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【何がすごい?】“異才”ヨルゴス・ランティモス監督、「女王陛下のお気に入り」「哀れなるものたち」など代表作5選

映画.com 2024年9月26日 11時30分

 第96回アカデミー賞で4冠に輝いた「哀れなるものたち」で知られるヨルゴス・ランティモス監督の最新作「憐れみの3章」が、9月27日から公開される。その独創的な作風が高く評価され、作品を世に送り出すたびに、世界を代表する国際映画祭で次々と賞を獲得。“異才”という言葉がふさわしい存在として、近年、映画ファンの熱い支持を集めている。

 一方、作家性が強い分、ハードルの高さを感じ敬遠している人もいるのではーー。そもそも、ヨルゴス・ランティモスって何がすごいの? そこでこの記事では、ランティモス監督の代表作を5本チョイスし、各作品の見どころをご紹介。一度体験すれば、クセになるランティモス作品に触れるきっかけになれば幸いだ。

●「籠の中の乙女」(2009)

 第62回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でグランプリを受賞し、第83回アカデミー賞では、ギリシャ映画として史上5本目となる外国語映画賞(現在の国際長編映画賞)にノミネートされたサスペンスドラマ。ランティモス監督の名を世に知らしめた長編第2作だ。

 ギリシャの郊外にある裕福な家庭。そこには、「家族の絆を誰にも壊されたくない」という妄執にとりつかれた両親と、厳格で奇妙なルールの下、外部の世界から断絶され、名前さえ付けられることなく、純粋培養された従順な子どもたちが暮らしていた。そんなある日、性に目覚め始めた長男のために、父親が外の世界からクリスティーヌという女性を連れてきたことから、家庭のなかに思わぬ波紋が広がっていく。

すでにアーティスティックな映像演出の才能が開花しており、独自の緊張感を保ちながら、極限まで追い込まれる人間の怖さや脆さ、滑稽さを鮮やかに浮き彫りにするストーリーテリングの手腕も光る。あえて説明的な描写を排し、謎を謎のまま、観客に考察の余地を与える語り口も、映画ファンの嗜好を刺激する要因。「哀れなるものたち」の原作者で、2019年に亡くなったアラスター・グレイも、本作をいたく気に入っていたと伝えられている。

●「ロブスター」(15)

 近未来、独身者は身柄を確保され、矯正施設であるホテルに送り込まれると、そこでパートナーの存在がいかに有益であるかを教育として刷り込まれる。もしも、45日以内にパートナーを見つけなければ、その人間は動物に変えられて森に放たれるーー。主人公のデビッドは、ホテルの狂気じみた日常から逃れ、独身者たちが集団生活する森で、ある女性と恋に落ちるが、それはコミュニティのルールに反する行為だった。

 ランティモス作品において重要な要素である“ルール”が、本作では、さらに先鋭化している。「なぜ、人々は疑うことなく、奇妙なルールに従っているのか?」「人間が動物に変身する仕組みは?」。そんな観客の疑問を寄せつけず、戸惑いや矛盾、理不尽をコミカルに描きながら、最後はひとりひとりが自分の解釈にたどり着くという不思議な後味も、ランティモス作品特有の大きな魅力だ。

 コリン・ファレルをはじめ、後に「女王陛下のお気に入り」で再タッグを組むレイチェル・ワイズ、オリビア・コールマンら豪華キャストが共演する、ランティモス監督初の英語作品。第68回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、第89回アカデミー賞では脚本賞にノミネートされた。

●「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」(17)

 郊外の豪邸で暮らす心臓外科医スティーブンは、美しい妻やかわいい子どもたちに囲まれ、順風満帆な人生を歩んでいるように見えた。しかし、謎の少年マーティンを自宅に招き入れたことをきっかけに、子どもたちが突然歩けなくなったり、目から血を流したりと、不可解な出来事が続発。実は、スティーブンとマーティンには知られざる関係性があった。聖なる鹿殺しの意味するところは――? スティーブンは極限の選択を迫られる。

 異分子によって崩壊する家族の日常という、「籠の中の乙女」に通じるテーマをアップグレード。少年が仕掛ける復讐劇を軸に、ミヒャエル・ハネケを想起させる不条理さ、スタンリー・キューブリックを継承するカメラワークなど、その作風により磨きがかかったランティモス監督“第一期”の集大成といえるサスペンススリラーだ。本作で第70回カンヌ国際映画祭の脚本賞に輝き、カンヌでの受賞は通算3回を数える。

