映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
今週末9月13日(金)から三谷幸喜監督作の「スオミの話をしよう」が公開されました。
かつては「日本ではコメディ映画はヒットしない」というのが定説でしたが、そんな常識を打ち破ったのが、まさに三谷幸喜監督作品でした。
2006年の年明けに公開された「THE 有頂天ホテル」が興行収入60.8億円と“60億円超え”の大ヒットを記録したのです!
この実績によって映画業界では三谷幸喜監督作品の評価が大幅にアップしました。
その結果、制作費も上がり、次の作品「ザ・マジックアワー」(2008年)では豪華なセットが作られたりしています。
「スオミの話をしよう」でも、大きな舞台となる大富豪の家が精巧なセットとして作られているのです。
加えて、三谷幸喜監督作品の大きな特徴に「長回しのシーン」が多い、というのがあります。
この「長回しのシーン」は、文字通り「カメラを長めに回す場面」のため、最後にミスをすると「最初から、すべて撮り直し」といった事態が起こります。
つまり、長ければ長いほど、入念なリハーサルをこなす必要性が増すのです。
ただ、この長回しによって映像が途切れないようになると、時間軸がハッキリするなど、一切ごまかしのきかない緊張感が生まれます。
三谷幸喜監督は「すべてのシーンを1カットで撮りたい」といった理想があるのです。
この「すべてのシーンを1カットで撮る」というのは壮大な実験的な構想で、有名なのは第87回アカデミー賞で作品賞に輝いた「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2015年)でしょう。
鬼才アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督によって、まるで「すべてのシーンを1カットで撮っている」かの如く見えるように作られ、作品自体も面白い画期的な内容でした。
アカデミー賞では、「作品賞」に加えて、「監督賞」「脚本賞」「撮影賞」を受賞したのは「当然」と思えるほどでした。
ちなみに、三谷幸喜監督はテレビドラマで、この「すべてのシーンを1カットで撮る」を実現させています。WOWOWの特別番組として、「short cut」「大空港2013」の2作品を作っています。
「スオミの話をしよう」は映画監督作品として9作品目になりますが、ここにきて「長回しのシーン」を多用できる「ワンシチュエーション」のような「セリフ劇」にしています。
具体的には、「大富豪のスタイリッシュなリビングにおけるシーン」が映画の多くを占めるように作られています。
そのため、撮影の約1か月前から、三谷幸喜監督と俳優陣によって入念なリハーサルが行われていたのです。
その結果、「THE 有頂天ホテル」以降とは少し違った「舞台」のテイストが色濃く出る作品になっています。
さて、本作は、“5年ぶり待望の最新作にして最高傑作!”といったキャッチコピーで紹介されています。
そして、前作「記憶にございません!」(2019年)の紹介でも「最高傑作」というワードが使われていました。
これは、「三谷幸喜監督作品は毎回進化し続けて最高傑作を更新し続ける」といった意味合いもあるのかもしれません。
個人的には、前作「記憶にございません!」については十分に面白かったので、「確かに最高傑作かもしれない」と素直に受け入れることができました。
ただ、珍しく「スオミの話をしよう」については、面白くはあったのですが「最高傑作なのかな?」と疑問を持ちました。
これは、私が普段、舞台を見に行くといった習慣がないのも関係しているのかもしれません。
舞台が日常的な感覚としてあれば、本作の評価は高まるようにも感じるからです。
つまり、本作は、これまでの三谷幸喜監督作品の中では「舞台」的なテイストの強い作品なので、どのように感じる人が多いのか興味深いのです。
制作費は「ラストマイル」と同額の5億円だと想定されるので、映画館の興行収入だけで回収できるようにするには興行収入21億円が必要となります。(宣伝広告費のP&A費を3億円、最大手の東宝の配給手数料を30%として計算)
これは、これまでの三谷幸喜監督作品では十分にクリアできる壁ですが、どこまで行けるのか読み切れない面があります。
ちなみに、これまでの三谷幸喜監督作品の興行収入ランキングは、次のようになっています。
1位 「THE 有頂天ホテル」(3作品目)興行収入60.8億円
2位 「ステキな金縛り」(5作品目)興行収入 42.8億円
3位 「ザ・マジックアワー」(4作品目)興行収入39.2億円
4位 「記憶にございません!」(8作品目)興行収入 36.4億円
このように見ると、やはり三谷幸喜監督作品で大ヒットが期待できるのは「大きな笑い」が映画館で連発する作品のようで、笑いの大きさと相関関係がありそうな予感がします。
本作は決して面白くない作品とかではなく、あくまで建付けの話で、主演の長澤まさみは言うまでもなく流石の演技ですし、脇を固める俳優陣も豪華で、それぞれが良い味を出しています。
つまり、本作は笑いがありながらも、タイトルのように「スオミとは一体?」というミステリー要素の強い作品なのです。
たとえるなら、興行収入ランキング5位の「清須会議」(6作目)のような作品、と言っても良いのかもしれません。
「清須会議」にも笑いはありましたが、メインが歴史要素の強い作品だったので、興行収入は29.6億円と、30億円台には乗せられずに終わりました。
何にせよ、興行収入20億円台には乗せておきたい作品なので、「舞台」的な作品はどこまで行けるのか大いに注目したいと思います!