「佐々木、イン、マイマイン」が高評価を集めた内山拓也監督が日本、フランス、韓国、香港合作で手がけた商業長編デビュー作「若き見知らぬ者たち」の公開記念舞台挨拶が10月12日、東京・新宿ピカデリーで行われ、内山監督をはじめ、主演の磯村勇斗、共演する岸井ゆきの、福山翔大、染谷将太が出席した。
父の借金返済と難病の母の看病という重くのしかかる家族の問題と、自身の人生の狭間でもがき苦しみながら、ささやかな幸せを掴もうとする男の姿を描き出す。内山監督が構想を8年間も温め続け、脚本も兼ねるオリジナル作品で「僕自身もヤングケアラーとして長い時間を過ごした。その経験から、いまの世の中を見つめようとした」と作品に込める思いを語った。
そして、「見過ごされる人は確実にいる」とし、「そんなたったひとりに向けて作りました。こうした気持ちや目線を持ち続け、発信できればと思う」と映画製作に対する決意を新たにした。キャスティングについては「大切にしているのは、人として向き合えるか」だといい、「ぜひ、ここにいるキャストの皆さんに拍手をいただけると幸いです」と渾身の演技を披露した出演者をたたえた。
鬱屈とした人生を強いられる主人公・風間彩人を演じた磯村は、「自分自身も過去に理不尽な経験をしているので、作品が持っているテーマが自分に共鳴した。いい脚本に出合えたし、内山監督の作家性にも惹かれた」と、感慨深げにオファーを回想。「映画はまだ完成していない。完成させるのは、見てくださった皆さんです。ぜひ監督にも拍手を送ってください」と、“共闘”した内山監督の労をねぎらった。
岸井は彩人の恋人・日向を繊細に演じ「日々いっぱいいっぱい。感情を我慢するのが大変で、挫けそうになったが、皆さんに助けてもらった」と感謝の言葉。彩人の弟で総合格闘技の選手とリングに立つ壮平を演じた福山は、「約1年間、総合格闘技の選手に必要なスキルを学んだ」そうで、「肉体で語るべきシーンが多いので、単純にうまくなればいいわけではなく、思いのひとつひとつを拳に宿さなければいけなかった」と、役作りへのこだわりを語った。
染谷が演じる大和は、彩人とは高校時代のサッカー部仲間で、1児の父親となった彩人の親友という役どころ。磯村とは初共演だが「お芝居に始まった瞬間に、何もしなくても、自然に親友という空気がそこに流れて『この人、昔から知っている』という気持ちにしてくれた。鳥肌が立ちました」と称賛の声。磯村も「まったく一緒(の気持ち)ですね。特にお互い、プランを話すこともなくて」と振り返っていた。
【あらすじ】
風間彩人(磯村)は、亡くなった父の借金を返済し、難病を患う母の介護をしながら、昼は工事現場、夜は両親が開いたカラオケバーで働いている。彩人の弟・壮平(福山)も同居し、借金返済と介護を担いながら、父の背を追って始めた総合格闘技の選手として日々練習に明け暮れている。息の詰まるような生活に蝕まれながらも、彩人は恋人・日向(岸井)との小さな幸せを掴みたいと考えている。しかし、彩人の親友・大和(染谷)の結婚を祝う、つつましくも幸せな宴会の夜、彼らのささやかな日常は、思いもよらない暴力によって奪われてしまう――。