世界的な社会現象となった衝撃作「ジョーカー」(2019)の続編、「ジョーカー フォリ・ア・ドゥ」(ホアキン・フェニックス主演、トッド・フィリップス監督)が10月11日から日本公開される。
ジョーカーの狂乱が世界中に伝播する本作で、人気俳優の山田裕貴が日本語吹き替え版キャストとして参加。ジョーカーを「本当に好き」と語り、2020年にはジョーカーメイクが話題となった山田が、主人公を追い詰めるハービー検事の声を担当した。
「ジョーカー フォリ・ア・ドゥ」に参加する喜びとプレッシャー、声の演技で大切にすること、俳優として「本物の音」を覚えておく重要性、「わからなさ」を抱いたアフレコ、そしてアカデミー賞俳優ホアキン・フェニックスのすさまじさなど、山田が多岐にわたりアツく語ったインタビューをお届けする。(取材・文/映画.com尾崎秋彦、写真/間庭裕基)
【「ジョーカー フォリ・ア・ドゥ」作品概要】
「バットマン」に悪役として登場するジョーカーの誕生秘話を描き、第76回ベネチア国際映画祭で金獅子賞、第92回アカデミー賞で主演男優賞を受賞するなど高い評価を得たサスペンスエンターテインメント「ジョーカー」の続編。トッド・フィリップス監督と主演のホアキン・フェニックスが再タッグを組み、ジョーカーが出会う謎の女リー役でレディー・ガガが新たに参加した。
理不尽な世の中で社会への反逆者、民衆の代弁者として祭り上げられたジョーカー。そんな彼の前にリーという謎めいた女性が現れる。ジョーカーの狂気はリーへ、そして群衆へと伝播し、拡散していく。孤独で心優しかった男が悪のカリスマとなって暴走し、世界を巻き込む新たな事件が起こる。
【山田裕貴プロフィール】
2011年に「海賊戦隊ゴーカイジャー」ゴーカイブルー/ジョー・ギブケン役で俳優デビュー。主な出演に「東京リベンジャーズ」ドラケン役、「HiGH&LOW」村山良樹役、「キングダム」万極役、「ゴジラ-1.0」水島四郎役など。「BLUE GIANT」「ONE PIECE FILM RED」「Ultraman: Rising」では声の演技で人気を博し、「ジョーカー フォリ・ア・ドゥ」で実写洋画吹替に初挑戦となる。
●「好きなものほど、演じることから遠ざかりたいタイプ」 参加が決まった心境は、喜びよりもプレッシャーが勝つ
――まずは「ジョーカー フォリ・ア・ドゥ」へのご参加、おめでとうございます。
山田裕貴:ありがとうございます!
――ジョーカーファンである山田さんが、本作ではハービー検事の声を担当しますが、ご本人にとっても嬉しい挑戦かと思います。参加が決まった瞬間がどういうシチュエーションだったのか、そしてどのように感じたのかを教えて下さい。
山田:車の中で、マネージャーさんから「『ジョーカー』で声やります」って聞いて。「え、ちょ、ジョーカー役?」ってなって。いやいや、前作から平田広明さんがいるでしょ、と思って「え、誰役?」と聞いたら、マネージャーさんもまだ分からないですという(笑)。明かされていない情報が多すぎて、どの役かもまだ知らされてなかったんですよね。
ただ、「やったー!」という気持ちだけではなかったんですよ。もちろん嬉しいですし、すごいとも思いましたが、あまりにも「ジョーカー」が好きすぎて……プレッシャーが大きかったです。
お客さんとして「好き」であることと、作品に入って演じさせてもらうのってまた違うじゃないですか。純粋に「好き」だけではいられない。僕は好きなものほど、演じることから少し距離を取りたいタイプです。それだけ「ジョーカー」という作品は僕のなかで大切な作品なので、「イエーイ! やったー!」という気持ちだけでやれるわけではなかったですね。
――山田さんの真摯な心意気が伝わってくるエピソードです。今回、実写洋画の吹き替えは初挑戦ですね。これまでのアニメでの声優や、特撮の吹き替えなどと異なる、実写洋画吹き替えならではの意識したポイントはありますか?
