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池松壮亮、AIが進化する世界を描く「本心」は「自分の物語だし、同時代を生きるわたしたちの物語」

映画.com 2024年10月10日 21時4分

 平野啓一郎原作の長編小説を池松壮亮主演、石井裕也の監督・脚本で映画化する「本心」の完成披露上映会が10月10日、東京・TOHOシネマズ六本木ヒルズで行われ、池松壮亮、三吉彩花、水上恒司、妻夫木聡、田中裕子、石井裕也監督が出席した。

 本作の舞台は、デジタル化が進み、“リアル”と“バーチャル”の境界が曖昧になった近未来。急逝した母が実は“自由死”を望んでいたことを知り、その母の“本心”を知るためAIを駆使したバーチャル・フィギュアとして彼女をよみがえらせるが……というヒューマンミステリーだ。

 本作の企画は、新聞に連載されていた平野啓一郎の原作を池松が読んだところから始まった。「読んだのは2020年。ちょうどコロナで、人と会うのも難しい時期でしたが、その時期にたまたま原作と出合いました。コロナのことは原作には書かれていなかったんですが、どこかアフターコロナのことが書かれていたような気がしたんです。これから自分たちがこの暗闇の中からどこに向かうのか。描かれているのは、今ある問題が拡張した近未来の世界でしたが、それがあまりにもインパクトがあって。原作を読んで、これは自分の話だし、同時代を生きるわたしたちの話でもあると思って。これが映画にできたらなと悩み、考えていたんですが。個人的な思いから映画をつくる、というのはなかなか勇気がいることなのですが、駄目もとで石井さんに読んでくださいと提案しました」と経緯を明かす。

 一方の石井監督も「AIとか、AIに対面する心の問題というのは、人類喫緊の問題というか、今考えなきゃいけないテーマだと思うんです」と感じていたそう。「人類の知恵を超えるAIということにばかりフォーカスされていて。そうした現実にさらされた時の人の心がどうなるのか。人間の尊厳がどう保たれるのか、といったことはほとんど話し合われていないと思って。皆さんの中にも潜在的に不安と恐怖があると思うんですが、そういうことが、小説として見事に書かれていたものですから。映像作家として、映画監督として、今すぐ立ち向かわなきゃいけないテーマだなと。そういうことに目を付けた池松君はさすがだなと思いました」と決め手を語る。

 そして劇中では“三好彩花”役を演じている三吉だが、その役名を紹介されると場内からは思わず笑いが。そのリアクションに「そうですよね……。わたしもそういう気持ちですが」と笑ってみせた三吉は、「脚本を読ませていただいた時に運命を感じざるを得なかったというか。生涯、作品に携わる中で、こんな運命的な出合いはほぼないだろうなと思い、ご縁を感じました。本心を探求しながらも、だんだん迷子になったり、壊れていったりする部分を描く中で……。ちょうど撮影も去年の夏ごろに行われたんですが、自分自身も、自分の本心って何だったんだっけ? 何が楽しくて、何がしんどいのか、ということにさまよっていた時期だった。自分自身にとっても、女優としてのキャリアにおいても、必要な脚本だなと思いました」と振り返った。

 そしてあらためてこのキャスト陣との共演について質問された池松は、「AIとはここから10年でどう共存していくか、ということになっていくでしょうし、撮影時には、アメリカでは(俳優と脚本家の)ストライキが起こったりしました。やはり目の前に突きつけられている問題に対して、問題意識をもった俳優の方々が、それぞれのパートで責任をもって演じている姿があり、皆さんが神々しく映っていました。本当にそれぞれの方がベストなお芝居をされていると思います。その辺を堪能していただければ」と訴えかけた。

 石井監督も「AIというモチーフがあるからこそ、重要なのは俳優の身体性というか、お芝居ですから。そういう意味では本当に心から信頼できる方、心の底から出演していただきたい俳優さんにしか声をかけていないし、これを言うとご本人は嫌がるかもですが、レジェンドである田中裕子さんにVF(バーチャル・フィギュア)役でご出演いただいたというのは、ありがたかった。それによって他の俳優にもいいムードが伝播して。最高のチームだったかなと思います」と誇らしげな顔を見せた。

 「本心」は11月8日から全国で公開。

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