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この映画、絶対に怖い…でも“見たくなる”→これって何故? “心の専門家”が「エイリアン ロムルス」で心理を紐解く

映画.com 2024年9月13日 10時0分

 この映画、絶対に怖い……でも“見たくなっちゃう”。そんな経験はないでしょうか? そもそも、なぜ人は恐怖を感じたくなるのでしょうか?

 映画.comでは、この心理を紐解くために“心の専門家”南舞さん(公認心理師/臨床心理士/ヨガ講師)に解説していただくことにしました。題材となるのは、現在公開中の「エイリアン ロムルス」。本記事では“怖い映画”を見たくなってしまう要因だけでなく、同作の見どころや、恐怖を最大限に味わうコツも語っていただきました!

●これって絶対怖いやつ→でも、ついつい見ちゃう これってどういう心理?

 「見たら絶対怖い思いをする」。

 それがわかっていても、なぜかついつい見てしまうサバイバル・スリラーやホラー映画。「エイリアン」シリーズも、まさにそのひとつではないでしょうか。怖いと思いつつ、なぜ人はそれらの映画が見たくなるのか、その心理にはいくつかの要素があると考えられます。

【1、安心安全の場で味わう恐怖】

 カタルシスとはギリシャ語で、「洗浄する」「浄化する」といった意味があります。心理学では、不安、イライラ、悲しみなどのネガティブな感情を解放することで、その苦痛が緩和され、安心感を得られるといった意味で説明されます。また、このカタルシスは安心や安全を感じられる場所だからこそ体験できるという特徴があります。

 カタルシスの概念にのっとって考えると、映画を見てどんなに恐怖にさらされたとしても、その恐怖は現実の世界には持ち込まれません。映画館という場所に限定して恐怖や不安を感じることがストレス発散となり、また日常に戻ることができるからこそ、スリルや恐怖を体感できる映画にハマる人が多いのだと思います。

【2、アドレナリンの影響によるもの】

 怖い映画を見ることで、アドレナリンが分泌され、見ている側はとても興奮します。恐怖によって引き起こされる興奮は、映画が見終わった後にもしばらく続くため、それがポジティブな感情となりやすいです。本来はネガティブな感情である恐怖も、アドレナリンの効果によってポジティブな感覚にすり替えられるからこそ、スリルを体感できるような映画を見たくなるのだと思います。

【3、自己効力感を得られる】

 自己効力感とは、目標を達成するための能力を自らが持っていると認識すること、「自分ならできる」「きっとうまくいく」と思える状態のことです。映画を見終わった後に「怖かったけれど、なんとか乗り越えられた」という感覚を持つことってありますよね。その感覚こそがまさに自己効力感であり、映画の中で恐怖を感じても最後まで乗り切ることで得られる達成感を求めて、人はー映画に恐怖を求めるのかもしれませんね。

●「エイリアン」に恐怖を感じる理由は?

 これまでも宇宙でエイリアンに遭遇する恐怖を描いてきた「エイリアン」シリーズ。フィクションだと分かっていても、得体の知れない存在を目の前にして、様々な感情が湧いてくる人も多いことでしょう。そこで、エイリアンに対して恐怖などを感じる理由についてもお話ししてみたいと思います。

【1、未知なる存在に対しての恐怖】

 未知のものに対しては恐怖という感情が起こりやすいのですが、これは人間が進化の過程で獲得した本能的な反応のひとつです。見慣れない生物や不確かな状況に直面したときに恐怖を感じるのは、生存本能としての機能であり、危険を避けるためです。エイリアンは、その姿形、行動が人間の常識や生物学的理解を超えている、まさに未知の存在。エイリアンの予測不能な行動やこれまでにみたことがないような外見は、わたしたちが日常には起こり得ないことなので、そういった「未知である」ということが恐怖を増幅させるのでしょう。

【2、不確実性による不安】

 心理学で「不確実性」という言葉があります。これは、未知の状況や結果に対する耐性の低さのことです。人は未知の状況に直面した時、不安や恐怖が特に強くなる傾向があります。エイリアンは、不確実性を象徴する存在そのもの。彼らが何を考え、次に何をするのか全く分からないという状況が、見ている人に強い心理的ストレスを与え、不安や恐怖をあおるのです。

【3、密室という空間】

 「エイリアン」シリーズの舞台である宇宙や宇宙船は、外部から完全に隔離された、逃げ場のない閉鎖的な空間です。人は狭く閉鎖された空間に閉じ込められると、自由を制限され、逃げ場がないと理解し、それによって強い恐怖や不安を感じやすくなります。また、密室では環境をコントロールする能力が低下します。このコントロールできない感覚も恐怖を引き起こす一因です。

 そして、人は強い感情にこそ共感、感情移入しやすいため、主人公たちが制限された空間や環境の中でエイリアンと対峙するという状況に、自分を投影しやすくなります。すると、作品を通して、まるで自分が密室に閉じ込められたかのような感覚になり、心理的な圧迫感や強い恐怖、不安の擬似体験が行われるのです。