山田:そのお芝居をされている俳優さんの声への、リスペクトありきでした。お芝居の雰囲気ありきの吹替だと思っているので、(その俳優さんの)トーンや音の高さも含めて“寄せたい”んですよ。でも、その寄せるニュアンスで、俳優さんのトーンをリアルにお芝居すると、(声だけでは)ニュアンスが足りなかったり、ボリュームが足りなかったりするんです。
これは僕の印象ですが、吹替のお芝居って意識的に(本編の俳優の演技より)大きく表現することが多いと思っていて。そのスタンダードに合わせてみるのか、それとも俳優として撮影現場に近いリアルな方向性でやらせてもらうのか、そこで悩みました。
――ほかの声優さんの芝居を参考にしたりなどは?
山田:それはもう、もちろん参考にしました。アニメーションが大好きだから、もう大好きな声優さんばっかりで。
例えば平田広明さん(「ジョーカー」のジョーカー役や、「ONE PIECE」ではサンジ役、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズではジャック・スパロウ役など)は、それこそ「海賊戦隊ゴーカイジャー」で僕らの大事なロボの声を担当してくださっていて、13年前に初めてお会いした時サインをいただきました。その後、僕が舞台をやっていた時、たまたま隣の劇場にいらっしゃって、偶然鉢合わせたり、一昨年の「ONE PIECE FILM RED」で久々にお会いしたり……。
ほかにも木村昴くん(「ドラえもん」ジャイアン役、「キングスマン」エグジー役、「THE FIRST SLAM DUNK」桜木花道役など)は友だちで、よく家にきますし、声優さんの話もよく聞きます。その他には、声優さんのアフレコする時のメイキングも観て、どういう風に収録しているかも参考にしていました。
ただ、僕は声優さんたちのようにずっとやってきたわけではないので、あくまでも皆さんの真似事になります。だからこそ、その少ない自分の技術のなかで、皆さんを参考にしてただやるのではなく、違った雰囲気を持たせるためにも、俳優としてその現場の音になるべく近く、リアルな声の出し方を目指した方がいいと思ったんです。その結果、現場で色々と試行錯誤させてもらいました。
●山田裕貴の“声の演技”魅力に迫る 源泉は「海賊戦隊ゴーカイジャー」のアフレコと、「本物の音」を覚えておくこと
――実写はもちろん、「Ultraman: Rising」や「BLUE GIANT」などの声優としての山田さんもすごく良い、というファンは非常に多いですし、私もその1人です。特に「Ultraman: Rising」がめちゃくちゃ刺さって、何から何までもうボロボロ泣きながら観ました……。
山田:ありがとうございます、嬉しいです。
――業界からは「山田裕貴は声優としてもうますぎる」という声も聞こえますし、木村昴さんが以前、山田さんに「これ以上上手くなるな」「俺らの仕事なくなるから」と話していたとお聞きしました。ご本人にこう質問するのもどうかと思いますが、「なぜ、山田さんは声優としてもうまいのか?」をぜひ聞いてみたいです。
山田:先ほどお話ししたボリュームのバランスなど、そういったところをデビュー1年目で学べたことが大きかったのかもしれないです。「海賊戦隊ゴーカイジャー」で、1年間(変身後のシーンの)アフレコし続けていたので。
――なるほど、「ゴーカイジャー」でのアフレコ経験が重要だったんですね。
山田:うまいかどうかはわからなかったですが、自由に色々とやらせてもらっていたので、アフレコが好きだったんですよね。
あと、アニメなどを観ていると、「あ、これは誰々さんだ」ってわかるんです。
――絶対音感みたいに?
