今年20周年を迎えたスイスのチューリッヒ映画祭で、ケイト・ウィンスレットが本映画祭のランドマークであるゴールデン・アイコン賞を授与されるとともに、20世紀を代表する女性写真家のひとり、エリザベス(通称リー)・ミラーに扮した話題の新作「LEE」が披露された。
ゴールデン・アイコン賞は類稀な才能で映画史に軌跡を残した俳優に捧げられるもので、過去にはリチャード・ギア、ケイト・ブランシェット、シャロン・ストーン、ジェシカ・チャスティンらが授与されている。
授賞式に登壇したウィンスレットは、チューリッヒに到着するなり15度の気温のなか湖で20分泳いだことを告白。「泳ぎながらなんて美しい街なのかと感激しました。そしてみなさんにこれほど歓迎され、こんな賞を頂けることをとても光栄に思います」と挨拶。続けて「ここでトリビュートの映像を観ながら、こんなに長い間この仕事を続けていたのか、こんなにたくさんの役を演じてきたのかと、我ながら驚きました(笑)。でもみなさんがどうか飽きないことを願っています。わたしはこの仕事を愛していて、演じることが大好きで、映画作りが大好きだからです。(中略)このような機会にインディペンデント映画として作られた『LEE』をお見せできるのをとても嬉しく思います。わたしたちは写真家リー・ミラーの語られることのなかった顔、年齢を経てから女性フォトグラファーとして前線に赴き、戦争の被害者たちの姿を収めたパワフルな女性の姿を描きました。この役にはかつてなかったほどにインスパイアされました」と語り大きな拍手に包まれた。
ウィンスレットはさらにマスタークラスも開催し、自身がプロデューサーも兼ね、ほぼ9年の歳月を費やした本作の制作プロセスと個人的な思いを語った。
「発端はまったく偶然で、知人と休暇を過ごしたときに、ここはリーが訪れたことのある家で、彼女もこのテーブルでご飯を食べた、と教えられたこと。それから彼女のことに興味を持ち調べ始めるとともに、そういえばリーの話はまだ映画になっていないと気づいたんです。その後、息子さんのアントニー・ペンローズさん(映画のベースになった『リー・ミラー 自分を愛したヴィーナス』の著者)に会い、書庫にしまわれた作品群を見せてもらったり、長年交友を深めるなかで映画化が決定的になりました」
その美貌でマン・レイのミューズとして知られ、その後ファッション写真家に転身、第2次世界大戦を機に報道写真の分野で活躍したリーだが、「報道写真家の時代は彼女が決定的に変化したとき。彼女の写真は戦争のヒーローを撮るのではなく、カーテンの向こうに隠れた被害者たちを映し出した。それがとてもユニークだし、女性の視点を感じます。これは戦争についての映画ではない。多くの人が共感できる、女性についての映画です」とコメントした。
映画はクラシックな伝記映画の体裁をそなえながら、ウィンスレットの幅広い演技力に裏打ちされたパフォーマンスに圧倒される。「彼女のキャリア最高の演技」という評価もあり、アカデミー賞へのノミネートはほぼ確実と言えそうだ。(佐藤久理子)