●「エイリアン ロムルス」“心の専門家”が注目した見どころ

 では、「エイリアン」シリーズの最新作「エイリアン ロムルス」はどのような恐怖を体感できるのしょうか。見どころについてご紹介します。

【1、逃げ場のない空間でさらに恐怖心を煽る】

 最新作の舞台は、宇宙ステーション“ロムルス”。「重力のない宇宙×密室」という逃げ場のない設定が、さらに恐怖心を煽る一作となっています。さらに時間内にロルムスを脱出しないといけないという条件も重なり、ますますコントロールがきかない状態に。恐怖を煽られる状況の中で、主人公たちがどのようにこのピンチを乗り切るのかが見どころです。

【2、人間の不完全さ】

 今回の作品では、人間とアンドロイドのやり取りや、そこで起きる相いれなさも見どころです。あくまでデータに基づき、その状況下でどんな行動をとるべきか冷静に判断をするアンドロイド。その判断はドライな感じを超え、残酷に思える時も。

 一方で人間は、頭では正解がわかっていても、感情によって時に正解とは違う行動を取ることがあります。この作品もまさにそうで、家族や友人という大切な存在を救うべく、時には自らを危険に晒して立ち向かう。そんな人間の不完全さにも魅力を感じたのでした。

【3、恐怖を煽る演出の数々】

 「エイリアン」シリーズといえば、実際に起きそうなほどリアルでグロテスクな映像が特徴ですが、そのリアルさは今作品でも健在。また、恐怖を掻き立てる音楽や効果音、そして音楽やセリフが一瞬止まり、その後エイリアンが襲撃してくるというメリハリのある演出も、作品に夢中にさせてくれます。

 そして、やっとの思いで宇宙船を脱出し、安堵したと思ったのに、まさかの……! この続きはぜひ映画館で見ていただきたいのですが、恐怖をあおる工夫が至る所にちりばめられており、最初から最後まで目が離せない作品となっています。

●「エイリアン ロムルス」をもっともっと怖くする方法 “恐怖”を最大限に味わうコツを教えます

 「エイリアン ロムルス」の恐怖を最大限に味わうために、劇場に行く前の心構え、気落ちの整え方などについてもご紹介します。

【1、心身のコンディションを整えておく】

 恐怖を味わうためには、自分自身が安心や安全を感じられていることが必要です。そのために、例えば、空腹の状態で行かない、前の日はしっかり睡眠をとっておくなど、心身が健康な状態でいられるようコンディションを整えておくことをおすすめします。

【2、1人で見る】

 心理学的に、孤独な状況は不安感や恐怖感を強める傾向があります。もし恐怖をより強く体験したいと思っているのであれば、誰かと一緒に観に行くのではなく、1人で見に行くことがおすすめです。

【3、刺激を最小限にする】

 恐怖体験に没入するために、スマートフォンや電子機器の電源は切っておく、次の予定は余裕を持った時間に設定するなど、外部からの刺激が最小限になるようにしましょう。

【4、恐怖への心の準備をする】

 「怖いジャンル映画は苦手だけど、どうしても見たい!」という方もいると思います。映画を見る前に「これは怖い映画だ」と自分に言い聞かせ、心構えを持つことで、感情的なショックを和らげたり、必要以上に恐怖を感じずに済むかも知れません。また、予告編を事前に何度か見ておく、作品が終わる時間を調べておいて先の見通しを持っておく、「この映画は自分が選んで見に来ている」という主体感を持っておくことも心の準備になります。

【5、五感で味わう習慣を身につける】

 「エイリアン ロムルス」は、私たちの五感を刺激する要素がたくさんあります。映画という性質上、視覚と聴覚が優位になりやすいですが、過去の記憶などから、それ以外の各感覚も少なからず働いています。それぞれの感覚が統合されることで、より恐怖体験を味わうことができます。ぜひ普段から、五感で味わうことを意識した上で、映画館に足を運んで見てください。

 ここまで「エイリアン ロムルス」の魅力や楽しむコツを心理学的にお話ししました。長きにわたって多くのファンを魅了する「エイリアン」シリーズの最新作、今回も、いやこれまで以上の恐怖を体験することになるかも。ぜひ劇場で体感してみてください。

【執筆者プロフィール】
南舞(みなみ・まい)
公認心理師/臨床心理士/ヨガ講師

多感な中学生の時に心理カウンセラーを志す。大学、大学院でカウンセリングを学び、2015年に「臨床心理士」を、2018年には国家資格「公認心理師」を取得。これまでには学校や企業、子育て支援など様々な場所でカウンセラーとして活動してきた。

心理士と並行して、2016年からはヨガ講師としても活動。ヨガとの出会いは学生時代。カラダが自由になっていく感覚への心地よさ、ジャッジしない、周りと比べず自分と向き合っていくヨガの姿勢に、カウンセリングの考え方と近いものを感じ、ヨガの道へ。2020年より、ライフイベントに揺れやすい20-40代の働く女性のメンタルヘルスをサポートするためのヨガ×カウンセリングのサロンを主宰。ウェルビーイングを高めたり、もともとその人の中に備わっている強みを引き出していくお手伝いをモットーとして日々活動中。

HP:https://www.mai-minami.com/
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