 コリン・ファレルが「ロブスター」に続いて主演を務め、その妻役にはニコール・キッドマンを起用。マーティンを演じるバリー・コーガン(「ダンケルク」)が放つ不穏なオーラが、作品全体を包み込み、観客を“後味最悪”なクライマックスへと誘っていく。

●「女王陛下のお気に入り」(18)

 18世紀イングランドの王室を舞台に、女王の寵愛を奪い合うふたりの侍女の愛憎劇を紡いだ人間ドラマ。第75回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で審査員グランプリを受賞した。第91回アカデミー賞でも作品賞を含む9部門10ノミネートを果たし、ランティモス監督自身も初めて、監督賞候補となった。3人の女性の視点が、ときに妖しく優雅に、ときに鋭く残酷に物語を磨き、まばゆい煌めきを観客に届けている。歴史劇の既成概念にとらわれず、これまで以上にセンシティブな描写にも挑んだ。

 最大の見せ場は、豪華キャストが火花を散らす絢爛豪華な演技戦だ。絶対的権力を握りながら、過食による痛風に悩まされる孤独なアン女王を演じたオリビア・コールマンは、ベネチアで女優賞、アカデミー賞で主演女優賞に輝いた。

 また、女王の幼なじみで権力を握るレディ・サラ役のレイチェル・ワイズ、貴族に返り咲く機会を狙う新人侍女のアビゲイルを演じたエマ・ストーンが繰り広げる、泣き笑いの壮絶バトルも必見。両名はそろってアカデミー賞の助演女優賞にノミネートされた。ランティモス監督にとっては、その後「哀れなるものたち」「憐れみの3章」へと連なる、ストーンとの蜜月の幕開けとなった。ディズニープラスで配信中(15+)。

●「哀れなるものたち」(23)

 自ら命を絶った不幸な女性ベラは、風変わりな天才外科医によって、自らの胎児の脳を移植され、奇跡的に蘇生する。彼女は「世界を自分の目で見たい」という強い欲望にかられ、大陸横断の旅に出る。

 時代の偏見から解放され、平等や自由を知り、驚くべき成長を遂げていくベラの冒険は、“故郷”ロンドンからリスボンを経て、豪華客船に乗ってアレクサンドリア、パリをめぐり、麗しくも大胆なタペストリーを紡いでいく。巨大かつ壮麗な美術セット、時代や文化を超越した衣装とメイク、映画音楽の概念を打ち崩すサウンドトラックと、ランティモス監督が培った美学が高純度で培養された、現時点での“最高傑作”といえるかもしれない。

 第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で、最高賞の金獅子賞を獲得。第96回アカデミー賞では作品賞、ランティモスが2度目の監督賞候補となったほか、計11部門にノミネート。大人の体を持ちながら、新生児の目線を持つ主人公ベラを奔放に熱演したエマ・ストーンが、「ラ・ラ・ランド」に続き2度目の主演女優賞に輝き、美術賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の4部門を受賞した。ディズニープラスで配信中(18+)。

●最新作は「憐れみの3章」、韓国映画のリメイクやベストセラー小説の映画化企画も

 いまや映画ファンにとって、避けては通れない存在となったランティモス監督の最新作が、エマ・ストーンと3度目のタッグを組む「憐れみの3章」。愛と支配をめぐる3つの物語で構成したアンソロジーで、3つの物語のなかで同じキャストがそれぞれ異なる役を演じる、上映時間165分の野心作だ。

 現在は、韓国のSFコメディ映画「地球を守れ!」(チャン・ジュナン監督)のハリウッドリメイク版「Bugonia(原題)」に着手しており、こちらもストーンの主演が決定。「憐れみの3章」で第77回カンヌ国際映画祭の男優賞に輝いたジェシー・プレモンスも出演する予定だ。さらに、ベストセラー作家オテッサ・モシュフェグの小説「My Year of Rest and Relaxation(原題)」を映画化する企画も、プロット開発が始まったと報じられている。魂を揺さぶり、感性を刺激するランティモス監督のさらなる飛躍に期待したい。

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