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映画「十一人の賊軍」撮影現場潜入レポート 新たな集団抗争劇への期待が高まる生々しい舞台装置、白石和彌監督の思い

映画.com 2024年10月5日 12時0分

 「孤狼の血」シリーズのチームが再結集し、山田孝之と仲野太賀が主演する「十一人の賊軍」。本作は「日本侠客伝」シリーズ、「仁義なき戦い」シリーズなどで知られる名脚本家・笠原和夫が、1964年に執筆した幻のプロットを白石和彌監督が映画化するものだ。

 1868年、「鳥羽・伏見の戦い」を皮切りに、15代将軍・徳川慶喜を擁する「旧幕府軍」と、薩摩藩・長州藩を中心とする「新政府軍=官軍」で争われた戊辰戦争。新発田藩で繰り広げられた歴史的事件・奥羽越列藩同盟軍への裏切り=旧幕府軍への裏切りのエピソードをもとに、捕らえられていた罪人たちが決死隊として砦を守る任に就く様を描く。

 山田が、妻を寝取られた怒りから新発田藩士を殺害して罪人となり、砦を守り抜けば無罪放免の条件で決死隊として戦場に駆り出される駕籠かき人足の政(まさ)を演じ、仲野は、新発田の地を守るため罪人たちと共に戦場に赴く剣術道場の道場主・鷲尾兵士郎を演じた。十一人の賊と官軍側で、多くの豪華キャストが出演する。

 本作は2023年8月クランクイン、11月クランクアップ。23年9月に撮影現場に映画.com編集部が潜入した模様、現場での白石監督のコメントをレポートする。

 物語の舞台となるのは新発田藩(現在の新潟県新発田市)。今回、千葉県鋸南町の元採石場跡地にセットを組み、新発田城が有した櫓(やぐら)門をはじめ、当時の藩の建物を再現した。時代考証を経て建てられた、およそ6メートルの物見櫓からは、いつ始まるともわからぬ闘いへの緊張感が伝わってくる。

 セットが組まれたのは険しい起伏があり岩肌も見え隠れするワイルドな土地だ。簡素に見えるが小物一つの配置まで考え抜かれた小屋、堅牢に組まれた石垣、黒光りする大砲、本編で水量はCG処理されているが、リアルそのものに見える蔦の絡んだ吊り橋など、スペクタクル要素を盛り上げる生々しい舞台装置が、スクリーンでどのように活きてくるのか期待が高まる。

 今回のセットについて白石監督はこう語る。「笠原さんのこの企画を60年代の東映京都で撮っていたら、どうやったのだろう。そうずっと考えていました。1年以上かけて全国を回ってロケハンを行い、新潟近辺でセットを組めないか考えたりもしましたが、いろんな条件を考え、僕自身が昔から馴染みのあったここ(鋸南)に決めました」

 「スタッフとともに脚本からデザインを起こしてみると、自分がこれをやりたいと言ったことの大きさに若干震えるような気持ちもあります。それでも、このような素晴らしいセットができました」

 「これらを思いっきりどう壊せるか――跡形も無くすくらい壊して、贅沢に楽しみたいと思っています」と白石監督。既に本編映像の一部が公開されているが、“決死隊”による砦の防衛戦が大きな見どころのひとつだ。この日は砲撃を受けて一番の本丸(砦)が壊れる様もカメラに収められた。

 大砲から轟音が鳴り響き、無数の砲弾が飛んでくる。逃げ惑う人々の行く道を遮るように立ち上る火柱……完成した映像内では息もつかせぬ攻防が繰り広げられる。

 この日、撮影されたのは砦が官軍の砲撃を受け、田中俊介が演じる決死隊のひとり、荒井が負傷する場面、そして、同じく決死隊のひとりで佐久本宝扮するノロが、政とともにピンチを迎え、手製の爆弾を投げ官軍が吹っ飛ぶという壮絶な場面だ。

 残暑厳しい9月下旬、半袖の軽装でも汗ばむほどの気温だったが、役者陣は和装に防具という時代物ならではの衣装を着こんでの演技だ。現場では精悍な顔つきでリハーサルに臨む主演の山田、仲野の姿も確認できた。山田と白石監督は、白石監督の出世作でもある「凶悪」(2013)以来のタッグとなる。

