江戸時代の武士が現代の撮影所にタイムスリップし、時代劇の“斬られ役”として生きていく姿を描いたコメディ「侍タイムスリッパー」の全国拡大公開記念舞台挨拶が9月14日、東京・新宿ピカデリーで行われ、山口馬木也、冨家ノリマサ、沙倉ゆうの、庄野﨑謙、井上肇、安藤彰則、安田淳一監督が来場した。
大ヒット作「カメラを止めるな!」の聖地としても知られる映画館、池袋シネマ・ロサで初日を迎えた本作は、またたく間にSNSで絶賛クチコミの輪が広がり、満席になる回も続出。8月30日からは川崎チネチッタも上映館に加わり、ここまでは2館のみで上映されてきたが、そこに急きょギャガが配給に加わり、全国拡大公開が決定。9月13日からは新宿ピカデリー、TOHOシネマズ 日比谷などの松竹系・東宝系をはじめとした62館(池袋シネマ・ロサ、川崎チネチッタを含む)での順次公開がスタート。今後100館以上での拡大公開が予定されている。また本作は海外でも注目を集めており、カナダ・モントリオールで行われた「第28回ファンタジア国際映画祭」では観客賞金賞を受賞している。
拡大公開を記念して行われた、この日の舞台挨拶。司会者から「満席の舞台挨拶です!」と呼びかけられると、その“満席”という言葉をかみ締めるように深くうなずく山口。ヒロイン・優子役の沙倉も「本当に今日、ここから見る景色が……感無量です」と語るや、その瞳にはうっすらと涙が。山口も「ゆうのさんは、よく舞台挨拶で泣くんです。それにつられて僕たちもいつも泣くんです。だから今日は、涙を隠すためにメガネをしてきたかったんですが、駄目ですと言われてしまいました。ただ毎回、たくさんのお客さまの顔を見ていると、本当にこの映画を愛してくださっているんだなという気持ちになります。そうすると自然に涙腺がゆるんでくるんです。本当に皆さんのおかげで1館から全国に飛び出すことができました」と感慨深い様子を見せた。
冨家が「撮影中は、果たしてこの作品が世に出るのだろうかと思っていた」と振り返る通り、当初は上映館さえも決まっていなかった本作が、観客の支持を集め全国公開へと至った。そんなめまぐるしい状況に山口も「あまりにも早い速度で進んでいるので、一同、困惑していますが、皆さまがこの作品を愛して、いいよと言ってくださっているので。その言葉を糧にして。全国でも大丈夫だと信じています。本当に皆さまに感謝、感謝です。この先どうなるか分からないですが、この先も見届けてくださったら」としみじみと語った。登壇時から涙をこらえたような表情の安田監督も「僕はここにいること自体もうれしいんですけど、客席を見渡すと、他の劇場でも来て応援してくださった方がいらっしゃって。それがうれしくなってしまって……」と語ると、「これ以上しゃべると……最近、年のせいか、涙腺が緩くなっていまして」と笑いながら付け加えた。
そんな本作だが、「皆さんご存知かどうか分かりませんが、この作品は今年の4月に追加撮影を行っているんです。だから本当に完成したのは今年の6月くらいなんです」と明かした安田監督。冨家も「監督の作品は(着工から140年以上も建設が続いているスペイン・バルセロナの)サグラダファミリアと呼ばれていて。前作の『ごはん』も追撮で7年かかっているそうで。マッキー(山口)のTwitter(現 X)を見たら、追撮に行ってきたと書いてあって。『ええ? 終わったのに?』と驚きました」と笑うと、山口も「1日だけ。どうしても監督がつながらないシーンがあるとおっしゃったので」と追撮について言及。そのシーンについて安田監督が「新左衛門のとあるシーンで、どうしても会津時代の新左衛門を入れておきたかった。ただ東映の京都撮影所の人からは『まだやってるの?』とあきれられてしまいいましたが」と振り返ると、会場は大笑い。山口も「京都の人からも『災難やな』と言われました」と笑いながら付け加えた。
ヒロインである沙倉が、実際の現場でも助監督を務めるなど、わずか10人足らずのスタッフだけでなく、キャストも一丸となって作ったという本作。「少人数だからこそ良かった。なんだか学園祭のようだった」と冨家が振り返るなど、皆が口々に「撮影は楽しくて仕方がなかった」と楽しそうに述懐。そんな中、冨家が「僕はこの脚本の中でいちばん好きだったセリフがあって。それは井上さんのセリフなんですが、ここでもう一回あのセリフを聞きたいです」と撮影所の所長役の井上にリクエストをするひと幕も。それを受けて「一生懸命がんばっていれば、どこかで誰かが見てくれる……ホンマやなぁ」と劇中のセリフを披露した井上。どこか自身の境遇にもつながってくるようなこのセリフをしみじみと聞き入っていた安田監督に、会場からは大きな拍手が送られた。