若者たちの“終末の日”の一夜を描いている。
この2作品に「トータリー・ファックト・アップ」を加えた3作が“ティーン・アポカリプス・トリロジー”と称されている。いずれの作品もティーンエイジャーの若者たちが描かれており、その理由については「ティーンエイジャーの映画を作るのが好きなんだ。彼らの“ホルモンが狂った生活”には、忘れられない高揚感がある。彼らは1日に10回生きては死ぬような興味深い題材であり、私がこの世界について感じていることを体現している」と説明。また同時に、自身の映画を「アウトサイダー、パンクス、クィア、社会やコミュニティに馴染めない人たちのためのもの」と位置付けている。
2023年のサンダンス映画祭にて、今回のリマスター版が上映されると「今回の映画祭で見た中で最も大胆で素晴らしい映画は28年前に作られたグレッグ・アラキの『ドゥーム・ジェネレーション』だった。この作品はX世代の不安や焦燥感を描いた暴力的でエロティックな衝撃作だ」(Indiewire誌)と絶賛された。
「ドゥーム・ジェネレーション」は、1995年にサンダンス映画祭にてプレミア上映され、当時の常識を超えた性表現に、観客にも衝撃をもたらしている。そこから約30年の時を経て2023年にサンダンス映画祭を主催するサンダンス協会が選出するフィルムアーカイブコレクションに「ドゥーム・ジェネレーション」「ノーウェア」が選出され、協会の支援も受けデジタルリマスターされた。このコレクションには「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」「リアリティ・バイツ」「セックスと嘘とビデオテープ」など、これまでサンダンスが生んできた名作が並んでいる。
「ドゥーム・ジェネレーション デジタルリマスター版」は11月8日から、「ノーウェア デジタルリマスター版」は11月15日から渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開。