 「『凶悪』を撮った時のスタッフは20人くらい。しかしここ数年、Netflix作品も含めると、80人から100人ものスタッフがいるような現場となり、どこかで自分の映画作りの原点に帰りたいと数年もがいていました。そういう意味でも『凶悪』に出てくれた山田さんは、僕を映画監督にしてくれた人でもあるので、山田さんともう1回やることで、自分の魂を初心に戻して、純粋に映画作りができるんじゃないかと思った」

 「僕の魂の叫びみたいなものを、山田さんだったら受け取ってくれるんじゃないか――そう考えて出演をお願いしました。『凶悪』から10年経って山田さんもプロデューサーをやられたりと、多角的に作品を見られるので、今、とても心強い存在になっています」と白石監督。

 白石監督は「凶悪」を発表した頃から、時代劇製作への強い意欲があったという。今年5月には初の時代劇「碁盤斬り」(草彅剛主演)も発表したが、「工藤栄一監督や黒澤明監督の作品を見てきて、大勢で戦う時代劇に僕にとってのロマンがあった」と長年、集団抗争劇へのあこがれを持ち続けていた。そして、この笠原氏の企画に運命的に出合い、自ら監督することになる。

 「もう緊張感しかないです。東映はもちろん、笠原さんは日本映画の中で特別な存在ですし、そのお名前があるものをやる以上は、日本映画史に残るべく傑作にしないと」と意気込み、そして「笠原さんのお墓参りに行ったり、奥様ともお話をさせていただきました。シナハンで新潟に行ったときには、東映の大プロデューサーだった日下部五朗さんの娘さんにお会いする機会もあって。当時この企画が実現していたら、若き日の日下部さんがかかわっていたかもしれないですし、いろんなご縁を感じています」と自身の使命も感じている。

 そして、笠原氏の未完のプロットに、白石組としてどのような肉付け、改変があったのかを聞いた。

 「脚本の池上純哉さんと一緒に考えながら、基本的には笠原さんのプロットに準じた物語になっています。ただ、この企画について(当時の東映京都撮影所所長)岡田茂さんが言ったという「全員死ぬような辛気臭いものはやめろ」という言葉に共感するところがありました。誰かに生き残ってほしくて、そこは元のプロットから大分改変しているところです。今の時代に作る時代劇として、侍の時代の終わり、時代が変わるときに、誰が生き残って未来を見ていくのか――というメッセージを込めました」

 「戊辰戦争のさなか、奥羽列藩同盟の新発田藩が裏切り者として語られます。一般的に日本の戦争の物語は、(内戦である)戊辰戦争でも白虎隊が国のために死ぬ悲劇になりますが、裏切り者と言われる側の事情を描くことで、どちらにも悪はなく、どちらにも正義がある、それを描けると思いました。砦を守った奴らは罪人だから、あとは殺してもいい――そういうロジックや物語の強さに訴えるものがあり、それは笠原さんだからこそ出てきた考えです。そこさえ守れば細かい変更は問題ないと、笠原さんのプロットの強さを信じました」

 そんな白石監督の思いも込められた、新たな集団抗争劇(1人のスターに頼らない集団劇)として、主演の山田と仲野のほか、尾上右近、鞘師里保、玉木宏、阿部サダヲら豪華キャストが顔を揃える。

 「これまで群像劇は撮っているつもりでしたが、毎シーン10人以上出るようなことはなかったので、人の力ってすごいんだなと感じています。いつもはシネスコの中に2人か1人、何か決めゼリフを言うときに、単独のショットを撮ることが多いですが、今回はグループショット。集団の中で誰かが強いことを言っても、その強さは、(カメラが)寄っているから強い、引いているから弱いということではない、そういうことも発見しました」

 「今まで経験したことがないことなので、その分大変です。ただ何か噛み合った瞬間の強さみたいなものが他の映画とは違う感じがあって、冒険しているような気分。もちろんプレッシャーはありますが、そのプレッシャーは今に始まったことじゃないですし、これだけ優秀なスタッフやキャストがこれだけ集まっているので、もうやり切るしかありません」と白石監督は撮影を振り返った。

 “勝つことだけが正義なのか?”と藩のために命をかけて砦を守る罪人たちの葛藤、そして権力へのアンチテーゼを、白石監督と豪華キャスト、名スタッフがすさまじい熱量で、今、映像化する意義とその迫力を是非大スクリーンで体感してほしい。映画は11月1日全国で公開。

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