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ライムスター宇多丸らが「憐れみの3章」の見どころを語り尽くす ランティモス監督は「意地悪な映画撮る人だけど、まじめな人」

映画.com 2024年9月25日 13時0分

 映画「憐れみの3章」のトークショー付き特別試写会が9月22日に109シネマズプレミアム新宿で開催され、ライムスター宇多丸、フリーアナウンサーの宇垣美里、ライター・編集者の小柳帝氏が出席した。

 「哀れなるものたち」のヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンがタッグを組んだ本作は、愛と支配をめぐる3つの物語で構成したアンソロジーとなり、3つの奇想天外な物語を不穏さを漂わせながらもユーモラスに描き出す。ストーンをはじめ、ウィレム・デフォー、マーガレット・クアリーが再集結し、ジェシー・プレモンス、ホン・チャウ、ジョー・アルウィン、ママドゥ・アティエ、ハンター・シェイファーといった実力者が顔を揃えた。「籠の中の乙女」「ロブスター」「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」のエフティミス・フィリップが、ランティモス監督とともに共同脚本を手掛けた。

 宇多丸がパーソナリティを務めるTBSラジオ番組「アフター6ジャンクション2」とのコラボレーションで実施された本試写会では、ランティモス監督こだわりの35ミリフィルムを日本最速上映。一足早く鑑賞した観客からは「ランティモス文法炸裂で最高!!」「3章がつながる瞬間にゾクゾクした!」「これは誰かと観て語り合いたい!」など絶賛の声があがった。

 宇多丸は、ランティモス監督がエフティミス・フィリップと久しぶりにタッグを組んだことに触れ、「(ランティモス監督の作品を)続けて観てこられた方はわかると思うのですが、前2作(『女王陛下のお気に入り』『哀れなるものたち』)はめちゃくちゃわかりやすくなってたんですよね。エンタメ性も高いし」と前置きし、旧来のランティモス監督の再来を確信したと話す。

 一方、小柳は「実は本作で(ランティモス監督たちは)10話分を作っていた」という裏話を挟みつつ、「その中の3つをキャッチーに並べています」と構成を説明。宇多丸はメインソングに使用されているユーリズミックスの「スウィート・ドリームス」に注目し、「僕はこれが親切設計だと思っていて、歌詞の意味を考えると、特に第1章と組み合わせると、全体の話が見えてくる。僕なりの表現で言うと支配と依存の話でしょう?」と考察。続けて、「要所要所で読み解けるヒントを出してくれていますよね」と本作を観るうえでのヒントを独自視点で展開した。

 第1章は、「自分の人生を取り戻そうと格闘する、選択肢を奪われた男」を描いた物語。宇多丸は「身につまされる人も多いのでは」と共感を示し、「人からお金をもらって仕事をしている人、だいたいこういうことだよねって。いくら(僕が)番組で威勢のいいこと言って、『私はできません』って言っても『あっそう、わかりました。じゃ、お疲れ様』ってなるんですよ」とままならない状況になることを例にあげ、「『本当にすみません。もちろんどんどんやります!』みたいになるなって。そんな世知辛さを感じたんですよね」と他人事ではない、人間のありようが描かれていることを熱弁した。

 第2章「海で失踪し帰還するも別人のようになった妻を恐れる警官」は、解釈の幅が広いと指摘。宇垣もある登場人物について「どっちが偽物なの?」と困惑したことを明かし、宇多丸は観る者を惑わせる構成に「自分がこうだと思っているアイデンティティや社会的な立ち位置を取られてしまうと、何者でもなくなってしまう」とランティモス作品にみられるテーマ性を見出した。小柳は作中に出てくる“犬が支配する島”に注目。サーチライト作品「犬ヶ島」(18)を連想したと話すと、宇垣は「ランティモス監督は“恋愛関係をエゴだよね”って思っていると、(ランティモス監督作品の)『ロブスター』を思い出しながら感じました」とそれぞれ感想を語りあった。

 第3章「卓越した宗教指導者になるべく運命付けられた特別な人物を懸命に探す女」については、ストーリーのリアリティに言及。新時代のアイコンであるハンター・シェイファーの贅沢な使い方に驚きながらも、小柳はカルト集団を軸に展開するストーリーについて「宗教の外の世界に行ってもどこにいっても地獄」という描かれ方に注目し、ランティモス監督の容赦ない世界の捉え方が投影されていると考察した。

 そのほか、第1章目でプレモンスが着せられている服や、あえて外すことを狙った選曲、クレジットの出し方、ストーンが第3章で見せるあり得ないドリフト駐車など、ランティモス監督らしいユーモアにも触れ、鑑賞後の熱量のまま思い思いに語りつくした。

 イベント終盤、宇多丸は「こんな構造の非人間的なものを含む搾取的な構造の中にいるとして、あなたもさらに弱いものを叩くというところに加担していませんか?と語り掛けるところが、一番突き付けてくるところなんです。基本的にこんな意地悪な映画撮る人だけど、やっぱりまじめな人だなって思いますよね。意外と真っ直ぐな人なんじゃないの?」とランティモス監督にラブコール。

 そして、「解釈が開かれている作品で間違いない。体感で言うと2度目がより楽しい。ちょっとした表情でも笑えてくるし、あと画角ね。なんでここから撮るの!?ってね」と本作の魅力を改めて語った。

 「憐れみの3章」は9月27日全国公開。109シネマズプレミアム新宿では、同日より日本で唯一35ミリフィルムでの上映を実施する。

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