山田:ですね。実写で自分がやるお芝居でも、音はすごく気にしています。人が芝居臭いか否かをどこで判断するかって、個人的には“音”が重要だと思っているんです。本物の音じゃないと芝居臭く感じるかなと。
本物の音を自分が表現するためには、本物の音を覚えておくのが大事だなと思っていて、例えば、自分が本気でブチギレた時の音。自分が本気で泣いている時の声とか。自分ってこんな声出るんだ。こんな笑い声なんだ。こんな顔するんだ。そういうのを日々観察してインプットしているので、今があるのかもしれません。
――なるほど、日々の生活のなかで、意識的に積み重ねているからこそですね。では次に、ハービー検事という役についてお聞きしたいです。以前のインタビューで山田さんは「キャラクターの内面、考え、背景を読み解いて演じる」とおっしゃっていましたが、今回のハービー検事はどのように読み解きましたか?
山田:今回、ハービー検事という男は、自分の意図を見せないように振舞っていると感じました。アーサーを誘導したいのか、思いっきり有罪と認めさせたいのか、どうなのか……そして製作側は、ハービー検事の意図が観客に伝わらないように作っているのかもとも思いました。
この「ジョーカー フォリ・ア・ドゥ」という作品自体も、妄想なのか現実なのかわからないような作品構造ですよね。だから僕としては、正直、最後の最後までハービー検事というキャラクターがわからなかったんです。
冷徹かと言われるとそうではないし、ただ仕事をしているだけ。ときに余裕もみせる。でも何を考えているかわからない……。(声を演じるうえで)この「わからなかった」ままの声の質で良いように思ったんです。もちろん、声のお仕事させてもらううえでの“距離感”は守りつつ、「何にも見えてこない」方も面白いなあ、と思って演じていました。
●アカデミー賞俳優ホアキン・フェニックスのすごさとは? プロの俳優の見解が聞きたい
――ありがとうございます。次に、ホアキン・フェニックスについてお聞かせください。ホアキンの演技のすごさとは、プロの俳優からみてどこにあると感じますか?
山田:すごくコアな部分ですけど、いいですか?
――もちろんです、まさにそこの言語化を聞いてみたいです。
山田:ホアキンさんは目のカットだけで、なにか感じさせるものがあると思っていて。あれって、本気で、ここから(胸をドンと叩いて)思ってないと、ああいう目にならないんですよね、きっと。
そして「ジョーカー」のなかでの笑い――呼吸が難しい、けど笑ってしまうような――も本物に見えますよね。あれを「やろう」と思ってもなかなかできるものではなくて、普通はやりすぎちゃってお芝居臭く見えたりしてしまうものだと思うんです。 そこを本当に「絶妙にリアルな位置」に落とし込んでいるのがすごくて。(カメラの前の演技力だけではなく)微細な人間観察力がないとできないなと。僕がホアキンさんについて語るのもおこがましいですが、そういった能力が本当に長けているんだと思います。
あとは、もう普通に「生きているだけ」だと思うんですよね。あの現場で台本を読んで、普通に生きているだけ、みたいな感じがします。生きているだけなのに(あそこまでの芝居を)できているのが本当にすごいです。
――撮影現場のその瞬間だけではなく、撮影前からの観察力。演じるうえで「役作り」は基本的な部分だと思いますが、その基本的な部分が「達人級」に極限まで高まっていることが真骨頂だということですね。最後に、「ジョーカー フォリ・ア・ドゥ」で山田さんが刺さったポイントを教えてください。
山田:このジョーカーは特別だなと感じます。今回も前作も、セリフとして「誰も見てないじゃないか、僕のこと」というジョーカーのセリフがあります。そこが肝だと思うんです。外見やイメージだけで「あの人こうだよね」と判断しがちな世の中で(民衆からの注目を集めるジョーカーが「誰も僕を見ていない」と言うことに)僕はそのセリフが強く刺さりました。
――貴重なお話をありがとうございました!