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【「シュリ」評論】歴史を塗り替えた韓流映画の原点、四半世紀の時を経て4K版で甦る

映画.com 2024年9月15日 14時0分

 1999年2月に韓国で公開され、前98年度の首位となったジェームズ・キャメロン監督「タイタニック」(430万人)を超え、当時の歴代記録を塗り替えたスパイ・アクション「シュリ」。その衝撃は凄まじく、IMFによる経済改革が進む同国(この経緯は映画「国家が破産する日」に詳しい)において、シネコンの建設ラッシュにも後押しされ、620万人(推定)を動員。韓国映画史は「シュリ」の前と後で劇的に変貌したと言われる。

 その波は日本にも到来。韓国での大ヒットが全国紙で記事化されると、水面下で配給権の争奪戦が過熱。獲得したシネカノンは99年11月の東京国際映画祭に出品、カン・ジェギュ監督、ハン・ソッキュ、キム・ユンジンが来日登壇した上映回は前売券が完売。わずかな当日券を求める映画ファンが渋谷公会堂を取り囲む騒ぎとなった。

 劇場公開は翌2000年1月に予定されていたが、その前の正月作品の成績不振から、1週限定だが丸の内ルーブル、渋谷パンテオン、新宿ミラノという日本最大の洋画チェーンでの格上げ興行が決定する。シネカノンは「シュリ」を歴代1位の韓国映画というよりも、ハリウッド級の大作ドラマに位置付け、中野裕之監督が編集した予告編は悲恋とアクションを前面にセリフを全て排除、ポスターやチラシもハングルの表記を抑えたものが採用された。

 公開直前には映画評論家おすぎの「私に騙されなさい! 見るべし!」の決め台詞が話題を呼んだCMも流され、蓋を開ければ初登場第1位、首都圏中心に集客し8週連続でトップ10圏内をキープ。最終的には動員130万人、興収18.5億円を稼ぎ出し、年間興行の20位に入るヒットとなった。もちろん日本における韓国映画のダントツ首位に躍り出て、これは04年「僕の彼女を紹介します」の公開まで破られなかった。

 監督が製作発表会見で「ハリウッドに匹敵するアクション映画にしたい」と宣言しただけあり、出演俳優たちには銃器の扱い、格闘技などのトレーニングが入念に施された。主演コンビに加え若き日のチェ・ミンシク、ソン・ガンホが見られるのも嬉しい。さらに、今や名匠のホ・ジノ、イ・チャンドンも現場に参加していたという。製作したサムソン財閥の映像事業団は本作を最後にリストラ閉鎖されたが、爪痕を残したそのDNAは韓国エンタメ業界に今も確実に継承されている。

 南北問題を描きつつ、泣けるメロドラマに昇華させた力業は、その後も「JSA」「ブラザーフッド」、そして「愛の不時着」にも連なる、韓国作品の持ち味となった。権利問題から長らく再映が実現しなかった本作、監督自ら修復させた4K版だけに、全ての韓流ファンは一度はスクリーンで鑑賞しておいていいだろう。
(本稿を書くにあたり下川正晴著「ポン・ジュノ韓国映画の怪物」を参考にしました)

(本田敬)

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